18 着物も似合い過ぎる悪役令嬢
車でさらに数時間、俺たちはようやく目的地に到着した。
昔ながらの家々が立ち並ぶ、良く言えば雰囲気のある、悪く言えば古臭い街並み。
ここは大人気観光地として古く知られる場所。旅館と温泉、そして神社やら寺やらが有名なスポットである。通りには着物を着た外国人らしき男女が溢れ返っていた。
「連休とだけあって人が結構多いんですね」
「そうなのよ。着物に温泉に、風情があっていい街でしょ?」
俺の背後を歩く明希と母がペチャクチャと喋っているのが聞こえる。
観光好きな母は良く喋る。毎回それに付き合わされるのが結構大変なのだが、今回は明希に任せられそうで安心だ。俺は気軽に旅行を楽しめる。
……と言いたいところだが、さらに厄介な人物がいるのでそうもいかない。それは、俺と触れ合いそうな距離で隣を歩き、街並みに目を輝かせるダニエラである。
「この場所の名前はなんと言いますの?」とか「あの店は?」などとあちらこちらを指差して言ったり、挙句の果てには路地の隙間に入って行こうとしたり。
母と同等……いや、それ以上に厄介だった。父はただニヤニヤとしているだけで俺の力になってくれるわけでもない。というか、何が面白いのだろうか。
などと考えていると、ダニエラはまたもや俺に質問してきた。
「セイヤ。あの服装は何ですの?」
着物のことを言っているらしい。
彼女が次に発するであろう言葉を予想しながら俺は答えた。
「ああ、あれか。あれは和服っていうんだ。着てみたいんだろ?」
「その通りですわ。あれほどに美しい衣装、着ないと損というものでしょう? 庶民のセイヤにそれが買うことができるかは不安ですけれど」
「大丈夫だ。買うんじゃなくてレンタルするつもりだから。もうすぐ着物屋に着くと思うぞ」
「え、ほんと? 私たちも着物着るの? なら私は桜色がいい!」
「ワタクシは青色のものだと嬉しいですわ」
先ほどまで母と話していたはずの明希がグッと身を乗り出して叫び、ダニエラも楽しげに希望の色を言う。
俺は一体どんなものを着ようかと悩んでいるうちに、着物のレンタル屋に着いたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして数十分後。
俺の目の前には、着物姿の少女が二人いた。
一人は、濃紺の和服を纏い、青い長髪をお団子で結い上げたダニエラ。そしてもう一人は某有名アニメの和服コスプレをした明希である。
ダニエラの美しいうなじが俺の男としての本能を誘い、そして明希のなんとも言えない着物独特の色気が俺に襲い掛かる。
若草色の袴の中で、俺の息子が元気になるのを感じたが、必死に耐えた。
「セイヤ、似合っておりますかしら」
「私、磨けば光る女なんだよ。普段地味だからって舐められちゃ困るんだから!」
「……二人とも綺麗だ。すごく」
特にダニエラなんかは元々の素材がいいので破壊力が半端ない。
明希の言う悪役令嬢は西洋ファンタジー風な世界観の生物だと聞いていたが、和服も全然似合う。いや、似合い過ぎた。
「明希ちゃんもダニエラちゃんも可愛いわね〜」
「誠哉、気をつけろよ。うっかりしたら彼女を二人とも掻っ攫われるかも知れないぞ」
おばさん臭い着物を着た母が少女二人をほめる一方で、地味な襦袢姿の父はろくでもないことを言っている。
そもそも二人とも俺の彼女でも何でもないのだが、俺は言葉に詰まった。
なぜなら先ほどいやらしい思いが芽生えてしまったことを否定できないからだ。
そんな俺に助け舟――本人は全然そんなつもりはないのだろうが――を出したのはダニエラだった。
「ワフクも着られたわけですし、早速この街を案内してくださいませ、セイヤ」
「わかったわかった。じゃあ、行くか」
「あ、私も案内してほしい!」
「明希もかよ。母さんに案内してもらえよ」
「誠哉がいいの!」
両手に花、とはこのことなのだろうか。
俺の両脇を挟むようにして擦り寄ってくるダニエラと明希。俺は二人に挟まれ、俺みたいな野郎にこの刺激はきついと思いながら小さくため息を吐いた。
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