第31話 囚われ少女R

「あれ?」


 突然現れた白蛇は何故か不思議そうに首を傾げた。いや、身をよじらせたと言った方がいいだろ

う。


 瞼をぱちぱちと瞬かせて、不思議そうにこちらを見ている。


「どうかしましたか?」


 先輩の声。


 背中越しで表情を伺うことは出来なかったが、どんな表情を浮かべているかは想像が着いた。


 あれだ、意地の悪い顔をしているはずだ。


 白蛇はそんな先輩の表情にむっとしたようだった。


「なにしたの? ぜんぜん力が使えないんだけど」


「はて? 私達はなにもしていませんよ。ただもともとこの家ではあなた達の力が使えないようになっているだけです」


「ええっ? なにそれ、そんなことできるなんて聞いてないよっ!」


「おめでたいですね。私達はあなたが生まれる前からあなた達と戦っているんですよ? なにも対策をしていないと思う方がおかしいのでは?」


「むー、なんだよなんだよ。つまんないなー。結局宣戦布告だけじゃん。わざわざこなくてよかったなー」


 あーあ、といって白蛇は身を翻す。


 そのままどこかへ滑るように移動を始めた。


 と。


「いぎゃあああああっ!」


 火花が散った。


 何もない空間を通り抜けようとした白蛇はたまらず、激しく身をよじる。絶叫が鼓膜を揺らし、巻き上がる白煙が視界を遮った。


 肉の焦げた臭いに思わず鼻を押さえた。


「このまま帰すわけがないでしょう? さっきもいったじゃないですか。私達はずっと昔からあなた達と戦ってきた。こんな時のためにの備えは十分にしてあるんですよ」


 先輩の声が聞こえているのかいないのか。


 白蛇は絶叫を上げたまま空中で身をよじっている。


 白い体躯には黒い焦げが浮かび、真っ赤な血潮が溢れている。


 その様子があまりに痛々しい。


 幼子の声のせいなのか、それとも人間くささを見てしまったせいなのか。


 思わず同情してしまった。


 それがいけなかった。


「あ」

 

 迫る牙。


 走馬燈というものが本当に見えることをおれは初めて知った。ていうか、このタイミングでおれを狙うか普通。そんな他人事みたいな感想が頭に浮かぶ。反面、体は動かない。


 全てがスローモーションで近づいてくる。何もできないままただ時間だけがすぎることを認識して、


「甘い」


 弾かれた。


 そうとしか言えない。


 見えない壁のようなものに激突した、んだろうと思う。そのまま蛇は壁に叩きつけられた。何が起きたのか。後ろから抱きついているカンナを見ると少し得意げな表情を浮かべていた。


「どう? 頼りになるでしょ?」


「あ、え、ああ。ありがとう」


「どういたしまして」


 ふふん、とカンナは笑う。どうやらカンナが何かしたらしい。何をしたのかはわからなかったがとにかく助かった。


「そこ、いちゃいちゃしないでください」


 ぴしゃりと先輩から注意を受けた。その上、亜衣がおれたちをぎろりと睨みつけている。カンナはそれを気にせず、というかむしろ挑発するように舌を突きだした。


 いや、今そんなことしてる状況じゃなくね?


 そう言いそうになったが、胸にしまっておくことにした。直感的にこの二人の間に入るのはまずいと思ったのだ。


 いや、もともとどっちにも頭が上がらないだけなんだが。


「さて、あなたにはいくつか選択肢があります。一つはこのまま私達に祓われること、もう一つはこのまま私達に拉致監禁されること。そして最後の一つは」


「あなた自身が己の間抜けさを呪いながら、私達の飼い犬に成り下がること。好きな選択肢を選んでください」

  

 どれでも結果は変わりませんから。

 そう、先輩は言葉を締めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る