1 ある日、青髪の少女が家の前に落ちていた件。
例えば、道端で倒れている人を見かけたら普通はどんな行動を取るだろうか。
助け起こす? 交番まで連れて行く? 否。そんなのは全部お人好しのやることだ。
大多数の人間は見て見ぬ振りをする。そして俺自身も同じだろう。
しかしそれは『道端で』という前提条件と、『特に興味を引かれなかったら』という但し書きの上で成り立つこと。
家の前で、見知らぬ青髪の絶世の美少女が倒れていたら話は別だ。
そして今俺は、そんな珍奇な場面に遭遇していた。
その少女は、カツラかと思うような真っ青な髪を地面に広げ、仰向けになって横たわっていた。
閉じられている瞼を飾るまつ毛は長く美しく、男を誘惑したいとばかりに輝くルビーの唇はうっすらと開かれて甘やかな吐息を漏らしている。
眠っているのだろうか、気絶だろうか。彼女は全く身動きする様子がなく、死んでいるかのように思える。細身を包む濃紺のドレスがひらひらとそよ風に靡いていた。
「誰なんだ」
俺はここに来てようやく我に返り、小さく呟いた。
俺は今、いつも通りに高校に通うため家を出たところだった。そして玄関ドアを開けた先で少女を発見し、こうして見下ろしているというわけだ。
やっと脳が状況を理解し始めた。しかしまだ問題が山積みである。一つは、なぜこんな美人が俺の家の前で倒れているのか。それから少女の奇抜過ぎる容姿について。
ロングの青髪、透き通るような白磁の肌、いいところのお嬢様でも着られないのではないかというくらい一眼で高価だとわかる、あらゆる装飾を施されたドレス。
「誰なんだ、一体」
繰り返して呟くが、もちろん少女からの答えは得られない。
立ち尽くしていても埒が明かない。ひとまずは彼女の目を覚まさせ、話を聞こうと俺は考えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しかし五分後、俺はまだその場にいた。
なぜなら青髪の少女が全く目を覚ます気配がないからである。先ほどからうんうん唸ってはいるのだが……。
このまま放置して寝かせておくのはまずい。だがもうすぐ学校に行かないと遅刻する。俺は頭を抱えた。
もちろん考えはある。彼女を俺の家に連れ込むのだ。でもそれはかなり問題がある。あり過ぎる。一応うちは両親と一緒に暮らしているとはいえ、共働きで今は家にいない。つまり、男一人の家に若い女の子を連れ込むという、非常にやばい事態になわけだ。
彼女いない歴=年齢な俺にはハードルが高い。
気の知れた仲ならともかく、初対面というか相手は俺のことを認識してすらいない。目を覚ましてから変態呼ばわりされたらどうしよう。でも、放置するわけには……。
思考は堂々巡りして、答えに行き着かない。
しかしいつまでも悩んでいたら時間がやばい。仕方ない、こうなったら男を見せようではないか。
そうして俺は覚悟を決め、少女を拾い上げることにしたのだった。
そこまではいい。そこまではいいが、その直後、俺の前に更なる難問が立ちはだかった。
少女を家に連れ込む方法である。まさか両腕を掴んで引きずるなんて乱暴な方法はダメだ。となるとお姫様抱っこすることになるわけで。
見知らぬ少女を、お姫様抱っこ。
「クソ。クソクソクソ!」
少女をこの場に置き去りにしたい衝動をグッと堪え、目を固く固く瞑った俺は『それ』を腕に抱え上げ、家の中へと戻る。
柔らかな感触が胸に当たる。考えるな。腕の中で何かがモゾモゾ動く。考えるな考えるな考えるな――。
「……失礼ですが、あなた、一体どちら様ですの?」
「ぎにゃあ!?」
珍奇な悲鳴を上げ、思わず俺は尻餅をついてしまった。
なぜなら『それ』――抱えていた少女がむっくりと起き上がり、彼女の顔が息のかかるほど近くにあったのだから。
これが彼女と俺の衝撃的な出会いになった。
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