25 悪役令嬢のイケメンお兄様は超シスコン
そんなこんなで、両親を旅行先に置いたまま俺たちだけでひと足先に旅を終えた。
帰りに電車に乗ったのだが例のメイド……サキがやたらうるさくて周囲に白い目で見られていたのとダニエラの髪色が珍しいのか指を差されまくっていて、俺は気が気ではなかった。それでもどうにか帰り着くことができたので良しとしよう。
そして最寄りの駅に着いた俺たちは走って佐川家へ向かう。
だが、どうか何も起こっていませんように……という俺の祈りは、どうやらもう手遅れだったようだ。
俺の家だったはずの場所は、もはや俺の家ではなかった。
建て直したのかと言いたくなるほど、ガラッと改造されていたのである。ごくごく普通の一軒家から、見たこともない豪邸へと。
そしてその中から当たり前のような顔をして出てきた男が一人。
薄茶の髪に、ダニエラと同じ鮮やかなスカイブルーの瞳のイケメンだ。身長は俺より二十センチ以上は高いかも知れない。程よくついた筋肉、テレビに出ても違和感のないくらいの美顔であった。
いや、それでは言葉が不足か。少なくともリアルではこんな容姿の整った男は未だかつて出会ったことがないくらい。
「イワン様!」
サキが黄色い声を上げ、彼に駆け寄っていく。
――だが。
「ダニエラ、探したぞ。見知らぬ世界に送られて辛かったろう。だがもう安心だ。私がお前のことを守ってやる。たとえその命に変えてもだ。だがダニエラ、その隣の男は一体何なんだ? 私はそんな男の話など聞いていないぞ。私の許可なく別の男と喋るなと何度言ったら……」
その男はサキをまるでこの世にいないもののように無視し、ダニエラの元へ一直線へ歩いてきながら物凄い勢いで捲し立てた。
そのあまりの勢いと内容、そして常識はずれさに俺は絶句する。
なんだ、この男は。人の家に勝手に上がり、それだけならず改造までしておいて、ダニエラしか見ていない。
彼がダニエラの兄であることに間違いはないと確信したが、絶対に仲良くなれる気がしなかった。
どうやらそれはダニエラも同感のようだ。
「お兄様、お会いしとうございませんでしたわ。護衛役は間に合っておりますの。メロンディック王国に帰ってくださる?」
「なんてことを言うんだ、我が妹は。そうか、照れ隠しか。お前は可愛いなダニエラ。だがそんなのは必要ない。お前と私の心は通じ合っているのだからな。
私はただお前が心配で仕方なかった。その男に襲われていたりはしないだろうな? 残念ながらメロンディック王国まで帰る手段はないんだ。今日からここで共に暮らそうではないか」
「ワタクシが『嬉しいですわ』と答えるとでも思っていらっしゃるのかしら? 死んでもお断りですわ」
人でも殺せそうな鋭い視線で兄を睨みつけながら言うダニエラ。
しかし彼女の兄が動じる様子はなく、「さあ行こう」と無理矢理彼女の手を引いて消えようとする。
「ねえ、ちょっと待って」
そこへ声をかけたのはやはり明希だった。
「何だ。私と我が妹の憩いの時間を邪魔する奴は」
「その家の持ち主の隣人です。人の家に勝手に上がり込んで好き放題。何ですか、その態度は! いくら異世界人とて許容できません。ダニエラさんとの過ごしたいならよそでどうぞ。とりあえず誠也の家を元に戻して」
「ここは私とダニエラの二人で愛を育むために魔改造した屋敷だ。まあ、メイドは雇うがね。邪魔者は君たちの方だろう」
ごく当然のような顔で言って、腕にダニエラを抱き寄せたシスコン野郎。
それからしばらく彼と明希の激しい論争が続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして数十分後。
シスコン野郎にダニエラの住処はここではないと伝えて、やっと帰ってもらうことができた。
嫌がるダニエラは無理矢理シスコン野郎とメイドのサキに連れて行かれてしまったが、まあなんとかなるだろう、多分。
……罪悪感はあるが仕方ない。異世界人たちの揉め事は彼ら同士で解決してもらうのが一番だ。
幸いなことに佐川家は元に戻してもらうことができたので、それで良しとする。
「やっと納得してもらえたよ……」
膝をついてため息を漏らす明希に、俺はなんと答えていいかわからなかった。
悪役令嬢のイケメンお兄様がシスコン過ぎて、ろくでもない未来しか見えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます