第258話 いい流れ

story teller ~春風月~


「純菜ちゃん!獅子王くん!こっちこっち!」


 駅前は休日ということもあり賑わっていて、純菜ちゃんたちは私たちの姿を探すようにキョロキョロとしていたので、手を上げ、ぴょんぴょんと跳ねながら大声を出す。

 周りの人たち(主に男性)がそんな私を見てくるが、大声を出す前から遠巻きな視線を感じていたので対して気にしない。


「ちょ!月!スカートスカート!」


「あっ!ありがとう!」


 でも光は、そんな私の動きに合わせて上へ下へと動き回るスカートを掴んで押さえてくれる。普段はズボンや長めのスカートを履くから、今日のスカートがいつもより短めなのを失念していた。


「稲牙さんお久しぶりです。退院後はお元気でしたか?」


「見ての通り元気だぜ!冬草と夏木の2人は元気そうだな!」


 人混みを避けて私たちの傍までやってきた獅子王くんに、涼が声を掛けると、彼はその場で両手を大きく広げて元気アピールをする。私とは、退院後にも太陽くんのバイト先で何度か会っているから特に久しぶりではないが、変わらず元気そうで安心した。

 そんな様子を見ながら、獅子王くんより少しだけ遅れてこちらにやってきた純菜ちゃんに、と話しかけると、主語がないにも関わらず、なんの話が理解した純奈ちゃんはふっと口角を上げながら答える。


「無事に写真と情報を。思ったよりもあっさりしててさ、緊張して損したよ」


 彼女は朝から警察署に行ってきてくれたのだ。獅子王くんはその付き添いである。純奈ちゃんの表情を見るに、特にストーカー行為などを疑われた訳ではないという事がわかる。


「よかった。ちゃんと言い訳も考えたけどさ、それでもみんな心配してたんだよ」


「まぁあの言い訳はちょっと無茶あるしね。でも横山のアドバイス通り、堂々としてたら根掘り葉掘り聞かれることはなかったよ」


 昨日、純奈ちゃんが警察署に行くと決まったあと、どうやって写真や情報を手に入れたか言い訳を考えようと言うことになり、買い物している時に、制服姿の女子高生と加藤おじさんがホテルに入ろうとしたところを目撃したので、写真を撮ってから声をかけ、止めようとしたと言うことにした。


 その際、加藤おじさんのカバンを引っ張り、その時にカバンの中身が散らばり、名刺を1枚拾った事にしたのだ。

 だから警察に渡した情報は、加藤の名前と会社、それから連絡先のみである。名刺は無くしてしまったと言うことにした。それ以外の情報に関しては知っていると不自然になると考え黙っていることにしたのだ。だけど、それだけでも加藤を追い込むには十分だろう。


「これで加藤さんは逮捕されますかね?」


「逮捕されなかったとしてもワタシたちに関わる事はなくなるんじゃない?葛原もおじさんとホテルに行ってたなんて学校にバレたらよくて退学、悪くても停学くらいにはなるだろうし」


 いつの間にか私と純菜ちゃんの話を聞いていた涼と光も会話に参加してくる。2人も安堵の表情を浮かべていて、これまでで初めて葛原さんに対して先手を取れたのが嬉しいのだろう。


「一応、警察が加藤に話を聞いてから、どうなったか報告してくれるらしいから、あとは連絡を待つだけだね」


「本当にお疲れ様。純奈ちゃんが罪に問われたりしなくてよかった!」


 労いの意味も兼ねて、純奈ちゃんの頭を撫でようとするとやめてよと手を弾かれてしまうが、照れているだけだとわかるので嫌な気はしない。可愛い子だな。


「それで?話は終わり?なんもないなら帰るけど?」


 純菜ちゃんはそう言いながら既に私たちから視線を外して駅の方を向いている。

 確かに、なにも問題ないのであればそれ以上話すことはないのだが、せっかく事が上手く運んで気持ちがいいし、集まったのなら遊びに行きたい。


「えっ?もう帰るのかよ。最近は文化祭の準備とかでみんなと遊べてないからおれ様はまだ帰りたくないんだけど」


 獅子王くんは私と同じ気持ちだったのか、まるで小さい子が親に帰るよと言われた時の様に、残念そうな顔をして、全身から帰りたくないオーラを出している。


「じゃあ稲牙あんたは春風たちと遊んどけば?あたしは帰るよ?」


 純菜ちゃんが冷たく突っぱねると、獅子王くんは更に残念そうにえーー!と声に出す。


「なんで帰るんだよ。おれ様は純菜とも遊びたいんだけど。ってか純菜と遊びたい」


「あれ?これってワタシたちお邪魔かな?」


「かもしれませんね」


「何言っての!?ほんっとに!あんたは!!!」


 パシッ!と純菜ちゃんが獅子王くんの頭を叩くが、本心では嬉しいのかもしれない。その証拠に、痛いと言いながらも獅子王くんは笑顔を浮かべているので、きっと優しめに叩いたのだろう。口では獅子王くんの事を良くは言わないが、純菜ちゃんも獅子王くんが大切なんだとわかる。


「えへへ」


「なんで笑ってんのよ」


 2人の事を微笑ましく思い、自然と笑みが零れてしまい、そんな私を純菜ちゃんが睨んでくるが、それも照れ隠しだと分かっている。


 なんでもなーい!と返しながらみんなを先導するように歩き出すと、純菜ちゃん含めたみんなが後ろを着いてきてくれた。

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