第18話 レオンという男 弍
なにもかもわかっているように言っているくせに何もわかっていない。
そんな胡散臭い教師のような言葉に近い響きに内心辟易する。獅子のような(というか獅子そのものの)外見のおかげで不快感は少し薄れているが、それでもおれが嫌いな人種であることだけはわかった。
「随分、上から目線で言ってくれるじゃねえか」
「そんなつもりはない。が、そう感じたのならば、それは私の責任だ。もともと言葉を飾るのが苦手でね、君らの言語にもまだ慣れていないんだ。その点を考慮してほしい」
「…あっそ」
すげーな、こいつ。
自分の非を認めたような口ぶりをしているが、最終的におれに折れろと言ってやがる。
「さて、貴殿の返答がまだだが?」
「寝言は寝てから言え」
「ふむ、何故だ?」
心底不思議そうに言う。
どうやら本気でおれたちと思考回路が違うらしい。
「おれたちになんのメリットもない。大体そんな簡単にやめられねえんだよ」
「君にも理由があるというわけか」
「当たり前だ」
「それは世界を滅ぼすに足る理由になるものなのか?」
言葉に詰まった。
随分と痛いところを突いてくる。
鎧のせいで表情は見えないはずだが、レオンはおれの内心を見透かすように目を眇めた。
「やはり言葉が通じるじゃないか」
「対話がしてえなら、この鎖を外せよ」
「残念ながら私達は臆病なんだ。君を自由にするにはまだまだ対話が足りないな」
この野郎…ッ!
言っていることがいちいち癪に障る。
無理矢理にでも鎖を外そうともがいても、姿勢すら変えることが出来ない。レオンはそれすらも興味深そうに見ていた。
「なるほど、君は無駄なことが好きなんだな」
「っとにムカつくな、お前!」
「そう怒らないでくれ。対話にもならないじゃないか」
からかうでもなく、淡々と。
煽っている自覚もないのか心底不思議そうに首を傾げている。言葉が通じるからといっても会話になるとは限らない。
恐ろしいことにそれを感じているのは向こうも同じようで、興味深そうにおれを見つめながら困惑しているようにも見えた。
「ふむ、やはり正気を失っているのか?」
「うるせえ!」
もがくのにも疲れ、叫ぶしかなくなった。
本当にわけがわからない。
こいつらは一体何がしたいんだ?
「ほら、わかっただろ。こいつとあんたらじゃ会話にもならねえんだ。あたしに任せとけばいいんだよ」
したり顔で言う凛子。しかし、
「だまれ。貴様の言うことは信用できん」
何故かレオンは険しい表情で凛子を睨みつけた。
「はあ? 今更何言ってんだ、お前」
「これまで幾度も対話の機会はあった。だが、貴様の口車に乗ったせいで一度も対話できず、彼らのことを知ることも出来なかったのだ。今回は我らのやり方でやらせてもらう」
「この対話厨が! 言っただろ、こいつと話したって意味がねえんだよ!」
「それは我らが判断することだ」
一触即発。
こいつらの仲が悪いことだけはわかる。というか、凛子のやつが完全に孤立しているのがよくわかなかった。
「さて、対話の続きだ」
「かんべんしてくれよ…」
「君にも理由があるのはわかった。だが、我々とて黙って滅ぼされるわけにはいかん。そこで、だ」
「この世界の他に二十の世界の座標を伝えよう。それをもって我らの世界を滅ぼさぬと盟約を結びたい」
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