第262話 呼び出された太陽

story teller ~斉藤天綺~


 文化祭まで後僅かしか時間が無いと言うのに思ったよりも準備が進んでおらず、焦りが生まれる。

 原田くんがで、実行委員が来ないなら俺も私もと、私たち3組の集まりが悪いせいだ。


「四宮くん、春風さん、ほんとにごめんなさい」


 隣で作業を進めている2人に謝ると、彼らはキョトンとした顔でなにが?と聞いてくる。


「私たちのせいで全然準備が進んでなくて・・・」


「全然気にしないで!みんなで頑張ればすぐに終わるよ!ね?太陽くん」


 葛原さんの事もあり余計に申し訳ない気持ちになってしまう。しかし、春風さんは満点の笑顔を向けてくれる。そう言ってくれるのは本当にありがたい。


「すみません斉藤さん、この衣装はこんな感じでいいのでしょうか?」


 人手が足りないからと手伝いに来てくれている乱橋さんが、白い布で作った衣装を必死に持ち上げながら声を掛けてくる。体の小さな彼女よりも幾分か大きなその衣装は、乱橋さんが普通に持つと床を拭いてしまうのだろう。

 私はその衣装を受け取り、これを着る予定の生徒の身長を思い出しながら、目や鼻を出す為の穴の位置を確認する。乱橋さんが切り取って空けたであろうその穴は線がズレることもなく綺麗な断面だ。


「はい上出来です。とても綺麗に出来てますよ」


 言った後に、今のは上からな物言いだったかと思ったが、乱橋さんはありがとうございますと言って衣装を受け取り戻っていく。たぶん私の反省は杞憂だっただろうが、彼女は表情が変わらないので感情が読めない。


「穂乃果、これってどうしたらいいの?」


 戻ってきた乱橋さんを、同じく手伝いに来ていた1年生の内海さんという女子が捕まえて、自分の担当していた衣装を見せている。内海さんはギャルっぽくて口調が強く、態度も悪い為、最初は少し苦手意識があったが、話してみると根はいい子だとわかった。それでもまだ話しかけずらいので、四宮くんたちはよく一緒にいられるなと思う。というか、乱橋さんと内海さんではキャラが違いすぎて、なんでこんなに仲がいいんだろうかと疑問に思う。


 そんな感じで準備している生徒たちを眺め、自分も手を動かさなきゃと思い作業に戻ると、ガラッと空き教室の扉が開き、原田くんが入ってくる。


「原田!今来たのか?」


 クラスメイトの男子が入ってきた原田くんに声をかけると、彼はうんと短く答えてこちらに近づいてくる。


「四宮くん、ちょっといいですか?」


「えっ、俺?」


 呼ばれた四宮くんが不思議そうに首を傾げながら自分の顔を指さすと、原田くんは頷く。


「わかった。月、斉藤さん、俺のところもお願いしてていい?」


「うん!任せて!」


「はい・・・」


「ありがとう。よろしくね」


 なんだか嫌な予感がして、行かない方がいいと止めたいが、原田くんの前であからさまな言動を取ると疑われる可能性があるので、言われるがまま引き継ぐしかない。

 せめてなにか察してくれと四宮くんに視線を送るが、それに気づかずに原田くんと共に教室を出ていってしまう。


 なんで四宮くんを呼び出したのだろうか。気になる。


 ついて行こうかとも思ったが、バレた後がどうなるかわからない。だから下手には動けない。


「ねぇ、月、斉藤さん。ちょっといい?」


 ダンボールを見つめるだけで手を動かせないでいると、夏木さんが私たちの間に顔を入れてくる。そして、夏木さんに返事をする直前。


「穂乃果、車谷、衣装の追加運ぶの手伝って」


 まるで打ち合わせをしていたかのように、内海さんが2人に声をかけ教室から出ていく。


 それに続くように夏木さんも、トイレ行こうよと私と春風さんを誘ってくるので、それを了承して一緒に教室を出る。

 夏木さんの後ろをついて行くと、トイレを通り過ぎ、中央階段から3階に上がる。3階では、先に教室を出た内海さんたちが待っていた。


「斉藤、あんたなんか隠してるでしょ?」


「えっ?」


 私の顔を見るなり、内海さんが眉間に皺を寄せてそう聞いてくる。急な事でビックリして即答出来なかった。


 いつもならここで乱橋さんが内海さんに対して態度を注意する流れが見れるのだが、今回は何も言わず、乱橋さんも内海さんと同じように眉間に皺を寄せている、様に見える。表情が変わらないからたぶん・・・。そう見えるだけかもしれないけど。


「えっと・・・。隠し事というか」


 内海さんが怖くて真っ直ぐに顔を見ることが出来ず、俯き気味に小声で言うと、隠し事というか?と強めの口調で返される。


「純奈ちゃん。斉藤さんが怖がってるから凄まないの!」


 春風さんが私の背中を擦りながら内海さんに注意すると、彼女はチッ!と舌打ちをして腕組みをして足で床を鳴らしリズムを刻む。注意されて尚、早く話せと急かしているのだろう。


「実は・・・」


 なるべく内海さんを見ないように、優しい表情で聞いてくれる春風さんや夏木さんを見るようにして原田くんに対して思っていることを話す。


「って事は、斉藤あんたはあんたで原田を疑ってできるだけ監視してたわけね?」


「はい。でも原田くんは最近、学校を休みがちなのでほとんどなにも出来ていません」


 申し訳なさと怖さから、少しずつ声が小さくなってしまう。


「うーん。なるほど、だから四宮が原田に呼び出された時に2人を見てたわけか」


 夏木さんは顎に手をあて、納得したように頷く。車谷くんも夏木さんと全く同じポーズで同じ様に頷いている。


「じゃあ今、太陽は原田くんになにかされてるかもしれないって事だよね?」


「原田さんが太陽先輩に手を上げるのは考えすぎな気がします。ただの勘ですが、原田さんはそんなタイプではなさそうですし、葛原さんの伝言とかを伝えてるだけではないでしょうか?」


「それなら2人の後をつけた方がよくない?」


「でもどこに行っちゃったかわからないよ」


「それなら、あとから四宮に聞くしかないね」


「そうだね!私が太陽くんに聞いてみるよ!」


 私をおいて、みんながどんどんと話を進めていく。こんな状況に慣れているのだろうか。


「じゃあとりあえず、原田はみんなで監視って事でいい?」


「私と純奈さんは手伝いの時くらいしか監視出来ませんが、怪しい動きが見えたらすぐに報告ということにしましょう」


「授業中とかは斉藤さんが頼りって事だね」


「えっ?あっ、はい!」


 置いてけぼりを食らっている所、急に名前を呼ばれて反応が遅れてしまう。内海さんはそれが気に食わなかったのか、ちゃんと話に参加しなよと怒りをぶつけてくる。ほんとにこの子は苦手だ・・・。


「斉藤さん大丈夫?お願い出来る?太陽くんは斉藤さんを巻き込まないようにって言ってたけど、クラスが違うから頼らざるを得ないんだ。ごめんね?」


 優しく、そして申し訳なさそうに春風さんが胸の前で手を合わせてくる。それに対して、元々勝手に関わったのは私なので気にしないでくださいと伝え、あまり長く教室を離れるのはよくないと、みんなバラバラで教室に戻る。


 すると既に四宮くんは戻ってきていて、いつも通りを装っているが、彼の雰囲気はなんだか暗くなっているように感じた。

 やっぱり原田くんになにか言われたのだろうか。


 そして、監視対象である原田くんは戻ってきていなかった。

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