第252話 正しい表現
story teller ~四宮太陽~
バイト先にて、店長と九十九さん、それから真昼ちゃんにも文化祭には来ないように伝える。しかし3人は、わかったとは言ってくれなかった。と言うよりも、店長と真昼ちゃんが頑なに頷かず、九十九さんと言い争っている。
「危ないなら尚更私も行くよ!大人も一緒の方がいいでしょ!」
「自分も行く!兄貴だけ危ない目には合わせられないよ!」
「2人は葛原と会ったことないから分からないんだよ!あいつがどんだけ危険なのか!俺は1人でも大丈夫だから、2人には留守番してて欲しいんだ!」
さっきからこんなやり取りが続いている。
俺たちの身を案じて、協力すると九十九さんが言い出したのがダメだった。店長と真昼ちゃんは、それなら私たちも!と言って聞かない。
「九十九さん、気持ちはありがたいけど、2人が心配するから九十九さんも残ってて」
「そうは言っても、人手は多い方がいいんじゃないの?」
「そうだけど、それで店長と真昼ちゃんも着いてきて、危ない目にあったら元も子もないから。なにかあったらすぐ連絡するよ」
俺がそう言うと、九十九さんはわかったと渋々了承する。
そんな九十九さんの横で、真昼ちゃんは表情を曇らせ気落ちしている。
「ねぇ太陽さん、一之輔さんにはなんて言ったらいいですか?葛原って人のことも話した方がいいのかな?」
「一之輔って甲斐さんの事?」
聞き返しながら、そういえば真昼ちゃんと甲斐さんは仲がいいと言っていたなと思い出す。
「まぁ変に誤魔化すよりは素直に話した方がいいかもね」
そう答えたのは、甲斐さんが真昼ちゃんと繋がってる以上、葛原の標的にされかねないからだ。あまり言いふらすような話でもないが、下手に隠すことで、それを葛原に利用される可能性もある。
「こんな言い方するのはあれだけど、四宮くんもとんでもない人に目をつけられたよね」
店長は会ったこともないのに葛原に気を使うようにワンクッション置く。自分の事ながら本当にそうだと思う。
「そもそもなんで葛原って人は、こんなに太陽さんに執着してるの?兄貴はなにか聞いてないの?」
「好きだから自分だけを見てて欲しいとか、縋りついて欲しい的な事を言ってたけど、葛原と一緒にいた時はそれに関して興味なかったから詳しくは聞いてないな」
「そっかー。・・・好きな人を独占したいみたいな感じなのかな?」
真昼ちゃんの想像している事も間違えてはいないと思う。けれども、葛原の俺に対しての気持ちは、行き過ぎた愛情から来る独占よりも、もっと禍々しい、もっと先にあるもの。支配とでも言った方がいいかもしれない。
周りを動かし、必要なら傷つけ、どんどんと
支配という表現が正しいかはわからないが、独占よりもそっちの方がしっくりくる。
そして、葛原に支配される自分を想像してしまい、喉がヒュッっと鳴り、首筋に刃物を突きつけられたかのようにひんやりとした感触を感じた気がした。
「四宮くん大丈夫?」
店長に声を掛けられ、いつの間にか俯いていた顔を上げると、3人は心配そうに俺の顔を見ていた。
「なんだか顔色が悪い気がします。少し休んだ方がいいんじゃないですか?」
自分では特に何も感じないが、3人の表情からを見るに、恐らく本当に顔色が悪いのだろう。
一瞬でも悪い事を想像してしまったからか。
「すみません、大丈夫です」
そう答えて、拭く必要もないほど綺麗なテーブルを拭き始める。なにかしていないと悪い事ばかり考えてしまいそうだ。
「月ちゃん呼んだ方がいいんじゃないか?その方が気持ちも落ち着くんじゃない?」
九十九さんは、何かを察したのかそう提案してくる。それは月に迷惑がかかるんじゃないかと思い、大丈夫ですと答えようとしたが、いつの日か月の言っていた、私が、みんなが傍にいるんだから、と言う言葉を思い出す。
「すみません、じゃあ月を呼んでもいいですか?」
月に会いたい。ちょっとでも悪い事を忘れて安心したい。
そんな自分の素直な気持ちに従うことにして、3人に確認すると、いいよと答えてくれた。
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