23 ナンパ男を倒したメイドは異世界人だった。
「ダニエラお嬢様、やっと見つけた! ご無事でしたか!?」
「――サキ? どうしてここに」
「そうですお嬢様わたしです!! お嬢様が異世界行っちゃってわたしもイワン様もとってもとっても心配したんですからっ!」
嬉々とした様子でダニエラに抱きつくメイド服の少女、少し困り顔になりつつもそれを受け入れるダニエラ。
それだけでわかったのは、二人が少なくとも顔見知りであり、さらに親しい間柄に違いないということだ。
だが俺の知る範囲では、メイド服のコスプレを好む変人はダニエラの友人の中にいない。そもそも、ファンはいるもののダニエラに友人らしい友人は俺や明希くらいしかいないのだが……。
ということはつまり、メイド服の少女も十中八九ダニエラと同郷なのだと思う。おそらく二人の関係は見たままでお嬢様とメイドだったのだろう。
だが納得がいかない。なぜダニエラのメイドがこの世界、しかもこの場所にいるのかということだ。
ダニエラは故郷を追放されて、日本へ飛ばされてきたはずである。そんなにぽんぽんと異世界人が飛ばされていいものだろうか……?
「あのー、お取り込み中のところ悪いんだけど」
なんと声をかけていいかわからずに黙り込んでいた俺とは違い、状況を察した明希はすぐにダニエラとメイドの間に割り込んだ。
なかなか度胸あるなぁと思う。つい先程あのメイドにチャラ男二人がぶっ飛ばされたのを目にしたところだろうに。
「……あなた、誰ですか? まさかお嬢様のお命を狙う下手人!?」
そして案の定メイドが拳を構え、戦闘体制に入る。
物騒だな、本当に。
「違いますわ、サキ。彼女はワタクシの知人ですのよ。ヒビノアキ様とおっしゃる方ですわ」
「……えっ、そうなんですか。お嬢様、異界の人間とお知り合いに? 騙されているのではないですか!? 異界は恐ろしい者ばかりでございます。この世界にやって来てから何度武器を持った男たちに追い回されたことか」
「ああ、それ多分警察だと思う……。
ごめんね、突然喋りかけちゃって。私は日比野明希。ダニエラさんの味方だから安心して。あなたはダニエラさんの従者で異世界人ってことでいいのかな? 大好きなお嬢様のことが心配過ぎて安全を確かめるためにわざわざ異世界に渡ってきたとか?」
「そうです、全くもってその通りなのです! アキ様とおっしゃいましたね? そこまでご存知ということは本当の本当にお嬢様と親しいご様子。先程の無礼、どうぞお許しを……!
サキと申します。お嬢様の専属メイドをさせていただいております」
ようやく戦闘体制を解いたメイドが頭を下げた。
その拍子にメイド服が揺れ、ちらりと太ももが覗く。思わずそれに視線を向けそうになる衝動をグッと堪えつつ、三人の会話についていけない俺はただじっと彼女らの様子を見守っていた。
「アキ様はワタクシがこの世界で住まうにあたって快適であるように手伝ってくださった恩人でもありますわ」
「本当ですか!? そんな方に無礼を働いてしまうなんて……!」
「いいよいいよ。サキさん、よろしくね。
誠哉、こういうわけだから。もう観光っていう雰囲気でもないし、サキさんの話を聞くためにも宿に行こっか」
俺はよくわからないままに頷いた。
せっかく寺にやって来たというのにろくに見て回れなかったのは残念だが仕方ない。
それに明希の言う通り、新しい異世界人が現れた以上は詳しく事情を聞かなければならなかった。うまく無難な形に収まってくれればいいのだが、そううまくいくだろうか?
胸に不安を抱えたまま、俺たち――ちなみに帰りはメイドがダニエラを引き受けてくれたので明希と手を繋ぐだけで済んだ――は両親が待っているであろう宿に向かって歩き出したのだった。
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