続・うちの子の方が可愛いです

「今度の休みの土曜日に真田君の家にお邪魔しても宜しいでしょうか?一緒にクローバーちゃんを連れて来るので、そこでどちらの飼っている子が可愛いのか雌雄を決しましょう。朝の10時にお伺いします。」


そんなことを源さんが言うもんだから、前の日から自分の日を片付け始めた俺。

とりあえず、せっかく女子を招くのだから掃除はしないと不味いだろうということで、ナースとチャイナ服物のセクシーなDVDは押し入れの奥に封印し、部屋の掃除をしまくり、何とか清潔感のある部屋に変貌させた。


「ゼーゼー、これだけ掃除すれば大丈夫だろう。」


気合を入れ過ぎて疲れ果ててしまって、その日は風呂に入るとすぐにベッドにイン。何故かマシロちゃんも俺のベッドに入って来てしまったが、俺もベッドに入るとすぐに寝入ってしまった。


「アンタ、起きなさい‼友達来てるよ‼」


ビビビビッとゲゲゲの鬼太郎の漫画の様なビンタを母から喰らい、人生史上最悪の起こされ方をした俺。ベッドの傍のデジタル目覚まし時計を見ると10時になっており、そういえば目覚まし掛けるの忘れていたと自分のウッカリを呪いたくなった。

上下グレーの寝間着姿だが、客人をこれ以上待たすわけにもいくまい。着替えている時間は無い。


「ニャー。」


俺より早く起きたマシロちゃんが、俺の体に擦り寄ってくる。朝から可愛さ全開だな。


「おはようマシロちゃん。」


そう言って俺は優しくマシロちゃんを抱っこして、二階の自室から一階の玄関に向かった。




「源さんおはようございます。お待たせして申し訳ございません。」


マシロちゃんを抱っこしながら俺は誠心誠意謝罪した。願わくば、このマシロちゃんの可愛さで俺の罪が許されることを願おう。

ちなみに今日の源さんは花柄の袖付きワンピースを着てオシャレであり、こんなことを言うと少し変態チックで嫌なんだが、なんだか良い匂いがした。

両手に猫用のキャリアバックを持っているので、その中に彼女が溺愛しているクローバーちゃんが入っているのだろう。


「お、おはようございます。朝からいきなり可愛さを見せつけてきますね。これは挑戦状と受け取っても宜しいでしょうか?」


しまった逆効果だった。なんだか源さんがワナワナと震えているよ。どうやらマシロちゃんの可愛さが火に油を注ぐ形になってしまった様だ。ごめんなさい。


「と、とにかく上がってよ。こんな所で立ち話もなんだからさ。」


「お邪魔します。」


とうとう俺の家にクラスメートの女の子が上がるという歴史的な事件が発生してしまった。俺は母さんのニヤついた顔を無視しながら、源さんと二階に上がった。




「片付いた部屋ですね。好感を持てます。勉強に適した空間ですね。」


僕の部屋を見るなりそう評してくれた源さん。そうでしょうそうでしょう。何せ昨日五時間かけて掃除したんだからね。昨日まで足の踏み場も無く、ゴミも散乱していたのは絶対に言うわけにはいかない。


「ニャー‼」


突然マシロが俺の手から離れスタッと床に着地。何をするかと思えばそのまま源さんの足にその体を擦り寄せ始めた。


「きゃっ‼いきなり可愛さの先制攻撃とは卑怯な‼」


源さんはそう言いながらもニコニコしている。やはり相当な猫好きなのだろう。体は正直である。


「ごめんねウチのマシロは人懐っこくてさ。コラッ、マシロ。すぐに人に自分の臭いを擦り付けるんじゃない。」


「ニャ?」


再びマシロを抱っこする俺。生娘の生足に体を摺り寄せるなんて、そんな羨ましいことをこれ以上させてはいかんのだよ。


「はぁはぁ、次はコッチのターンですね。クローバーちゃん君に決めた‼」


知らなかった。いつの間にかターン制のバトルになっていたらしい。

こうして息が乱れた源さんが猫用のキャリアバッグを床に置き、入口のファスナーを開けた。すると中から何も・・・何も出て来なかった。


「あ、あれ?ちょっと待って下さいね。クローバーちゃーんどうちたんですかー?」


どうやらトラブルが発生してクローバーちゃんが出て来ないらしい。まぁ、相手は猫だから気まぐれなのは仕方ない。

源さんはキャリアバッグの中を覗き込み始めた。


「あっ、いまちたねー。そんな所で縮こまってないでお外に出ましょうねー。」


「ミ、ミャー。」


キャリアバッグの中からか細い鳴き声が聞こえた。これは完全に警戒して出て来ないパターンだな。きっと別の人のお家に来て不安で仕方ないのだろう。クローバーちゃんは結構人見知りな猫なのかもしれない。


「こ、怖くないでちゅからねー、ほら、あんよが上手♪あんよが上手♪」


まるで赤子をあやす様にキャラも忘れて『でちゅ』とか言ってしまう源さん。俺はそのギャップに正直キュンとしてしまっている。


「ミャー。」


「はい、良いでちゅよー、ゆっくりで良いからコッチに来てくだちゃいねー。」


源さんの懸命な呼びかけのおかげでクローバーちゃんはゆっくりと前進を始め。俺はとうとうその黒くて愛らしい姿を見ることが出来た。

小さい体、目はクリっとして愛らしく、尻尾が鍵尻尾なのが特徴的だろうか?毛並みが良いので飼い主の源さんが如何にクローバーちゃんのことを大切にしているかが手に取るように分かる。


