第5話 なんか空気悪い、悪くない?


「つまり、学校をサボってナンパをしていたんですね」


「違いますよっ!」


 時刻は午後四時半。

 テレビでは時代劇が流れ、赤い夕陽の光が室内に指している。神社からまっすぐに先輩の家に向かったおれは、お茶菓子を出される間も惜しんでさっきの出来事を話した。


 神社でのこと、凛子のこと、鎧のこと。

 ぽりぽりとポッキーをリスのようにかじりながら俺の話を聞いていた先輩は、開口一番とんでもないことを言う。表情にまるで変化がないため本気とも冗談ともわからず、おれは懸命に否定した。


「だから、なんでか鎧のことを知ってたんですよ。こう、なんか挑戦的な言葉も向けられたし」


「空耳の類ではないですか? 貴方が私達以外の女性とまともに話すことなんてできないでしょう?」


「そんなわけないでしょ!」


「じゃあ妄想ですね。そんな都合よくあなた好みのヤンキー系男前少女が現れるわけないじゃないですか。どうせ巨乳なんでしょ? いやらしい」


「ち、違いますよ! なに言ってんですか!」


 おれがいくら真面目に話してもなぜか先輩はまともに取り合わない。そのくせ、何故か凛子の特徴を正確に捉えている。

 おれの反応がよほどおかしいのか、こちらを見据える視線まで冷たくなっている気がした。


「とにかく、これっておかしいでしょ!」


「なにがですか?」


 先輩は真顔で言った。

 なにが、と言われて言葉が詰まる。

 そりゃもう色々おかしい。凛子が鎧のことを知っていたこと、カンナがなぜか先輩のことを敵視していたこと、突然の凛子の敵意。全部が全部突然過ぎてなにがなんだかおれ自身が理解していないのだ。


「いや、その、だって」


「確かに貴方は稀有な体験をしていますが、それが全世界で初めて体験したものだとでも思っていましたか?」


「え」


「知っている人は知っている。そもそも私みたいな小娘が知っていて、商売が成り立つほどマーケットが確立しているんです。同業者がいてもおかしくないじゃないですか」


 やれやれ、といった風情で先輩は肩を竦めた。

 それがまたわざとらしすぎて、妙に癪に障るというかなんというか。


「先輩、怒ってます?」


「はい。怒ってますよ」


 まさかの即答でまた何も言えなくなった。

 前に言いましたよね、と先輩は言葉を続ける。


「あの神社に行くなって言いましたよね。あそこはだめです、危険です、不謹慎です。あなたが近づいてはいけないと何度も忠告したはずですが?」


「いや、まぁ、でも昔から通ってましたし」


「ええ。私たちの家にも通っていましたよね。二股なんて今時の若者にしては随分と太い野郎だと父も言っていましたからね」


「二股って」


「とにかく、貴方は既にうちの人間になったんですから、今後は二度とあの神社には近づかないでくださいね。今更宗旨変えなんて許しません」


 言い訳は聞きませんと言わんばかりに睨まれる。

 いや、やっぱり表情は普段のそれと変わらないので睨んでいるといって良いのかわからなかったが、とにかくとんでもなく怒っているのだけはわかった。

 ん?

 いや、ちょっとまて。


「ていうか、もしかして、あれですかっ?」


「なんですか?」


「同業者って」

 

「ええ。彼女達も私達と同じ星食いですよ」

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