19 恋人繋ぎで人気スポットを歩いてみる。

 ――これって恋人繋ぎってやつだよな?


 俺は表面上平静を保っていたが、内心ではいつになく動揺していた。

 右にダニエラ、左に明希。それだけならまだしも、なんと二人ともといわゆる恋人繋ぎをしているのである。恥ずかしいやら周囲の視線が気になるやらで観光どころではなかったが、約束してしまった以上観光案内しなければならない。

 はっきり言って苦行だった。


「ああもうクソ、明希め……」


 俺は隣でニコニコしている明希を恨めしく思った。

 そもそも、恋人繋ぎをしたいと言い出したのは彼女なのだ。どういうつもりか知らないが、俺の手をがっしり掴んできて、こう言うのである。


「ふふっ、なんだかデートみたいだね。こうして一緒にお出かけするのって久しぶりですっごく嬉しい。……せっかくだからさ、手とか繋いじゃったりしない?」


 それから色々あって、二人と恋人繋ぎで観光地を巡ることになったわけだ。

 母には散々揶揄われた。「それが明希ちゃんのよく言うハーレムってやつなのかな?」などと楽しそうに言うが、俺はハーレム主人公になれないしなるつもりもさらさらない。というかダニエラのような美少女の中の美少女はもちろん、どちらかと言えば可愛い系に分類される上に社長令嬢でもある明希と付き合えるはずがないだろう。

 だが、ならばこの状況は何なんだとも思う。

 二人とも俺をそんなに困惑させたいのか?


 ……などと考えているうちに、温泉街を抜けて俺たち―― ちなみに母は小さな雑貨屋に寄り道していて別行動中。現在俺とダニエラ、明希の三人だけである――はいつの間にか寺の前までやって来ていた。

 着物を着た外国人でごった返しているこの寺は、日本人なら誰もが知っている観光地の大人気スポットだった。


「うわー、すっごい! テレビで何度も見たことあったけど実物はだいぶんインパクトが違ってびっくりだよ」


「これがセイヤの言っていたテラですのね……。教会とは似ても似つきませんわね。興味深いですわ」


 ダニエラは正門の両側に座す仏像に関心を持ったらしくそちらへ駆け寄っていき、一方で明希はというと今まで以上に俺の手をぎゅっと握って離さない。

 そして、


「ねぇ誠哉、あっち行こ?」


「おい、どうしたんだよ明希!」


「いいから」


 俺の腕を強引に引いた明希は、ダニエラのいる門の方とは全く反対方向へと走り出す。

 何が何だかわけがわからぬままについていくしかない俺。いくら抗議しても明希が足を止めることはなく、寺の脇にあった神社の中へ。

 そこでやっと立ち止まった明希は言った。


「……ごめんね。誠哉と一緒に旅行したのなんて初めてだからさ、ダニエラさん抜きで二人で来たかったんだ」


「どうして」


「私と二人じゃ、嫌?」


 そう言って小首を傾げる彼女に、俺は小さく息を呑む。

 ――なんだ、この可愛さは。ただでさえ色っぽい着物姿でそんな仕草をするなんて反則だろう。


 そして気づいたら頷いていた。


「ちょっとだけだからな」


「ありがと、誠哉!」

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