第11話 カンナは全てを見通した

「カンナのやつ、何言ってんだ?」


 自室でベッドに横になること五分。


 先ほどのやり取りを頭の中で幾度も反芻したが、カンナが何を言いたかったのかがまるでわからない。


 どうもおれが知らないことをあいつは知っていて、それがなんだか許せないらしい。しかも、何故か怒りの矛先が先輩に向かっている。


 本当になにがなんだかわからない。機嫌をとろうにも理由がはっきりしていないのだ、何をすればいいのか見当もつかなかった。


 結局、カンナから話を聞かなければ何も進展しない。


 だからこそ無駄に同じことばかり考えてしまう。


 全てが自分で完結することが出来ればどれだけ楽だろう。カンナが言ったことの意味がはじめからわかれば、どれだけ楽か。


 それが出来れば、先輩に対して何をすればいいのかもわかるのかもしれない。


 くだらねえ。


 そんなありえないことを考えている自分が嫌になる。


 起き上がり、部屋を出る。


 いい加減待つのにも飽きた。カンナの様子を窺おうと忍び足で階下へ向かう。もう十分近く過ぎている。さすがに洗い物も済んでいる筈だ。


「あれ?」


 人の気配がない。


 ガラス戸を開けるとテレビが点きっぱなしの居間。見慣れた光景の中にカンナの姿がなかった。


 テーブルにはおれの食器が残っており、台所の方を見ても誰もいない。流し台をみればカンナの分の食器が水に浸されてはいたが、洗い物をした気配すらない。


「カンナ?」


 呼びかけても返事がない。


 二階に来た気配はなかった。トイレにも電灯はついていない。風呂場にでもいったかと期待したが、こちらも灯りがついていなかった。


 だとすれば、


「なんであんたがいんだよっ!」


 外だろうか、と考えたところで全身が硬直した。


 声は玄関口から聞こえた。しかし、玄関に続く廊下に灯りは灯っていない。間違いなく外に誰かがいる。


 最悪なのは今の叫び声が良く知る人物のそれであることと、それがカンナではないこと。


 思わず自室へ戻ろうかと思ったが、流石にそれは人間としてどうなのかと思い直す。なによりこのままだとご近所からの家の評価が相当おかしくなるのは間違いない。


 だが、この場合おれはどちらにつけばいいのだろう。


 彼女達が決定的に対立していることは理解しているし、自分の立場もわかっている。かといってカンナには夕飯をご馳走になった恩もある。


 恩と義理の板挟み。


 一瞬ためらったが、覚悟を決めて廊下を進み、玄関の扉を開けた。


「このままだと、カズマは死ぬわよ」


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