21 迷子になったら人攫いに会いましたわ。
「……まったく、セイヤもアキ様もどこへお行きになりましたのかしら」
ワタクシは苛立ち半分呆れ半分でため息を漏らしておりました。
異界送りにされ、祖国であるメロンディック王国からこの世界……ニホンへと飛ばされてきたワタクシ。現在はこの地で知り合ったセイヤとダニエラ様と共に旅行中なのですが、ふと目を離した隙にお二人の姿が消えてしまいましたの。
ワタクシ、この世界のことはまだよく知らないんですのよ?
しかもセイヤはワタクシの護衛。護衛になることを自ら認めていたではありませんか。なのに主たるワタクシの元から離れるなど、どういうつもりなのでしょう。信じられませんわ。
やはりきちんと雇用した方が良かったですわね。彼を信頼したワタクシの判断が間違っておりましたわ。
……と、恨み言をいつまでも言っていても仕方がありません。
とりあえずお二人と合流しなければ、ワタクシ、帰路につけなくなってしまいます。彼らを探すことが今ワタクシがやらなければならないことですわ。
「アキ様、セイヤ! どこにいらっしゃいますの」
ワタクシが着ているのと同じワフク姿の人々を押し除け、ワタクシは歩きます。
ああ、これがいわゆる迷子というものですのね。メロンディック王国では常に側に侍女や護衛がおりましたから、迷子になるなんて想像もしたこともありませんでしたけれど……迷子はなかなかに辛いですわね。
などと考えていると、突然声をかけられました。
「よぅ姉ちゃん。そこで何しているんだい」
一度も言葉を交わしたことがないどころか顔を合わせたことすらない見知らぬ男がワタクシの目の前に立ち、いやに馴れ馴れしく話しかけてきたんですの。
はっきり申しまして不敬、不潔、不快。元婚約者であったグレゴリー殿下よりも嫌悪感を抱かせる殿方なんてこの世に存在しないと本日まで思っておりましたが、それは誤りだったようですわ。
最初は無視して通り過ぎようとしました。しかし彼はワタクシの行く先を阻み、仕方がないので方向転換をしようとするとおそらく男の仲間なのであろう別の男が嫌な笑みを浮かべながらにゅっと顔を出してきましたの。
「ダンマリとはいただけないなぁ、姉ちゃん。オレらと遊びに行こうぜ?」
これはあれですわ。人攫いというやつですわね。
お忍びで街に出た下級貴族の令嬢がこういう輩に狙われ、誘拐された上で身を汚されたという話は度々耳にしたことがありました。ワタクシが今対面している彼らはきっと、この世界での人攫いなのでしょう。誘い方といい殿方なのに髪をボサボサに伸ばした格好といい、随分とお下品ですこと。
この世界はどうやら己の身分を弁えていない男が多いようですわね。
「――お黙りなさい。ワタクシを誰と心得まして?」
「なんだ、姉ちゃん。オレらに喧嘩売ってんのか?」
「ワタクシはダニエラ・セデカンテ。これ以上ワタクシに近づいたらただじゃおきませんわよ」
そう言いつつもワタクシは内心で非常に焦っておりました。
なぜって、一人ならまだしも二人もの殿方にワタクシ一人で敵うとは思えませんでしたもの。せめてセイヤが傍にいれば……と思い、静かに歯を食いしばった、その時でしたわ。
「うちのお嬢様に何してくれてるんですかっ、この痴れ者どもがぁぁぁ――!!!」
今度は、ひどく聞き覚えのある声がワタクシの鼓膜を震わせましたの。
そして次の瞬間に颯爽と現れたのは、我がセデカンテ侯爵家のお仕着せを着た少女でした。
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