第17話 レオンという男
でかい男だった。
凛子と並ぶと大人と子供以上の背丈の差。2mを優に超える巨漢に何故か側頭部に耳がついている。金色に染まった鬣が緩やかなウェーブを描いている。僅かに回復した視界で捉えたその人物は獅子そのものの顔つきをしていた。
獣人。
周囲を取り囲んでいた亜人の一人である。
ていうか、日本語しゃべれんのかよ。
内心で浮かんだ思いが舌に乗らない。突っ込みを入れようにも突然の展開に鈍った脳みそがついてきてくれないのだ。
「離せよ。黙って見てるって約束だったよな?」
「ああ。貴様が我らの味方でいるうちはな」
「…そりゃどういう意味だ?」
「自分の胸に聞け」
凛子を押しのけるように、大男はおれの前に進み出た。
よく見れば猫のようにも見える。動物園でみたライオンのような粗暴さはなく、むしろ飼い猫のように毛並がいい。表情にも険がなく、顔立ちも整っているため(実際はどうなのかわからないが)不気味さよりも凛々しさが勝っている。
男は一礼してから、話しかけて来た。
「はじめまして、鎧の装着者よ。私は、レオンという。突然のことに驚かれていると思うが、まずは非礼を詫びさせていただきたい」
「…今更すぎだろ」
「貴殿の言い分は正しい。が、我らも生存が掛かっていた。その点は理解していただけると思うが」
「…なんだと」
「五度の星殺し。貴殿の悪名は世界を股にかけて轟いている」
あまりに堂々とした物言いに、おれ自身何も言えなくなった。
レオンの言葉は正しい。
すでにおれは5回星殺しを実行している。どうしてそれを知っているのかはわからなかったし、今はどうでもいい。問題なのはそんな危険人物をどうして生かし続けているのかということだ。
「なんでおれを殺さない」
「彼女の目的と同じだ。我らは鎧に用があった」
「なら、おれを殺してから剥ぎ取ればいいんじゃないか?」
「貴殿が死ねば鎧だけが消える。貴殿の死体が残っても意味がないからな」
ああ、だから凛子はおれを殺さなかったのか。
別に良心なんかに期待はしていなかったが、ここまで明確な理由があるとも思っていなかった。
こいつらの目的は徹頭徹尾鎧にある。
「だから痛めつけたってか?」
「その点は間違いなく我らの間違いだ。大変申し訳なかった」
「は?」
「鎧の装着者が正気を保っているとは思わなかった。言葉が通じるのであれば、対話をするのは当然だろう」
何言ってんだ、こいつ。
おれは目の前の男が正気なのかを疑った。
あるいは人間に近く見えるだけで、というか、人間にも見えないのだから、思考回路や倫理観が著しく異なっているのかもしれない。
けれど凛子の表情を見て確信した。
この男は本気で言っている。
証拠に、凛子は呆れるほどうんざりとした顔をしている。あれは正論にうんざりした人間が見せる表情だ。
「我らと彼女は協力関係にある。君らが敵対関係となっていることも理解している上で言わせてもらう」
「もうこんなことはやめにしないか?」
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