第256話 コソコソと計画を立てる来海と協力者、歌音

story teller ~米田光明~


 来海ちゃんがCM撮影を再開したのを確認し、南さんと2人でスタジオから離席する。


「南さんこれ・・・」


 スマホに届いていたメッセージを南さんに見せると、彼女は一通り目を通してから、口に手を充て、嘘でしょと驚きを声に出す。


(恐れ入ります。わたくし、神田の部下の篠原と申します。神田は、依頼されていた対象の人物を調査中、何者かに襲われ現在病院にて休息を取っております。なので、誠に勝手ながら今後の調査は続行不可と判断し、ご連絡させて頂きました。神田やわたくし含む、従業員を守るためのものだとご理解頂けると助かります。尚、これまでに集めた情報を添付させて頂きましたのでご確認ください。最後までお力になれず申し訳ございません)


「襲われたって・・・」


 危険なのは分かっていたが、探偵が返り討ちに遭うなんて誰が想像出来るだろうか。


「神田さん・・・。わざわざ従業員の方が連絡して来るってことは神田さんは連絡出来ない状況って事か・・・・・・」


「だよね。お見舞い行かないきゃ」


「待ってください。それはやめた方がいいと思います」


俺が止めると、南さんは泣きそうな目をこちらに向けて、なんで?と聞いてくる。


「相談もなしに調査を打ち切ったという事は、俺たちと関わりたくないって事ですよ。それに、もし俺たちがまだ関わろうものなら更に神田さんたちに手を出される可能性があります。だから今はダメです。ちゃんと葛原たちとの事が片付いてから一緒に謝りに行きましょう」


俺の考えを聞いた南さんは、唇を噛み締めながらコクンと頷く。


「・・・そうね。その方がいいよね。・・・・・・添付されてた情報にはなにか有益な物はあった?」


 南さんは不安と悲しみの表情から、気持ちを切り替えたようにそう聞いてくる。今できるのは、神田さんが集めてくれた情報を無駄にしない事だと思ったのだろう。


「まだ確認できてません。一緒に見ましょうか」


 南さんと肩を並べてスマホの画面を注視する。


 添付されたPDFを表示すると、そこには加藤の会社の情報から、現在住んでいる住所、更には生年月日や本籍地まで、こと細かく記載されていた。


「凄い、こんなに集めてたなんて」


 その情報量に圧倒され、南さんは小さく感嘆の声を上げる。だが、記載されている情報はどれも加藤の物であり、葛原の事は一切記載されていない。


「これを見る限り、神田さんは葛原を調べてる時に襲われたみたいですね。神田さんを襲った相手は恐らく―――」


「八代・・・」


 南さんにも八代の事は共有しているので、俺と同じ考えに至ったのかボソッと呟く。


「だと思います。けど、今のところ葛原と八代の繋がりは、穴原っていう男性からの情報しかないから確定は出来ませんが」


 普段は部下に仕事を任せていて、普段は事務仕事ばかりだと言っていたが、神田さんだって探偵としてこれまでにそれなりの修羅場をくぐってきているはずだ。そんな人を相手に出来るやつが何人も出てこられても困る。だから、むしろ八代であって欲しいと思わず考えてしまう。


 ******


story teller ~雷門来海~


 CM撮影が終わり、帰りの車に乗り込むと、南さんと米田さんから、神田さんの事を聞かされる。


 そして、神田さんを襲ったであろう八代と言う人物は太陽さんと同じ高校に通っている人かもしれないという事はグループチャットの報告で確認していた。


「だから来海ちゃんは絶対に文化祭には行っちゃダメよ?」


「来海ちゃん、ごめんだけど俺からもお願いする。正直、俺や架流がいたとしても、神田さんを襲ったやつが八代だった場合、君を守れるか怪しいんだ」


 2人の言っている事はわかる。みんなを危険に晒す可能性があるのであれば自分1人のわがままなんて我慢した方がいいという事も理解出来た。

 そして、現状で1番みんなの役に立てていないのは私だと言う事も。


 加藤さんについて調べると意気込んで。それなのに、これと言って有益な情報も得られていない。それが悔しい。


 もちろん、加藤さんのあらゆる情報を得られたのは喜ばしい事ではあるけど・・・。


「・・・わかりました」


 そう2人に返事をしながらSNSを開き、最近DMでやり取りしているGYKさん、もとい歌音さんにメッセージを送る。


('くるみ' 歌音さんにお願いがあるのですが、文化祭の時、よかったらカメラを持ってきてくれませんか?出来れば遠距離でもなるべく綺麗に撮影出来るやつがいいんですが、そういうの持ってたりしますか?)


 するとすぐに既読が付き、返信が返ってくる。


('GYK' うーん、カメラは詳しくないので、今持ってるのが遠距離撮影に向いているかわかりませんが、それでも良ければ持っていけますよ?でも何に使うんですか?)


 その返信に対して、今の自分たちの状況と私の考えた作戦を手短に送る。


 既読はすぐに付いた。でも返信が来るまでには時間がかかったので、もしかしたら断られるかも。いや、断られても仕方ないと諦めかけていたが、ピコンとスマホが通知音を鳴らす。


('GYK' わかりました。協力します。正直迷いましたが、来海さんやその友だちを傷つける様な人たちは許せません)


 よし!と心の中でガッツポーズを取る。


 私はまだ文化祭に行くことを諦めてはいなかった。でもそれは遊びに行きたいからではなく、みんなの役に立ちたいから。


 もし文化祭で葛原さんが太陽さんたちになにかしようものなら、歌音さんにその現場を撮影してもらう。必要なら私も飛び出して、私にも手を出されるようにする。そして、それをネットに流すと脅せば、葛原さん、それから加藤さんや八代さんを止められるかもしれないと考えたのだ。もし彼女らがそれでも止まらなかったとしたら、その動画を然るべき場所に提出するか、最悪の場合、歌音さんと私の知名度を使って、実際に動画をネットに流せばいい。動画を本当にネットに流してしまうのは倫理的にはよくない行為なのはわかっている。でもそれくらいしないと勝てない相手だ。


 その時には、私から歌音さんに指示、いや、命令したと世間には説明して、その責任は全部私が引き受けよう。


 それでも、歌音さんには少なくともアンチが湧いたりして迷惑がかかるだろう。だから歌音さんには一生かけてでも償うつもりだ。


 撮影しなければ行けないという作戦の性質上、完全に後手に回ることになるし、それが危険な事なのも理解出来ている。


 だから南さんと米田さんには内緒だ。


 私は歌音さんにありがとうございますとお礼のメッセージを送りスマホを閉じた。

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