悪役令嬢の私は、婚約者とヒロインの恋を成就させたので婚約破棄を申し出ました〜なのに、婚約破棄されない!?〜
温故知新
第1話 前世を思い出した私は、断罪回避に動きます
「アーノルド様……いや、アーノルド王太子殿下。私、レイナ・カーフェインとの婚約を破棄していただいてもよろしいでしょうか?」
卒業パーティーの少し前。
人払いを済ませている応接室で私は、目の前で優雅にソファーに座っている婚約者アーノルド様に婚約破棄を申し出た。
「それは、どうしてか聞いてもいいかな?」
金髪碧眼の見目麗しい顔で優しい笑みを浮かべるアーノルドに、私はローテーブルの下でドレスをギュッと強く握った。
「それは、私の口から申し上げた方がよろしいでしょうか?」
そう言って、アーノルド様から隣にいる義妹ミナに視線を移す。
銀髪でスカイブルーの瞳に整った顔立ちの私とは違う、ストロベリーブロンドで空色の瞳をした可愛らしい顔立ちのミナ。
すると、私の視線に気づいたアーノルド様が隣に視線を向けると、彼女に対して愛おしげな笑みを零した。
そして、ミナもまたアーノルド様を見つめると幸せそうな笑顔を向ける。
「っ!!」
2人の仲睦まじい姿に、私は小さく下唇を噛んだ。
もう何度も見ているし、これは私が断罪回避のために全力でお膳立てした結果。
そう頭では分かっているのに、仲睦まじい2人を見る度にどうしようもなく胸が痛くなってしまうのは、それだけ悪役令嬢が攻略対象のことを好きだったからだろう。
学園に入学する直前、高熱で魘された私は前世の記憶を思い出した。
今生きている世界が、前世でやり込んでいた乙女ゲーム『精霊の愛し子は、国を救う』の世界で、自分がヒロインのことをとことん苛める悪役令嬢だということを。
「ミナとアーノルド様と結ばれるのは、この国の習わしで確定しているようなものだから、私がミナを虐めなければいい話なんだけど、万が一にでもシナリオの強制力で私がミナを虐めたと噂が広まったら……!?」
『精霊の愛し子』に危害を加えたとして断罪され、国外追放されるか処刑されてしまう!!
この世界は、人と精霊が共存している。
特に、王族や貴族の大半は『火・水・風・土・光』のどれかの精霊の力を借りることが出来る。
そして稀に、全属性の精霊を借り受けることが出来る『精霊の愛し子』と呼ばれる人間が生まれる。
それが、乙女ゲーのヒロインであるミナ。
ミナは、幼い頃から精霊の声を聴くことが出来る特異体質で、平民のミナが貴族しか通えない学園に通っているのは、精霊の力を正しく扱えるようにするため。
これを指示したのは、ミナを保護した王家である。
体調が回復してすぐ、自室の机でノートを広げて記憶を整理していた私は、走馬灯のように流れた数多のバッドエンドに気絶しそうになった。
「ゲームでは、天真爛漫で素直なミナにアーノルド様が惹かれ、それに嫉妬したと私がヒロインを排除しようと、取り巻きを使ってあれこれ嫌がらせをして虐めた」
ん? でもよく考えたら、婚約者が他の女と浮気しているのを許せるかと言えば許せない。
それも、幼い頃から婚約者として仲良くしている相手なら尚更。
ということは、悪役令嬢がヒロインにしたことは、婚約者を持つ令嬢として至って普通のこと……でもないわね。
浮気相手だからといって、命を奪っていい理由にはならない。
「う~ん、どうすれば……そうだわ!!」
ペンを置いた私は、名案を思いついたとばかりに両手を叩いた。
ヒロインと殿下が結ばれることは決まっている!
それなら、悪役令嬢である私が、前世の記憶を使って全力で2人の仲をお膳立てすれば良いじゃない!
それも、断罪回避出来る穏便な方法で!
「だけど、2人をお膳立てしつつ、断罪回避出来る穏便な方法って……あっ」
そう言えば、ゲームでは悪役令嬢が断罪された後、ミナは我が家の養子に迎え入れられるのよね。
「だったら、殿下とヒロインが出会いイベントを済ませた後、彼女を我が家の養子として迎え入れ、ゲームではヒロインに会うたびにネチネチと礼儀作法を指摘していた私自らが、ヒロインに淑女教育を施せば……」
もちろん、前世の記憶を使って2人の仲を陰で深めさせないといけない。
その上で、精霊の愛し子であるミナを私の手で立派な淑女に仕立て上げれば、周りの貴族達は私よりミナの方が王太子の婚約者に相応しいと思うはず。
そうなればあとは、私が身を引く形で婚約破棄を申し出るだけ!
これで、穏便な形で婚約破棄出来て、断罪も回避される!
「ウフフッ、我ながら何と完璧な計画なのかしら!!」
頭の中で断罪回避までのシナリオが完成し、嬉しさのあまり悪役令嬢らしく口角を上げた。
でも、そんなこと気にしていられない。
権力と見栄が大好きな両親なら絶対に乗ってくれるし、養子先が由緒ある我が公爵家ならば王家も納得してくれる!
ちなみに、ゲームではヒロインの身元引受人は彼女を保護した王家が担っていたが、ヒロインと殿下が結ばれるためにカーフェイン公爵家が養子として引き取った。
「どちらにしても殿下とヒロインは結ばれ、私ら婚約破棄される。ならば、全力で2人をお膳立てして、みんなが納得する形で婚約破棄しようじゃない!」
こうして私は、断罪回避のために2人を全力でお膳立てしようと動いた。
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