第261話 穴原の入院と大金
story teller ~四宮太陽~
穴原がまた入院した。
そんな連絡が獅子王くんから入った。しかも、今回は手術するほどの大怪我だったらしい。
お見舞いの為に病院に訪れたが、面会は出来ないと言われてしまい、病室の前にあるベンチに座り込んでいると複数の足音が俺の前で止まった。
「四宮、だったか?」
俺が顔を上げると、立ち止まった4人のうちの1人がそう声をかけてくる。その4人の顔には見覚えがあり、少し考えたあと穴原と争った時に俺の邪魔をした男たちの中にいたなと思い出す。
「穴原さんのお見舞いか?」
「そうだけど、面会出来ないってさ」
彼らの手には花やお菓子、飲み物などが握られていて、お見舞いに来たのだと一目でわかる。
「隣いいか?」
俺が黙ったまま少し横にズレると、それを承諾したと受け取った4人は並んで座る。
「獅子王から聞いたのか?」
「うん。連絡が来てた」
主語はなかったが、聞かれた事がなんなのか分かったのでそう返す。獅子王くんはきっと彼らから穴原の事を聞いたのだろう。
「なぁ四宮。お願いがあるんだけど」
「なに?」
話しかけてきた男の顔を見ることなく返す。
「俺たちと一緒に穴原さんの敵討ちしてくれねぇか?」
何を言っているんだと思い、そこでやっと男の顔を見る。彼の表情は至って真剣で、冗談で言ったわけじゃなさそうだ。
「なんで俺なの?」
「四宮は穴原さんと友だちになったんだろ?穴原さんがやられてムカつかねぇのか?」
「ムカつくよ。でも、穴原がやられる程の相手なんて、俺が協力しても勝てないでしょ」
「いや、お前は強かったよ。穴原さんと真正面からぶつかって勝てたじゃんか」
確かに勝てた。でもそれは偶然であって、仮にまた穴原とやり合ったとしても勝てる気がしない。なによりも・・・。
「俺はもう喧嘩したりはしない。・・・怖いんだ」
「怖いって。あんだけ強いのに怖いのかよ?」
喧嘩が怖いわけじゃない。喧嘩したその後が怖い。だけど、それを伝えたとしてもこの男たちには関係ないこと。
俺はベンチから立ち上がり、お見舞いの品として持ってきていたフルーツセットを男の1人に渡す。
「穴原と面会できるようになったら俺も心配してたって伝えて。あと、巻き込んでごめんって事も」
確証はないが、恐らく穴原が入院することになったのは俺のせいだと思う。俺と関わって友だちになったから葛原になにかされたのだと。
葛原への怒りを潰すように拳を握り締め、病室に背を向けてエレベーターホールに向かった。
******
story teller ~葛原未来~
穴原はもう使えない。けれども計画には大して支障はない。穴原がダメなら別の人を使うだけだ。
「表を
「する!なんでもする!あいつがいないと俺たちはもう!」
「おい、近いぞ」
「・・・いいの」
目の前に座る表のバンド仲間の1人が前のめりにわたしに顔を近づけ、それを八代が引き剥がそうとしたが手を上げてそれを制す。
「ってかほんとに良一を保釈なんて出来んのかよ」
こんな小娘にそんな事がと言いたいのだろう。
わたしはもちろん出来るわよと答え、八代に合図を送る。すると八代は、加藤が用意した通帳をカバンから取り出し、最後に記帳されたページを開く。そこには到底高校生では用意できない金額が記されていた。
「おいおいまじかよ・・・」
「ありえねぇだろこの金額」
仲間の内2人は目の前の数字が信じられないと言う様子だが、先程から1人、わたしの事をずっと疑っている男は驚いた反応を見せずに腕を組む。
「保釈出来るってのはわかった。でもそんな金どうやって用意したんだよ。怪しすぎる。それに現金じゃなくて通帳で見せるってのも納得いかねぇし、なによりも《お前》名義の口座じゃねぇじゃん」
「わたしは顔が広いの。お金なんて色んな人が用意してくれるわ。それに、こんな大金を持ち歩くなんてハイリスクな事はしたくないし、わたしのような高校生の口座に急に大金が振り込まれたら銀行に怪しまれるでしょ?」
「ようはまともじゃない金って事か」
「それは否定しないわ」
「変に誤魔化さないか・・・・・・。気に入ったよ」
少し考えて男がニヤリと笑う。わたしはその言葉を協力してもいいと言うことだろうと取る。
「じゃあこの後、あなたたち3人の口座にお金を振り込むから。計画通りよろしくね?」
前もって計画だけは伝えていたので、立ち上がりながらそう言うと3人の男はわかったと短く答えた。
彼らのバンドのファンはガチ恋勢が多いらしい。そんな彼らの知名度とファンを使えば、太陽くんたちの文化祭を引っ掻き回すことなんて簡単だ。
ああ、早く文化祭にならないかな。今すぐにでも太陽くんに会いたいな。
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