第250話 斉藤さんの推理と決意

story teller ~斉藤天綺~


和田和乃わだかずのさん?確かに同級生だよ。とは言っても名前を知ってる程度だけど、その和田さんがどうかしたの?」


 和田さんと会った次の日の放課後。四宮くんに和田さんを知っているか尋ねたところ、そんな返事が返ってきた。という事は、本当に中学時代の知り合いなのだろう。


 私が昨日和田さんからお願いされていた、文化祭に来てもいいかという事を確認すると、意外にもあっさりした様子で別に来る分にはいいんじゃないかな?と四宮くんは答える。


「えっ?そんな軽い感じなんですか?」


「ん?軽い感じ?どういう事?」


 和田さんは自分のことを加害者側の人間だと言っていた。わざわざそんな表現をするのは、四宮くんに対して少なからず何かしらの事をしたと自覚のある人の表現だ。なので、四宮くんは会いたくないとか、拒否するような反応をすると思っていたのだが・・・。


「実は和田さんから、四宮くんが中学生の時に色々酷い事があったと聞きました。詳しいことは聞いてませんが、和田さんも加害者側の人間だと言っていたので、てっきり四宮くんは和田さんには会いたくないのかとばかり・・・」


「あーなるほど。うーん、でもそれはちょっとおかしいかも」


「おかしい?」


 私の問いかけに、四宮くんは少し考え込み、言葉を選びながらゆっくりと話す。


「正直、和田さんとは話した記憶もそれほどないし、同じクラスにもなった事はないんだ。だから加害者側かと言われると違う気もする。でも一応、和田さんの言う色々って言うのは、中学時代、その当時の学年全員が関わってると言っても過言ではないかもしれない。だから和田さんが直接俺になにかした訳じゃなくても、少しは関わっているって意味で加害者側って言葉を選んだんじゃないかな?」


 四宮くんの身になにがあったのか分からないので、彼の言っている事のほとんどが私には伝わらない。だが、学年全員が関わるような事件が起きた?それは相当エグい事があったのかもしれないのは想像出来た。


「じゃあ四宮くんは和田さんに会うこと自体は嫌じゃないと?」


「まぁ、少しは抵抗あるよ?でも直接なにかされた訳じゃないのに、和田さんを一方的に拒否るような事はしたくないからね。それに今、俺の周りには月たちがいてくれるからね」


 月たちがいてくれる。それはきっとそれだけで乗り越えられるという意味合いなのだろう。四宮くんが春風さんたちを信頼している事がわかる言葉だった。そして、抵抗あるにも関わらず、拒否らないのは彼が優しい人間である証拠だ。


 中学時代の四宮くんの知り合いで、彼自身も和田さんに対して嫌悪感を抱いている様子もない。私の感じた違和感は気のせいだったのか。


「そうですか。それなら、私の方から和田さんに連絡しておきますね?文化祭に来てもいいですよって」


「うん、お願いします。当日はゆっくり話せるかわからないけど、お化け屋敷の受付に来てくれたら顔を合わせるくらいは出来るって伝えてて」


「わかりました。と言うか、春風さんといい、和田さんといい、四宮くんって可愛い人にモテるんですね?」


「そんな事ないよ?ってか和田さんってそんなに可愛かったかな?あっ別にブザイクだって言ってるわけじゃないよ?ほとんど関わりがなかったから、正直顔が思い出せないんだよ」


「分かってます。でもとても可愛い人でしたよ?同性の私でも見惚れるくらいには」


 四宮くんは和田さんの顔を思い出そうと、顎に手をあてて記憶を引き出している様だ。


 そして私は、1度捨て去った違和感を再び拾い上げる。


 和田さんは同性でさえ見惚れる程整った顔の人だ。いくら春風さん意外に興味のない四宮くんでも、忘れると言うのは考えにくい。そもそも春風さんとは高校からの付き合いで有るはずなので、中学時代にあれほど可愛い人がいたならば覚えているはずだ。


 だから私は、和田さんに嘘の連絡を入れる。


 四宮くんは和田さんに会いたくないと言っていました。と・・・。


 それから、今日学校を休んでいる原田くんにもメッセージを飛ばす。

 しかし、案の定と言うべきか、既読は付かない。ただ体調が悪く、直ぐに確認出来ないだけならいいけど。


 嫌な予感がする。


「四宮くん。明日とか明後日とか、いつでもいいんですが、もし原田くんに和田さんが文化祭に来たいらしいんだけどって聞かれたら、来ないで欲しいって答えてもらえますか?」


「どういう事?和田さんは来ちゃダメなの?」


「たぶん、私の会った和田さんと、四宮くんの想像している和田さんは別人です」


 頭に疑問を浮かべる四宮くんに、私は自分の考えを話す。


「私は、和田さんに会った時、それと彼女の言葉と表情から違和感を感じました。なんて言うか、純粋だけど、不純物の混ざった、矛盾しているようなものです」


 自分でも何を言っているのかわからないが、そのまま続ける。


「だからたぶん、私の会った和田さんは、本物の和田さんの名前を使って四宮くんに近づこうとしているのかも知れません」


「なんでそう思うの?」


「和田さんは同性の私が見惚れる程の整った顔つきの女性ですよ?男性である四宮くんが忘れる訳がありません。もちろん、整形をした可能性もありますが、ただの高校生がそこまで出来るとは考えにくいです。四宮くんの覚えている限り、和田さんはお金持ちのお嬢様とかでしたか?それなら整形の可能性も高くなりますが、どうですか?」


「いや?たぶんお金持ちではないと思、う・・・・・・。」


 そう答えながら、四宮くんは何かに心当たりがあるのか、唇を噛み締めながら、私が初めて聞く名前を口にする。


「もしかして、葛原・・・未来・・・?」


 葛原?それは誰ですか?


 そう聞こうと思ったが、四宮くんの表情は、簡単に何かを問いかける事も憚られる、不安と怒りの混ざった、思わずたじろぐ様な顔だった。


「四宮・・・くん?」


 恐る恐る声をかけると、四宮くんはハッと我に返り、息を整えてから、ごめんと一言謝ってくる。


「詳しくは聞きませんが、その・・・、葛原さんという方となにかあったんですね?」


「うん。たぶん、斉藤さんが会った和田さんは葛原だと思う」


「とりあえず、私からは和田さ、いえ、葛原さんと思われる人には、文化祭には来ないようにと連絡しておきました」


 そう伝えれば、少しは四宮くんの気が晴れるだろうかと思ったが、彼の表情は暗いままだ。


「ありがとう。でもたぶん、いや確実に葛原は来ると思う。本人が来なくても少なからず誰かしらを使ってなにかアクションを起こしてくると思う」


「そう、ですか・・・。私にもなにか出来ることはありますか?」


「ありがとう。でも斉藤さんまで危ない目にあるかもしれないから、大丈夫。お願いがあるとしたら、なるべく俺たちに関わらないようにして欲しい」


 そうは言われても、文化祭実行委員でもないのに私たちの仕事を手伝ったり、色々と手を回して3組のみんなを片付けに参加させたりと、四宮くんたちには恩がある。だから、なにか出来ることがあるのなら協力したい。


「わかりました。なるべく関わらないようにします」


 でも、優しい彼はきっと、私がなにも言っても危ないからと距離を置こうとするだろう。それならば、私は原田くんがなにも出来ないように監視して、もしなにかしようものならそれを止めてやると心に決める。

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