第257話 それしかない
story teller ~仲村渠歌音~
来海さんとのメッセージを閉じてゲーミングチェアに全体重を預ける。ギシッと音がなり、背もたれが後ろに少しだけ倒れる。
もし、
まだ中学生の来海さんがそこまで言う、いや、思わず言ってしまうくらいに追い詰められているのかもしれない。
もし
本音を言えば
「神様お願いします。どうか何事もなく過ごせますように」
瞳を閉じて、普段は信じもしない神様にそう願ってみたりする。それがフラグを建築する事になるかもしれないが、今の
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story teller ~春風月~
太陽くんと穂乃果ちゃんはバイトの為いないが、2人を除いた私たちは花江ちゃんのお家に集まっていた。
米田さんから貰った情報を使って、花江ちゃんのお父さんの会社から、加藤の会社に圧力を掛けられないかと思ったが、花江ちゃんの協力者である、父親の部下の人にそれは止められたらしい。
なんでも、加藤の会社と繋がりのある大企業は、花江ちゃんの父親の会社よりも大きく、手を出せばこちらの会社が潰されかねないとの事。
大人の協力者を得られても戦うことすら出来ない。加藤という人物は思ったよりも厄介だ。
「お役に立てず本当にすみません。一応、別の方向からどうにか出来ないかと模索しているのですが・・・」
「ううん!仕方ないよ!だから謝らないで」
「そうですよ。花江ちゃんはなにも悪くないんですから」
「月さん、涼さん・・・。ありがとうございます。そう言って貰えると心が幾分か軽くなります」
申し訳なさそうに頭を下げる花江ちゃんに、私と涼がそう伝えると、花江ちゃんは胸を押さえながら頭を上げてくれた。
「あの〜。俺と星羅は本当になにもしなくていいんですか?」
今回はまだなにも出来ていない、と言うか私たちがなにもさせていない優希くんが恐る恐ると言った感じで問いかけてくる。
「君たちには文化祭当日に来海ちゃんを止めるって役割があるでしょ?」
架流さんが優しく言いながら、優希くんの肩を叩く。
米田さんから、どうしても来海ちゃんが文化祭に行きたいと言っていると聞いていた。もしかしたら、当日無理やりにでも行こうとするかもしれないとも言われているので、優希くんと星羅ちゃんには来海ちゃんを止めるという役割をお願いしてある。
「一応、文化祭前日から星羅が来海ちゃんの家に泊まるとは言ってました。俺は当日の朝から2人に合流する予定ですが、本当にそれだけでいいんですか?」
まだ納得出来ないのか、優希くんは再度聞いてくる。
「それはとても重要な事だ。なにかあった時に、星羅ちゃんと来海ちゃんの2人を守れるのは優希くんだけなんだよ」
「そう・・・ですか。そうですよね。俺、頑張ります!」
架流さんに重要な役だと言われ、自分に言い聞かせるように優希くんは強く声に出す。正直、中学生の彼らを巻き込みたくないだけだから遠ざける為というのもあり少し胸は痛むが、嘘をついている訳ではない。2人を守る、それも間違いなく重要な役割だ。
「話を戻すけど、加藤に関してはなにかいい方法はない?」
「・・・葛原とホテルに入っていった写真を警察に出すくらいしか思いつかないな」
光の問いかけに秋川くんが答え、みんなもそれ以外にいい案が思い浮かばないのか黙ったままだ。
加藤の会社を刺激せずに加藤のみを叩くなら、むしろそれ以外にはないと思う。だが、それを誰が警察に持っていくか、そこで悩んでしまう。
高校生である私たちが持って行ったとしても、もちろん写真を受け取ってくれて、捜査もしてくれるかもしれないし、その結果加藤は逮捕されるかもしれない。だけど、その写真をどうやって手に入れたかという問題が出てくる。
私たちが加藤と葛原さんを尾行して、写真を撮ったとした場合、ストーカー行為とかで罪に問われたらさすがに困る。
米田さんから、加藤の件を依頼していた探偵さんは善意だけで、調査してくれた上、既に手を引いたと聞いているので、警察に探偵さんから受け取りましたと言って、またこの件に巻き込むのは申し訳なさすぎるし・・・。
「・・・んー。よしっ!じゃあ警察に写真を提出しよう。それ以外に思い浮かばないし」
「でも、それだと―――」
「大丈夫。僕が行くからさ。今ここにいるメンバーの中で僕が1番年上だし、僕は最悪罪に問われて退学になったとしても困らないし?みんなを巻き込まないように、僕が個人で撮影したってことにしとくから安心してよ」
架流さんはそう言うが、私たち的には納得出来ないし安心も出来ない。彼だけが汚れ役になるのは嫌だ。
「それならわたくしも一緒にいきます!もし罪に問われても、お父様ならなんとか出来るかもしれないですし」
「じゃあ私もいきます!花江ちゃんとは友だちですし、人数多い方がストーカー行為とかに該当しにくくなるかもしれません!」
花江ちゃんがついて行くと言い出したのに続き、オレもワタシもと、その場にいる私含めたみんなが口々について行くと言い出す。
そんな中、1人黙っていた純奈ちゃんが、パン!と手を叩いて私たちの言葉を遮る。
「バカなの?みんなで行ったらそれこそ集団ストーカー行為に該当するかもしれないでしょ。それか嫌がらせだと判断されて、全員軽犯罪に問われるかもしれないし」
「そんな事もあるの?」
「詳しくはないからわかんないけど、可能性としてはね。だから行くとしたら、罪に問われてもダメージの少ないあたしが行くしかないでしょ」
「なんで?なんで純奈ちゃんならダメージが少ないの?」
私が疑問を口にすると、彼女ははぁ〜と息をついて自分の考えを話し始める。
「まず、横山は3年でしょ?もう少しで卒業なんだから絶対卒業した方がいい。寄宮は父親の顔に泥を塗らない為にも行かない方がいい。春風は四宮にバレたら怒られるんだからやめときな?夏木とか冬草も学校ではいいイメージ持たれてるしね。その点、あたしは学校でもみんなからのイメージ悪いし、1年生だから退学になってもそこまで困らない、バレて怒るような人もいないし、あたしが適任って訳よ」
「でも・・・・・・。それだと純奈ちゃんだけが嫌な役になっちゃうからダメだよ」
「いいんだよ別に。あたしは元々嫌なやつだし」
「そんな事ないよ!純奈ちゃんはいい子だよ!」
「っ!!なに恥ずかしい事いっての!・・・・・・ああもう!あんたたち、と言うか穂乃果には悪いことしたし、罪滅ぼしじゃないけどそれくらいはさせろって言ってんの!分かれ!」
顔を真っ赤にして、勢いで本音を口に出した純奈ちゃんは、言った後にその場に蹲り、膝で顔を隠してしまう。
「そっか、そんな事考えてたんだね。ありがとう」
「うるさい。とりあえずあたしが行くからみんなは着いてこないでよね」
「わかった。着いていかない。その代わり、純奈ちゃんが罪に問われそうになったら私たちが否定するね。そんな事をする子じゃないって」
私が純奈ちゃんの隣に座り込み、背中に手を添えてそう言うと、彼女は膝から少しだけ顔を出し、目だけを私に向けてくる。
「なんでよ。そんな事しなくていいよ」
「ううん、するよ。友だちがえん罪で捕まったり退学になるのは嫌だもん」
「・・・・・・うっさい」
再度膝に顔を埋める純奈ちゃんだったが、耳が赤くなっているので、隠してもどんな顔をしているのかバレバレだ。
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