第259話 警察の動きとそれを見守る加藤

story teller ~とある警察官~


 加藤という男性が代表をしているという会社との電話が終わり受話器を優しく置く。


 内海純菜さんという女子高生が持ち込んできた1枚の写真と加藤という男性の情報が書かれた紙を見ながら、感じた違和感を胸に感じながらそれらを手帳に挟み綴じる。


 偶然写真を撮り、その過程で名刺を拾った。そしてその名刺は無くした。


 本当に偶然なのだろうか?と個人的には思い、その辺を詳しく聞き出そうとしたのだが、内海さんを対応した際共に居た先輩は極度の面倒くさがりなので、良いから良いからと止められ、話を聞くことが出来なかった。


「先輩。この加藤って男が今住んでる場所の住所がわかりましたよ」


 胸ポケットを叩きながら、手帳に住所を記入したと合図をすると、先輩はじゃあ行こうかと椅子からだるそうに立ち上がる。


「会社は沖縄にあるのに、なんで住んでるのは俺らの管轄内なんだよ。めんどくさいなぁ」


「沖縄にも住居があるらしいですよ?最近はずっとこっちにいるみたいですけど」


 加藤の会社の従業員から聞いた情報を口頭で伝えるが、先輩からはあーそうなん?と興味のないと言うような反応が返ってくる。


 この人はほんとにやる気がないな。何のために警官になったのか・・・。切実にパートナーを変えてもらいたい。


 そんな無気力な先輩と2人、加藤の住んでいるらしい住所を訪ねたが誰も出てくることはなかった。


 ******


story teller ~加藤~


 葛原から探偵に尾行されていたとは聞いていたが、警察が動き出すとは・・・。個人的に掛け合ってくるのなら金を積んで黙らせようと思っていたが、国家権力は厄介だ。


 急いで借りた狭いアパートの一室からパトカーに乗り込む2人の警官の動きを見守る。念の為に住居を移動しておいてよかった。この際、狭いだ汚いだなんて文句は言っていられない。


 私のいるボロいアパートは、警官が訪れたマンションから少し離れた位置にあるが、双眼鏡を使えばマンション前がハッキリと見える。


 サイレン音が聞こえ、パトカーがマンションの前に着いた時点で葛原には連絡を入れていた。連絡してからまだ数分しか経っていないが、既に何時間も経ったように感じるのは焦っているからだろうか。



 少し前まで使っていた古いスマホを握る手に力が入り、メキメキと音が鳴る。

 危ない危ない。


 ******


story teller ~葛原未来~


「おじいちゃん」


「おぉ!未来じゃないか!」


 居間にいた細身の老人に声を掛けると、その老人はわたしの姿を見るなり満面の笑みを浮かべ、立ち上がる。


「大きくなったなぁ」


「何言ってるのよ。正月に会ったでしょ?」


「ははは!そうだった!そうだった!」


 別にボケている訳ではないわたしのおじいちゃんなりの冗談に真面目に答えると、それで?急に来てどうしたんだ?とここに来た理由を聞いてくる。ただ顔を見に来ただけではないのだとおじいちゃんが察してくれているのなら話が早い。


「ちょっとお願いがあるんだけど」


「なんでも言ってご覧?」


 父方の祖父である彼は、小さな頃から甘やかしてくれる。それは両親が離婚した後も変わらずで、高校生になった今でもなんでも言うことを聞いてくれる。


 なんでもとは文字通りであり、欲しい物があると言えば買ってくれるし、行きたい場所があればどこでも連れていってくれる。


 そして恐らく、そのなんでもには際限がなく、ある意味奴隷と呼べるような人を作ることも出来れば、その逆も出来るだろう。それをお願いしないのは、単にわたしには興味のない事だから。


「今ね、わたしがお世話になってる加藤って人が警察に追われてるの。だから捕まらないようにして貰えない?」


「加藤とは未来の彼氏か?」


「違うよ。お金とか工面してくれる人なの」


 おじいちゃんは険しい顔になりそう聞いてくるが、それを否定すると今度は拗ねた顔になり、お金ならワシを頼ればいいのにと小さな声で呟く。


「ごめんね。でもそれだとわたしは成長出来ないもの。おじいちゃんのような、人を使う人になりたいからその練習してるのよ?」


「そうなのか。それなら仕方ないか」


「でも、まだ加藤を一人で助けられないからおじいちゃんの力を貸して欲しくて・・・」


「わかったわかった。おじいちゃんに任せなさい」


 そう言うとおじいちゃんは居間から出て行く。誰かに電話をかけるのだろう。


 詳しい事は知らないが、おじいちゃんは資産家らしく、その資産は世界的に見ても上位に入るほどらしい。そしてその資産を使い、この国の偉い人たちを買収しているとかなんとか。


 おじいちゃん自体には特に興味はないが、その人脈と地位、権力とお金は欲しいと素直に思う。だがそれはお願いして貰うのでは意味がない。だから全部をおじいちゃんにお願いするのではなく、頼るのはどうしようもない壁にぶつかった時だけと決めている。


「・・・・・・加藤ももう少し使ったら切らなきゃね。わたしまで巻き添えはごめんだわ」


 なにかあって退学になったり、最悪逮捕されたとしてもおじいちゃんが助けてくれるとは思う。けれども、おじいちゃんももう歳だし、最近は通院もしているらしい。

 もしおじいちゃんが倒れでもしたら、問題が起きた時に揉み消せなくなるかもしれないし、大胆には動けなくなる。だから加藤も八代も近いうちに切り捨てなければならない。


「なかなかいい駒だったんだけどなぁ」


 いざさよならした時の事を考えるとそれはそれで少し、ほんの少しだけ心がギュッと締め付けられる感覚を覚える。


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