24 旅行してる場合じゃない。
「これはもう明らかに旅行してる場合じゃないよな……」
「そうだね」
俺と明希は、深く深く頷き合っていた。
まずは状況を整理しよう。
寺の一角でチャラ男二人にナンパをされかけていたダニエラ。一対二では分が悪いと思い彼女が困っているところへタイミング良く現れたのが、異世界で彼女のメイドとして働いていたサキという怪力の少女だった。
彼女がやって来た理由は、この世界へと飛ばされてきたダニエラと再会するため。……そして異世界から魔道具とかいうものを使ってわざわざ渡ってきて、異世界からダニエラが落ちてきた場所……すなわち俺の自宅へ辿り着いたサキは、ダニエラの姿を追い求めてここまで辿り着いた。
……俺が目にしたものとざっくりとサキの話を合わせてまとめると、つまりこういうことらしい。
正直言って信じられないし、信じたくもない。だがダニエラが認めてしまっている時点で紛れもな事実なのだろう。頭が痛い。
しかも、
「魔道具で渡ってきたということは、この世界へ来たのはサキ一人だけではないということでよろしいですわね?」
「はい、もちろんでございます! イワン様は転移先のお家に置いてきました」
「嫌ですわ。お兄様とは絶対に二度と会いたくありませんでしたのに……」
ダニエラのお兄様とやらまでこの世界に現れたらしいのである。
「なあダニエラ、そのお兄様っていうのはどんな人なんだ?」
恐る恐る聞いてみると、ダニエラから返ってきたのは「ごめんなさい。思い出したくもありませんわ」という一言だけだった。
妹なのであろうダニエラにさえそう言わせる人物だ、少なくともまともな人間ではないに違いない。そんな奴が俺の家に今もいる。
考えただけでゾッとした。
「えっと、あなたがセイヤ様ですか? うちのお嬢様がお世話になってます。それでイワン様についてですけど、あの人はすごくかっこ良くて頭が良くて優しい最高の人なんです! きっとあんな素晴らしい人はこの異世界でもいませんっ! だからご心配は無用ですよ!」
キラキラした笑顔で言うサキだが、初対面の彼女に言われても全然信憑性がない。
だから俺も明希もダニエラを信じた。
「本当は新キャラなメイドちゃんの堂々たる登場にワクワクしたいところだけど、ダニエラさんのお兄さんが誠哉の家にいるっていうんだったらさすがにちょっと心配かも。せっかくの旅行が台無しになるのは残念だけど、誠哉、一回帰ったほうがいいんじゃない?」
「どうやらそうらしいな」
明希の言う通り、さすがにダニエラのお兄様とやらをこのまま放っておくわけにはいかない。
旅行から帰ったら見知らぬ男がいた、なんてことになったら両親が仰天することは必至だ。最悪警察沙汰になる。そう考えると、一刻も早く俺ただけで帰るのが妥当だろうと思えた。
今日一日だけでも充分楽しめたし、ゴールデンウィークの家族旅行はきっと来年もまたある。とにかく今優先すべきことは一つだ。
「……仕方ない、帰るか」
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