3 同年齢で異性な俺の幼馴染。
その後、俺は不安ながらもダニエラを一人自宅に残し、高校へと向かいつつ考えを巡らせていた。
おかしい。どう考えてもおかしい。
髪を染め、コスプレのドレスを着て、わけのわからないことを言っているだけの妄想癖の強い少女というならまだ納得できる。
だが彼女はどう見ても日本人ではなかったし、何よりの違和感はその口元にあった。言葉は通じているのに、口の形が日本語のそれと全く違うのである。英語を喋っているような口の形。なのに聞こえてくるのは日本語。
少なくとも俺の知る限りでは、喋った言葉がそのまま翻訳されるというような技術はこの世にはないはずだった。
ダニエラに訊くと、懐から妖しく光る宝玉のようなものを取り出し、「兄が開発した魔道具です。これで異国の人とも話せますの。いざという時のため常に持ち歩いていたのが幸いしましたわ」などと言っていた。
もちろん嘘っぱちという可能性もある。だが俺にはどうにも彼女の言っていることが本当に思えてならない。
「……だからと言って異世界からやって来たとかいう冗談みたいな話を信じるのもなぁ」
「おはよー! あれれ、どしたの誠哉?」
「おっ、明希」
校門に入る寸前、急に声をかけられたので驚いて振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。
ちょっとぶかぶか気味のセーラー服を着た彼女の名前は
ラブコメの設定みたいだと誰もが思うだろう。俺もそうである。そして明希はそのことを喜び、「幼馴染でも勝ちヒロインになるんだもん!」とよくわからないことをいつも言っているような人物だ。
ちなみに俺たちは幼馴染という以外には特別な関係ではない。
「……あ、そうだ。明希、なんか俺今大変なことに巻き込まれようとしてるかも知れないんだけどさ、多分お前好みの案件だからちょっと手伝ってくれよ」
「なになに? パン咥えて走ってたら可愛い女の子と激突しちゃってドキドキな恋の予感? それとも美少女な転校生に会って運命を感じたちゃったり!? やだどうしよ、私負けてらんないじゃん!」
「違えよ。そんなこと実際あるわけないだろ。
って言いたいんだが、それと同レベルのことなんだ。実は、な――」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の幼馴染、日比野明希はいわゆるオタクという人種である。
青春ラブコメやロボットアニメ、果ては異世界ものまで。アニメならどんなジャンルでもどんとこい、そんなアニオタ女子なのだ。
そんな明希なら、俺が拾ったあの少女をなんとかしてくれるのではないか。少なくとも俺にとっては理解不能なダニエラの話を理解できるのは明希しかいないと思う。
なので放課後、ダニエラを明希の家に連れて行くことにした。
その日の授業はあまり手につかず、帰宅部の俺は早々に帰った。
家に入るといつもは無人のリビングから人の気配がある。間違いなくダニエラだ。リビングでじっとしていろと言った俺の言いつけを一応守っていてくれたらしい。
俺はリビングに入った。
「ダニエラ、帰って来たぞ」
「おかえりなさい。ところでサガワ様、この家にメイドはいらっしゃらないのかしら。いつまで経っても紅茶が出されないのですけれど」
「は?」
ソファに優雅に腰を下ろし、窓の外を所在なげに見つめていたダニエラは、俺を見るなり冷ややかな声でそう言った。
どうして帰って来るなり早々文句を言われなければならないのかがわからない。これも彼女が自称異世界人だからだろうか?
「メイドなんているだけないだろ、ここはメイド喫茶じゃあるまいし」
「あら、異界にはおりませんのね。サガワ様は貴族とお見受けしたのですけれど、そもそもメイドがいないのなら仕方がありませんわ。失礼いたしました」
「ちょっと待ってくれ。俺は貴族でもなんでもない。言っただろ、ただの平凡な高校生だって。庶民だよ庶民」
「まあっ、そうでしたの?」
何が意外なのか驚いた様子のダニエラ。
だが驚いたのは俺の方だ。まさか貴族と間違われるなんて思いもしなかった。
貴族、か。
もし本気で言っているとしたら、やはり彼女は異世界人なのか、それとも中世の世界からでもやって来たのか……?
「ダニエラ。君について来てほしい場所がある」
「……一体どこですの、その場所は」
「俺の幼馴染の家だ。俺よりも君の話がわかるかも知れない人だから」
「わかりましたわ」
ダニエラはすんなり頷いてくれ、日比野家へ同行してくれることになった。
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