20 静かな神社で二人きり。

 その神社は隣の寺の喧騒が嘘のように静かだった。

 と行っても無人というわけではなく、寺に寄った帰りらしき人影はちらほら見える。


 神社はいかにも古そうな見た目をしていて、御神木がやけに大きかった。


「威厳がある感じがするな。なあ明希、どうしてわざわざここに来たんだ? 道すがらに神社はいくつかあっただろ」


「そうなんだけどね。……実は、私、誠哉が毎年旅行でこの辺りに来るって聞いた時、いつか一緒に来ようってずっと思ってたの」


「何か特別な神様が祀られてたりするのか? オタク界隈では有名なところだったり?」


「まあそんなとこ。さぁさぁ、早くお参りしに行こ?」


 明希に連れられ、ひっそりとした鳥居を抜けて真っ直ぐに向かったのはお賽銭箱。

 賽銭を入れた後は手を合わせ、一応祈っておく。


 俺とほぼ同時に祈り終えた明希はなぜかニヤニヤしていた。


「おーい? 神様の前で何かろくでもない妄想でもしてたんじゃないだろうな」


「そ、そんなわけないでしょ。ただちょっと、ね。誠哉こそどんなお願いしたのよ?」


「何の神様かわからないから、『これからできるだけ穏やかな毎日が過ごせるように』って無難な願いにした。まあ無理だとは思うけどな」


「ふーん。聞いてくれるといいね、神様」


 上機嫌にそう言って、「次、お守り買いに行こう!」と俺を置いて一人先に行ってしまう明希。

 俺はダニエラのことが気になったが、明希を残してダニエラのところに戻るわけにもいかず、結局彼女の後を追ってついていった。


「……ダニエラ、迷子になってなきゃいいが」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 などと言いつつも、明希との神社参りはかなり楽しかった。


 お揃いのお守りを買って、御神籤を引いて、神社に売っていたスイーツをお土産に決めて……。

 こうして二人きりで過ごせる時間が随分と久しぶりだったからかも知れない。隣を歩いていると、まるでデートをしているような変な気分になる。


 神社独特の静けさのせいでもあったし、今日の明希が着物姿で色気ムンムンだからこそそんな風に思ってしまうのかも知れないが、俺は特別な時間に感じた。


 ……昔ならこんな距離、当たり前だったのにな。


 俺と明希は生まれた時からずっと一緒だった。

 幼少期から男友達とつるむのがあまり好きではなかった俺、そして今と違って当時は極度の人見知りでろくに話せなかった明希。だがお互いにだけは心を許せたし、どんなことでも話せた。二人だけの秘密の場所だってたくさん作った。


 その関係性は今でも変わらない。いや、それは正しくないだろう。側からは変わらないように見えるだろうが、わずかに変化はあった。

 俺たちは今、十代半ば。思春期と呼ばれる年頃だ。同年代で異性な幼馴染なんて、一体どう接していいのかわからなくなってしまうのである。家族のようで家族ではない、何とも言えない存在だからだ。

 だから俺は近年、明希と遊ぶことをしなくなっていた。登下校は共にするし昼食時だって一緒だが深く干渉しようとしなかった。そんな俺の態度を察してか、明希も話しかけてくることが少なくなっていたかも知れない。


 でも、こうして手を繋いで歩いていると、グッと心の距離が縮まったような気がした。幼い頃の日々が蘇ってくるようで懐かしい。

 明希は一体どんな気持ちでいるのだろうか。隣をチラリと伺ったが、ニヤニヤし続けている彼女の真意はわからない。ただわかるのは、明希が心から楽しそうな笑顔を見せているという事実だけだった。

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