第249話 斉藤さんの女の勘

story teller ~斉藤天綺さいとうあまき~


 文化祭実行委員の仕事はクラスで指示を出すだけではなく、生徒会の手伝いとして、Ms、Mrの投票集計を手伝ったり、当日の会場の見回りをしたりと結構忙しい。


 そして、今年の生徒会メンバーは、去年に比べてレベルが落ちているように思える。生徒会のから見ていてもそう思っていたが、実際に手伝いのために関わりをもって、それをより実感した。まぁ去年の甲斐先輩たちが優秀過ぎたのかもしれないが。


「斉藤さん大丈夫ですか?」


 疲れた目を押さえながら歩く私を心配してか、隣から原田くんが声を掛けてくる。

 放課後を使って、生徒会メンバーと共に昨日のMs、Mrの投票を数えていたのだが、それが想像よりも大変だった。


「大丈夫です。ずっとパソコンの画面を見てたので目が疲れているだけですよ」


 そう答えながら2人で正門を通過すると、門の前に女性が立っている事に気がつく。


 人が居るとは思っていなかったので、影が見えた瞬間にビクッと体を跳ねさせてしまうが、その女性の顔、スタイルを見た瞬間に恐怖など忘れ、思わず見入ってしまう。


 女性の顔はとても整っており、同じ女性の私でさえ目を奪われる程の美貌。

 男性である原田くんは私よりもその姿に見惚れているように見える。


 お互いに足を止め、不自然なくらいに女性を眺めていると、彼女は私たちの視線に気がついたのか話しかけてくる。


「こんばんわ。ここの生徒さんですか?」


「はい。そうですが」


 真っ先に反応してそう返したのは原田くんだった。


「よかった。もう誰も出てこないかと思ってました」


 その女性は、ただでさえ美しい顔であるにも関わらず、安堵の笑顔を浮かべることで更に美しさが倍増さる。


「なにか用があったんですか?」


「用・・・という程ではありませんが・・・」


 余所行きの口調なのか、丁寧な言葉遣いのその女性は、四宮太陽くんって知ってますか?と聞いてくる。


「知ってますが・・・」


 見たところ、私たちと変わらない年齢だが、制服ではなく私服を着ているので素性がわからない為、私は少し警戒する。


「あっ、すみません。と申します。四宮くんとは同じ中学だった者です」


 私の反応で察したのか自己紹介をしてくる和田さんは、そのまま続けてここに来た理由も話し始めた。


「そろそろ文化祭が行われると聞いて、四宮くんにわたしも来ていいのかどうか確認したくて、ここで四宮くんを知っている人を待ってたんです」


「四宮くんを待ってたではなくて、知ってる人を待ってた、ですか?」


「はい。四宮くんにはまだ、直接会う勇気がなくて・・・」


 なにか会えない理由でもあるのだろうか。だが、それを聞くのはなんだか憚られる。


「あの!お願いがあるんですが。わたしが文化祭に来てもいいかどうか、四宮くんに聞いてもらえませんか?」


「別に中学時代の知り合いなら確認せずに来ても問題ないんじゃないですか?」


 文化祭は、一般の人の入場も許可されている。それは招待された人のみとかではなく、誰でも自由に出入り可能ということだ。学校のホームページにもそう記載されているはずだし、文化祭があるという情報を知っているのなら、勝手に入場出来ることくらい知ってても同じくはない。

 それなのに、わざわざ四宮くんに確認したいのは、会えない理由の方と関係があるのだろうか。


 そんな私の疑問に答えるように、まるで用意していた回答を読み上げるように、和田さんはこう言ってくる。


「実は、中学生の時に色々と酷いことがあって、四宮くんは中学時代の同級生には会いたくないと思っているはずなんです。わたしも加害者側の人間ですが、わたしはそれを四宮くんに直接会って謝りたいんです。でも連絡先も知らないし、こんな所で待ち伏せしてたら余計に謝れないと思って・・・。でも文化祭なら、その場の空気もあるので、ちゃんと話が出来るかなって思って」


 そう言った和田さんの顔は、恋する乙女のそれであった。ただ謝りたいだけじゃなく、きっと自分の気持ちも伝えたいのだろう。だからこそ、文化祭という舞台を利用したいと考えたのだろう。


「四宮くんに確認するのはいいですが、その・・・。四宮くんには彼女がいますよ?」


 しかし、和田さんは知ってますよと答える。


「四宮くんに彼女が居ることも、その人がとても可愛い事も知ってます。それでも、自分の中でちゃんと諦めたくて」


 なるほど。振られる覚悟は出来ていると・・・。


「・・・わかりました。一応四宮くんには、和田さんが来てもいいかどうかって事だけ聞いておきますね。えっと、連絡先交換しておきます?」


 四宮くんに確認したあと、和田さんにどうだったか伝えるには連絡先を交換するしかないのだが、今さっき知り合ったばかりなので、一応礼儀として確認する。


 彼女は、いいんですか?と嬉しそうな表情を浮かべ、すぐにスマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げ、QRコードをは差し出してくる。


「読み込みました。あっ、遅くなりましたが、私は斉藤といいます。こっちは原田です」


「どうも原田です。僕も連絡先交換してもいいですか?」


 ついでにと言わんばかりに自分のスマホを取り出して、原田くんも連絡先を交換している。これを機に美しい女性とお近づきになろうという魂胆が見え見えだ。


「じゃあ、明日確認しておきますので」


「よろしくお願いします」


 そう挨拶を交わして、和田さんと分かれる。


 そして、少し離れてから、和田さんの後ろ姿を確認するために振り向く。


 なんだろう。ただの女の勘だが、彼女にはなんとも言えない違和感を感じた。

 四宮くんに対しての気持ちは本物に感じたのだが、その中になにか、の様なものを感じたのだ。


 だから黙っていても良かったかもしれない、四宮くんに彼女がいるという事実をわざわざ伝えたのだが、それを知っていても尚、気持ちを伝えたいと言われてしまっては、拒もうにも拒めなかった。私が和田さんに対して不信感を抱いたことにも気づかれない為にも。


 とりあえず、四宮くんには伝えてみて、彼の反応を見てからどうするか決めよう。

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