第254話 神田と八代尚文
story teller ~神田~
「急な申し出にも関わらずお時間作って頂きありがとうございます。
よそ行きの一人称で丁寧に挨拶をして、目の前の男性と名刺交換を交わす。
さすがは八代社長と言うべきか、名刺の材質も僕のチープな名刺とは違ってしっかりしている。一流企業の代表ともなるとそういうところにもこだわっているのだろう。
「どうぞお座り下さい」
ソファに座るように促され、失礼しますと腰を下ろし、膝丈くらいのテーブルに受け取った名刺を重ねたまま名刺入れを置く。
「それで、探偵事務所の代表である神田様直々にお話とは、一体なんでしょうか?誰かが私の調査でも依頼しましたか?」
今までに会ってきた人たちは、僕が探偵事務所を経営しているとわかった時点で警戒する人が多数だった。その人たちと比べ、八代社長は僕が部屋に入った時からずっと余裕の態度のままである。
実際、彼については悪い噂の1つも出てこないので情報操作なりをしているのだろうと思うが、それとは関係なく、自分の話ではないと言うことを察しての変わらない態度ということなのだろう。
「いえ、八代社長の事ではありません。今日お伺いしたいのは社長が定期的に会っている加藤という人物についてです」
「誠についてですか。彼がなにかしでかしましたか?」
僕の予想では、八代社長は加藤との繋がりに関してしらを切るかと思っていたのたが、あっさりと名前を出した事に少し驚く。
「下の名前で呼ぶということは・・・」
「ああ、失礼しました。私と加藤は学生時代からの友人でして」
八代社長は目を細めて恥ずかしそうに笑いながら右手で頭を搔く。
八代社長と加藤は最近知り合ったとかではなく昔からの知り合いということか。
「そうでしたか。では、この写真を見てどう思われますか?」
僕は茶封筒に入れていた、加藤と葛原が腕を組みながらホテルに入る瞬間を撮影した写真をテーブルに出す。
「はははっ。あのバカは本当に。あはははははっ」
予想外の反応に驚きを隠せない。呆れや怒りを通り越してしまったのか?
そして、一通り笑った後、八代社長は息を整えてからこう言ってくる。
「それで、神田様は加藤の何が知りたいのでしょうか?」
「・・・加藤とは昔からの繋がりなんですよね?
八代社長の質問には答えず敢えて挑発する。八代社長の協力的な態度が逆に怖い。もしかしたら火に油を注ぐ発言かもしれない。
そんな僕の警戒心を察してか、八代社長は頬の筋肉を緩めて笑いかけてくる。
「最近の彼の動きは怪しかったですからね。その女子高生とも会ったこともありますし、なんとなくそういう関係だと言うのもわかっていました。だから正直関係を切りたいと思っていたのですよ。なので決定的瞬間をカメラに収めた神田様には感謝こそすれ、口封じなんてしませんよ」
そう言って八代社長は、加藤のあらゆる情報を僕に渡してきたのだった。
______
八代社長の会社を出た僕は車に乗りこみ一息つく。
八代社長から渡された加藤の情報が本物であれば、あとは葛原の情報だけだ。
まずは彼女の周りから当たってみるか。それは明日からにして、今日は事務所に戻ろう。
今後どう動くかを決めてから車のエンジンを掛けて駐車場を出る。
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