「ミ、ミャー。」


クローバーちゃんは、まだオドオドとしており、周囲を見渡しては、か細い声で鳴き続けている。そして・・・。


”シャ―――”


と音を立てながらクローバーちゃんはオシッコを盛大にお漏らしをしてしまった。


「きゃあああああああ‼すいません‼ク、クローバーちゃんに悪気は無くてですね‼」


ペコペコと平謝りの源さん。勿論俺にクローバーちゃんを責めようという気はサラサラ無く、ただ漏らしたのがフローリングのところで良かったなと安堵した。



クローバーちゃんのオシッコを綺麗に拭き取り一段落して俺と源さんがその場に座ると、源さんが再び謝って来た。


「本当にごめんなさい。飼い主である私の責任です。」


「良いですって。マシロもよく色んな所で盛大にオシッコしてましたから、こんなの慣れっこですし、初めての所に来たら緊張してお漏らししてしまうのも仕方ないですよ。なぁ、マシロ。」


「ニャー♪」


俺に抱っこされながら何故か誇らしげに鳴くマシロ。決して褒めて無いんだが、まぁ良いか。

コッチと同じ様にクローバーちゃんも源さんの腕に抱かれているが、その顔は俯いており、明らかに先程の粗相を気にしている様だった。

臆病な猫というのは居るだろうが、ココまでレベルになると何か理由がありそうだ。


「源さん、クローバーちゃんが臆病な理由に何か心当たりはありませんか?」


「はい、実はクローバーちゃんは捨て猫でして、私が近所の公園で段ボールに入って放置されていたのを見つけたんです。その時、酷く衰弱していて、体に虐待の跡もあって・・・。」


言いながら泣きそうになる源さん。当時のことを思い出して悲しい気持ちになってしまったのかもしれない。

俺の部屋に重苦しい沈黙が流れたが、それを破ったのはマシロだった。

マシロは俺の手から脱出し、一目散に源さんの方に向かった。そして抱かれているクローバーちゃんの体にそっと手を置き、撫でるような行動を起こした。


「ニャー、ニャ―」


もしかして「大丈夫だからね」と励ましているのだろうか?


「クスッ、マシロちゃんは優しい猫ちゃんですね。」


良かった。源さんが笑ってくれた。マシロの優しいファインプレーに感謝しているので、あとでチュールでも与えておこう。

そこから二匹の猫は俺達の手を離れて遊び始め、マシロはおろかクローバーちゃんまで楽しそうにじゃれている。一匹でも可愛いのに二匹になると可愛さ倍増である。とりあえず一枚写真でも撮っておくか。


「うふふ♪クローバーちゃん楽しそう♪マジ天使♪」


源さんも親バカが復活したのか、恍惚の表情を浮かべながらスマホで写真を撮っている。普段はクールで鉄仮面みたいな顔をしているが、今日は色んな顔を俺に見せてくれて、俺の中で大分印象が変わった。


「マシロもクローバーちゃんも楽しそうで何よりですね。」


「えぇ、真田さんには感謝しないといけません。あとクローバーちゃんもマシロちゃんも可愛いので今回の勝負はノーカンにさせて下さい。」


あぁ、そういえば可愛さ勝負とか言ってたな。色々あったからすっかり忘れてた。確かに二匹の可愛さは勝るとも劣らない。そもそも可愛いなんて概念は人それぞれ、初めから競うようなことじゃ無かったというワケだ。


「それで今日お邪魔させてもらったお礼として何かしたいのですが。何か欲しい物とかして欲しいこととかありますか?」


突然の申し出である。ここは「そんなことはしてもらわなくてもいいです」と言うべきなのだろうが、俺は自分に正直な男である。一瞬ナース服とチャイナ服を着た源さんが頭を過ってしまったが、流石にそんなお願いは出来ないと頭を振って、そんな邪な願いを誤魔化す為に咄嗟に出た願いがこれである。


「べ、勉強をするのを手伝ってくれませんか?俺頭悪いんで。」


俺はこんなことを言ってしまったのを後悔した。源さんの眼鏡がキラーンと光る。


「勉強良いですね。得意分野です。クローバーちゃんのおかげでメリハリが出来て、学年でも一位になった私にお任せください。」


これから源さんとの勉強漬けの毎日が始まり、俺の青春はほとんど勉強になってしまった。


「そこはこの公式を使うんです。この間教えたでしょ。」


「はい、すいません。」


源さんの教え方は結構スパルタで、勉強が終わるといつもヘトヘトになってしまうが、底辺だった学力は徐々に上がって来た。彼女の教え方が上手いのだろう。


「ニャーニャー」


「ミャーミャー」


俺達が勉強をしている横で猫達は無邪気に遊んでいるのを見て笑い、猫達が取り持ってくれたこの縁に俺は深く感謝した。



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猫縁~猫が取り持つ男女の縁~ タヌキング @kibamusi

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