ある日、追放された悪役令嬢が俺の家の前に落ちていたので拾ってみた。〜異世界人たちのせいで俺の平凡な高校生活は終了する!?〜
柴野
プロローグ 婚約破棄? 追放? 上等ですわ。
――ああ、とうとうその日が来たようですわ。
ワタクシは栄えあるメロンディック王国の名門侯爵家の長女として生を受け、今まで比較的不自由ない人生を送っておりました。
しかしそれも今日で終わり。いつか訪れるとは思っておりましたけれど、やはり国王陛下が不在の本日でしたね。
「ダニエラ・セデカンテ侯爵令嬢。よくも私の愛するコニーを害そうとしたな。貴様との婚約を破棄するッ!」
ホールに響く、愚かな王太子殿下の声。
あんな大声を出して恥ずかしくないのでしょうか。正直、正気を疑いますわ。
他の何もかもダメな中でお顔だけはよろしいというのに、その美貌を全て無駄にして不恰好にワタクシに指を突きつける男は、他ならぬワタクシの婚約者――いえ、たった今まで婚約者であった方です。
さすが
ワタクシはじろ、と鋭く殿下を睨みつけると、言いました。
「殿下が今、腕に絡ませているその女性のことなら、確かに邪魔っけには思っておりましたわ。しかしワタクシが彼女を傷つける、ましてや暗殺しようとした事実はございませんことよ。きちんとした調査もなさらないでこのような公の場で断罪しようなどと、仮にも王太子であるお方がなさる所業とは思えませんわね。ご乱心なさいましたの?」
「ええい、うるさいっ! そうやってすぐ言い逃れしおって」
「グレゴリー様。わたし、とっても怖かったんですぅ……」
ワタクシに見せつけるように殿下にしなだれかかり、はしたなく甘える泥棒猫女。コニーとかいう平民上がりの男爵令嬢だったでしょうか。
王太子はすぐに彼女を庇い、「ほら!」と言ってワタクシに威嚇してきます。何が「ほら!」なのか、理解に苦しみますわ。
「コニーを苦しめる女は許せない。貴様はきっと悪魔か何かなのだろう。
よって、貴様の貴族籍を剥奪の上、異界送りの刑に処す!」
ああ、もうこれ以上この茶番に付き合っているのが面倒臭くなって参りました。
どうせ何を言っても、この暴君王子が聞き入れないのはわかりきったこと。こうなったらいっそ、今まで溜め込んできた分も敵意を剥き出しにしたって構いませんわよね?
「婚約破棄? 追放? 上等ですわ」
ワタクシは美しく微笑んで見せました。
「この十年間、せいぜい愚かなあなたの伴侶となるため、努めてまいりました。それだけではなくワタクシはこれでもあなたを愛そうと努力していましたのよ?
先に裏切ったのは殿下なのです。乙女の十年間を無碍にした罪、軽いとは思わないでくださいませ。
異界送りでも何でもなさればよろしいのですわ。もう殿下のお顔を見るのも嫌ですもの」
この際、不敬罪などどうでも良かったのですわ。
七歳の時に王命によりグレゴリー王太子殿下との婚約が結ばれてからというもの、ワタクシがどれだけ苦労したか。思い出すだけで辛い日々をこの方は、塵ほども理解してくださらなかった。
そんな方にどうして敬意が払えると言いますの? 少なくともワタクシには、無理なことでしたわ。
「さようなら、殿下。どうぞたっぷり後悔なさってください」
「そんな偉そうな口が聞けるのもここまでだ。衛兵、この無礼な女を捕らえよ!」
殿下の命によって衛兵がゾロゾロとやって来て、ワタクシの身柄は乱暴に取り押さえられます。
本当にこの国は腐り切っていますわ。殿下がおっしゃったとはいえまだ正式には身分を剥奪されておらず、ましてや罪を犯した確証もない侯爵令嬢を捕縛するなど正気の沙汰ではございません。
まあ今更文句を言うつもりもありませんが。
さようなら、メロンディック王国。
きっとこの国にはもう二度と足を踏み入れることはないでしょう――。
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