17 家族旅行のはずが、なぜか悪役令嬢と幼馴染までついてきた。
ゴールデンウィーク。
珍しく家族全員――俺、父、母の三人が共に過ごすことができるため、佐川家では毎年家族旅行に出かけることが決まっている。
家でぐぅたらすればいいじゃないかと俺は思うのだが、母が旅行好きなので仕方がない。そんなわけで今年も三人で旅行する……はずだった
だが、
「実は今年、私の家族が諸々でゴールデンウィーク丸ごと家を空けるらしいんだよね」
アポなしでずかずかと俺の部屋へ上がり込んで来た明希が言った。
「……それで?」
「私みたいなか弱き乙女が一人で留守番とか危険でしょ? だから私も連れて行ってもらおうと思う。いいよね?」
「は?」
「あ、ちなみにおばさんからの許可はもう取ってるから。ってことでよろしく」
いやいや、ちょっと待て。
いくら幼馴染と言えど図々し過ぎやしないだろうか? しかもうちの母親に許可をもらっているとは……。うちの母親は明希のことを俺以上に可愛がっているからな。それを知っていて頼むとは卑怯な奴め。
「それとだけどさ」
「今度は何だ?」
「私がこの話をしたらダニエラさんも行きたいって言ってたから誘っておいたんだけど、大丈夫かな?」
俺は絶句した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大丈夫なわけないだろう、とか何考えてるんだ、とか。
色々言いたいことはあったが俺に反論する余地は残されておらず、気づいたら俺の両親にはすっかり話が通っていたらしく、さらには「大勢の方が楽しいものね〜」などと母は言う。
しかし明希はともかく、ダニエラの同行なんて不安要素しかない。
異世界人だとバレてしまったらどうするんだということが一つ。それと彼女に振り回される未来しか見えないということがもう一つ。
だがもう決まったことは決まったことだと皆が言うので、俺は諦めた。後はどうにでもなれ、と思った。
そんなわけで今年の旅行は俺たち佐川家三人、日比野明希、ダニエラ・セデカンテによる五人で行くことが決まったのである。
――そして旅行先に向かう車内でのこと。
「一体この
「……そうだな」
「何、その気のない返事。どうせならもっと楽しまなくっちゃ。ねぇ、ダニエラさん?」
「アキ様のおっしゃる通りですわ」
俺の気も知らないで、と言いたい気分でいっぱいになりつつ、ペチャクチャと喋って盛り上がる女子たち。
運転しているのはうちの母。父はその隣で大音量でラジオを聴いている。二人ともダニエラたちの話は聞こえていないようで少しだけ安心した。
「今から行くところは毎年行っている場所だから、観光案内くらいは俺にでもできると思う」
「セイヤが案内してくださるのでしたら安心ですわね」
ふふっ、と楽しげに笑うダニエラ。
その笑顔は悔しくなるくらいに美しかった。俺は思わず目線を逸らし、ああと言って頷いた。
「誠哉、なんか顔赤いけど?」
「そんなことない。いちいち気にするな」
「もぅ、勝ちヒロインになるのは私なんだからね? いくらダニエラさんでも誠哉は渡さないから」
「いや、俺いつ明希のものになったんだよ」
明希が不服そうな顔をし、ダニエラは何が何だかさっぱりわからないと言いたげに首を傾げていたが、これ以上相手にしないことにする。
そうしたらどうせすぐに女子トークでも始めるだろう。車窓の外に広がる新緑の景色を眺めながら、ぼんやりとそう考えたのだった。
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