第271話 疑いが確信へ


 story teller ~四宮太陽~


 月と二人、学校から家までの道を歩く。その道すがら話す話題は、やはり会議室での話になる。

 グループチャットにて、話し合いの内容や決定した事は共有されていたが、だからと言って今の状況で全く関係ない話を出来るはずもなかった。


「じゃあ俺は葛原に会うために大人しく音楽室に行けばいいんだよね?」


「うん。不安だけどそれ以外に選択肢はないよね。桜木先生もついて行くらしいけど・・・」


「葛原の事だから、教師がいたとしても大して驚かないだろうし、牽制にすらならないかもしれないけど、俺としては心強いからありがたいよ」


 心強いと言ったのは本心であるが、相手が葛原となると警戒を怠る訳にはいかない。それでも、隣を歩きながら不安そうな表情を浮かべている彼女を安心させるため、笑顔で話しかけながら、左手を月の頭に乗せ、その柔らかな髪を撫でる。すると、もう一日も終わりに近づいているというのに、シャンプーだかコンディショナーだかのいい匂いがふわりと漂い、俺の鼻をくすぐる。


「あとは、八代の件か・・・・・・」


 原田くんに関しては、彼が桜木先生たちとの約束を守り、家から出ないことを信じるしかない。だから今重要なのは、穴原を暴行した犯人が同じクラスの八代かどうかという事だ。


 同じクラスであり、友だち、とは言えないかもしれないが、顔見知りがそんなことをしているとは思いたくない。

 仮に穴原を暴行した人が同じクラスの八代だとして、彼が葛原と繋がっていて欲しくない。と言うよりも、葛原に利用されて暴行を働いていて欲しくない。原田くんのように、純粋な恋心を利用されている可能性もある。逆を言えば、恋心を利用されていた場合の方が、を解くのが厄介とも言える。

 八代という人物が自分の意思で葛原に協力していた方が説得かもしれないし、対応もしやすいだろう。


「私たちのクラスの八代くんが、だなんて思いたくはないけど、情報が少なすぎるよね」


 月も俺と同じように八代を疑いたくはないのだろう。心苦しそうな顔を俯かせてしまっているので、疑ってしまっている自分を責めているのかもしれない。


「今わかってるのって、明文って別人の名前を名乗ってるってことだけだよね?」


「うん。それと、バンドか何かの限定品のピアスを付けているってことかな」


「ピアス?」


「そう。ドクロのピアスをつけているらしいんだ。えっとね・・・」


 月はそういうと、スマホを片手で操作し、なんてバンドだったかな?と記憶を探るように独り言を口に出しながら何度か検索欄に文字を打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返す。

 そして、それほど長い時間をかけずに目当てのものが検索にヒットしたようで、これだ!と少し声を荒らげ、スマホの画面を俺に向けてくる。

 そこに映っていたのは、限定品とは思えないほどありふれた形のドクロのピアス。そのピアスが間違いなく限定品なのだと分かるのは、ドクロの下にバンド名であるアルファベットが3文字ほど小さく主張してくるからだ。


 待って。このピアスどこかで見たような・・・。


 月のスマホに表示された画像を見ながら顎に手を当て、自分の記憶を必死に辿る。そして思い出す。八代とぶつかった際に床に落ちたピアスが、だったと。

 ドクロのアクセサリーなんてこの世にごまんとある。疑いの心から、八代の持っていたピアスがこの限定品だったと勘違いしている可能性もある。だが、俺は覚えている。八代のピアスを見た時に、ドクロだけではなく、その下にあるアルファベットまで合わせてかっこいいと思ったことを。まさか、月には知られたくないと思っていた自分の感性が役に立つとは思わなかった。


「月。穴原を襲った八代って人物は、間違いなくこのピアスを持ってるんだよね?」


「うん。私は実際に見たわけじゃないけど、穴原さんがそう言ってたの」


 穴原は暴行される以前から、葛原関係で八代と接触していた。であれば、穴原の言葉に嘘はないだろう。

 世界中ならいざ知らず、俺たちの周りで、同じ限定品のピアスを持った八代という苗字の人、しかも歳も俺たちと同じくらいの人が2人もいる可能性は低い。だから、俺の中での八代への疑いは確信に変わっていた。


「月。・・・・・・月はクラスメイトを疑いたくないだろうし、同じクラスの八代が穴原を暴行したとは思いたくないだろうけど・・・・・・」


 そう言って足を止め、俺が穴原を暴行した八代=同じクラスの八代であると確信したことを話す。

 月は俺の話を聞いて驚き、そうなんだと納得したような返事を返してきたが、それでも、どうか別人であって欲しいと願うように目を閉じ唇を噛んでいる。彼女の優しさが見て取れ、俺の心も更に苦しくなった。


 ******


 story teller ~原田幸祐~


 家から出ては行けない。そう思えば思うほど、余計に出たくなるのは人間がそういう生き物だからなのか、それとも僕がまだ子どもだからなのか。


「未来さんに会いたい・・・・・・」


 そうポツリとつぶやきため息を吐く。


 なんとなく、心のどこかでは利用されているだけだとわかっていても、好きになってしまった後ではもう遅い。


 いっその事、全てを捨ててでも家を抜け出そうかとも考えたが、こうなってしまった自分と、まっすぐに向き合ってくれた桜木先生と前田先生の顔がチラつき、なんとか思い留まる。


 四宮くんが羨ましい。


 春風さんという可愛い彼女がいながら、未来さんからの盲愛をも受けている。

 それだけならまだいいが、一番気に食わないのは、四宮くんが未来さんからの愛情を迷惑だと思っているところだ。


 なぜ未来さんは叶わぬ恋に必死になっているのだろうか。


「・・・・・・僕でしておけばいいのに」


 自分自身、未来さんに不釣り合いなのは理解している。しかし、未来さんと釣り合う人物の方が珍しいと思う。それは、四宮くんも同じ。彼女には不釣合いな部類の人間であるはず。

 自分で声に出してみて、更に惨めな気持ちになったのは、きっと自分自身に自信がないからだと言うことと、四宮くんが自分よりもいい人だと認識しているから、少なくとも僕よりは未来さんにふさわしいと思ってしまったから。


 ※※※


 お久しぶりです。ゆとりです。


 土曜日か日曜日には投稿しようと思っていたのですが、久しぶりの執筆で思うように自分の書きたいことがまとまらず、結果遅刻してしまいました。本当に申し訳ございません。


 自分で書きながら何度も読み返し、以前と書き方やキャラの魅せ方が違う気がする・・・と思ってしまいました。

 違和感があるかもしれませんが、今後少しづつ直していこうと思っていますので、多めに見てくれると嬉しいです。


 近況ノートでも報告しましたが、今後の投稿頻度に関しては、仕事との兼ね合いで、一日二回投稿どころか、毎日投稿すら怪しい状況であるので、時間を見つけては執筆し、出来上がり次第投稿とさせて頂きます。


 なるべく早い頻度で投稿したいとは思っていますので、変わらず応援して頂けると幸いです。


 よろしくお願い致します。

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