第260話 気づく加藤

story teller ~加藤~


 葛原からの連絡を待ちながら、古いスマホの中身を確認する。


 この前まで使っていたスマホは家を移動した時に一緒に処分した為、今ではこの使い古されたスマホだけが連絡ツールだが、動作が重く使いづらい。早く新しいのを買わなければ。


 ふとメールアプリを立ち上げると、電源を切って以降に送られてきていたメールが一気に受信される。

 スマホを新しくした際にメアドも作り直したので、こちらに届いたメールは新しい連絡先を知らなかった人たちからだった。

 その中に1件、登録されていないメアドからのメールがあり、誰なんだ?と思い内容を確認する。


(初めまして。ある人からあなたの連絡先を聞いてメールしました。話したいことがあるのでよろしければ返信ください)


 そのメールには差出人名がなく、葛原を付け回していたという探偵か?とも思ったが、日付が1ヶ月程前になっているので、そうじゃないとわかる。となると、四宮太陽側の誰かだろう。


 新しい方のメアドに連絡が来るならまだわかるが、古い方を誰から聞いたんだ?


 この古いメアドを知っていて、尚且つ四宮太陽たちと繋がりがある、もしくは繋がれそうな人物を頭の中で辿っていく。だが、考えてもわかるわけもない。なので考えるのをやめ、他に大切なメールは来ていないかと画面をスクロールしていく。


 すると、ピコッと通知がなり、待ち人からのメッセージが画面上部に表示される。


('' 今おじいちゃんにお願いしたからあなたに対しての調査はすぐにでも打ち切られるはずよ。念の為、マスコミにも圧力をかけるようにお願いしたからテレビ局とかに写真や情報が持ち込まれていても大丈夫なはず)


 これで一安心だ。思ったよりも早かったから焦る必要はなかったな。マスコミにも圧力をかけるなんて先回りまでしてくれて助かる。


 そこで気がつく。


 テレビ局?そういえば、四宮太陽側には雷門来海がいたはず・・・。そして、過去にうちの会社と裁判するとかで揉めた人物、もテレビ局に務めていると言っていたような。


 再度メールアプリを立ち上げ、履歴を遡っていく。


 やっぱりだ。笹塚葵とメールでやり取りしていたのはこのスマホだった。もしかしたら笹塚葵が雷門来海と繋がって、笹塚葵からメアドを聞いたのかもしれない。

 考えすぎかもしれないが、もしそうだった場合がバレているかもしれない。


 ******


story teller ~穴原十郎あなばらじゅうろう~


 獅子王と四宮、2人と殴りあったいつかの廃墟ビル。その屋上でを見つめながら荒い息を整えようと、水槽の中の金魚の様に口をパクパクと動かす。


「どう?穴原。少しは葛原のを聞く気になった?」


 抑揚のない声を放つそいつは、ゆっくりと俺に近づいてくる。

 早く返事をしなければ追撃が来ると分かっているが、声を出せないし動けもしない。そして、返事をしない事を拒否と受け取ったのか倒れる俺の脇腹を八代が蹴り、俺の体は床を滑るように移動する。


「ゴホッ!」


「今ならまだ間に合うけどどうする?」


 今度は少し猶予をくれるのか、八代は俺を蹴った位置で立ち止まり見下ろしてくる。


「く、ずはらには協力し、ない。はぁはぁ、はぁーあー。四宮とし、しおは俺を友だちだって言ってくれたんだ」


 なんとか声を絞り出し八代にそう伝えると、彼はあっそと短く言葉を放ち、俺に近づいてくる。


「じゃあもっかい病院に送ってやるよ」


 俺が気絶する直前に見た光景は、八代の頭上に浮かぶ星と、八代の耳に浮かぶドクロのピアスだった。

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