第251話 月が読む、葛原の思惑

story teller ~四宮太陽~


 下校時刻になり、強制的に文化祭の準備が中断される。とは言っても、滞りなく進んでいるので当日までには問題なく間に合うだろう。


 いつもなら空き教室の戸締りは文化祭実行委員の誰かがローテーションを組んで行っているのだが、今日は俺が閉めて帰ると伝えて、他の生徒同様に先に帰ってもらった。


「急に残って欲しいなんてどうしたの?」


 教室から生徒がいなくなり静まり返ると、月が不思議そうに聞いてくる。この場に残ったのは、俺と月、善夜と夏木さんの4人。


「話しておきたいことがあってさ・・・」


 そう切り出してから、先程斉藤さんと話した事を月たちにも話していく。和田和乃と言う聞き覚えのない名前が飛び出したりしても3人が話を止めることなく聞いてくれたのは、俺の雰囲気から何かあったのだと察してだろうか。下校時間はとっくに過ぎているので、なるべく話を早く終わらせなきゃいけない今はそれがありがたい。


「・・・だから恐らく、文化祭には葛原が来る、もしくは何かしらアクションを起こしてくると思うんだ」


 話し終わっても誰も何も言わずに数秒が経過する。そして、最初に口を開いたのは夏木さんだった。


「はぁ〜。なんて迷惑なやつなんだよ。文化祭くらい純粋に楽しませて欲しいもんだよ」


 それには全面的に同じ気持ちだ。葛原が手を出してくる可能性を全く考えていなかった訳ではないが、それでも文化祭をゆっくり楽しみたい気持ちが大きかったので、あまりこういうマイナスな事は考えないようにしていた。


「でも、文化祭で何かするってさ、あんまり現実的じゃない気がするんだけどね。一般の人も入場出来るから人の目も多くなるし、そんな中で問題を起こせば目立ちすぎると思うんだよね」


「もしくは周りを巻き込んだり、警察沙汰なっても構わないと思ってるとか?」


 俺は自分で言いながら、もし葛原がそう考えていたら本当に最悪だと思う。当日は一般の人も大勢来るはず。そんな中で無関係の人たちにまで危害を加えようとしているなら、それは決して許される行為じゃない。


 だが、ここまで黙っていた月の考えは違ったようで、違うんじゃないかな?と俺の考えを否定してくる。


「あっごめんね。太陽くんの考えが間違えてるって意味じゃないし、その可能性もあるとは思うんだけど・・・。もしかしたら、私たちが考えるように仕向けるのが葛原さんの目的なんじゃないかな?」


「・・・仕向けるのが目的ってどういう事?」


 月の発言に疑問を浮かべた俺たちを代表して夏木さんが聞き返す。


「あのね、斉藤さんに接触した時も、わざと違和感を感じさせるようにしたんじゃないかな?そしてそれを太陽くんに伝える事も分かってたとか?そうすれば私たちは、葛原さんが何かしてくる、一般の人たちも巻き込むかもしれないって考える。そうなると私たちはなるべく人を巻き込まないように動かざるおえないから人の多い場所から離れて孤立気味になるでしょ?そして、そのタイミングでなにか行動を起こそうとしてるとか?じゃないかな?」


 月は最後に、たぶんだけどね!と付け加えるが、俺たち3人はなるほどと納得する。


 大きく動いて色々な人に目撃されるとさすがの葛原も動きにくいだろう。それよりは俺たちが他の生徒や一般の人から離れるように誘導した方が何倍も楽なはずだ。


「って事は、ワタシたちはなるべく固まって行動した方がいいって事だよね?」


「そうだね。どんな可能性も捨てきれないから、人の多い場所にずっといることは出来ないけど、せめて俺たちだけでも一緒の方がいいね」


「でもずっとみんなで一緒にいるのは難しいよね?ボクたち4人はいいとして、堅治と冬草さん、も一緒のクラスだからまだマシか。問題は乱橋さんと内海さんだよね」


 1年生の2人は、俺たちと学年が別どころか、お互いのクラスすらも分かれている。なにか問題が起こるとしたら、まず始めに乱橋さんと内海さんかもしれない。


「2人には後で忠告して、必要なら誰かが常に2人と一緒にいるようにするしかないかな?」


「そうだね。あとは、花江たちかな。来ない方が良いって伝えた方がいいよね?」


 夏木さんはみんなの身を案じているようだ。だが月はそれに対しても別の考えがあるようで、うーんと唸ってから発言する。


「来ない方がいい・・・かもしれない。けど、架流さんだけでも来て欲しいかも。架流さんならなにがあっても自分で対処出来ると思うし、私たちが自分たちのクラスの出し物の途中で周りの状況が全く分からない時に、会場を見て回れる人はいた方がいいかもしれない。あと獅子王くんにも来て欲しいかも。私たちの手が回らない時に、穂乃果ちゃんと純奈ちゃんの近くにいて欲しいかも」


 月の考えも一理ある。葛原が行動を起こしてきた時に、全く情報がないままだと対応出来ない可能性もあるし、結局人手は多い方が助かる。


「じゃあ帰ってからグループチャットを通して、俺からみんなに話すね。3人も確認だけでもお願い。それと、桜木先生にも相談してみよう。先生なら話を聞いて力になってくれると思うし」


「うん、そうした方がいいね。とりあえず今日は帰って、明日桜木先生に話してみよ」


 話し始めた時は辛うじてオレンジ色が残っていた空が、今は黒く染まっていて、月と星の光だけが唯一の明かりとして機能していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る