第248話 MsとMr投票
story teller ~四宮太陽~
うちの高校の文化祭は2日間行われ、2日目の本番終了後、うちの生徒だけが参加出来る後夜祭というものがある。
後夜祭と言っても、前もって申請のあった各クラスや部活動が演し物などを体育館で行う、舞台祭の短い版と表現した方が早い。
その後夜祭ではMs、Mrコンテストなるものがあり、各クラスから投票された紙を生徒会が集めて集計し、各学年の1〜3位までの人を発表するものだ。
そして、今、5限目のHRではそのMs、Mrを決める為の投票が行われており、投票用紙が配られていた。その紙には男女それぞれ3人まで名前を書くことができるようになっていて、それは紙に男女1人ずつ名前を書くと、1位と2位、3位の人の投票数に偏りが出るための対策なのだろう。
俺は男子の欄を上から順に埋めていく。特に迷うこともなく、善夜、堅治、そしてもう1人、八代の名前を書いた。善夜は言わずもがな、堅治と八代も俺から見ると十分、いや、正直嫉妬してしまいそうな位にイケメンだと思う。
そして、迷うのは女子の欄だ。
1人はもちろん決まっている。俺の大切な彼女である月だ。月は学年で1番可愛いと言われているので、自分の彼女じゃなかったとしても投票していただろう。
だが、あと2人は本当に迷ってしまう。別に2年生の中から選ばなくてはならない訳ではないが、正直、1年生と3年生の女子生徒の事はほとんど知らない。だから結果的に2年生から選ぶことになるのだが、誰にしたらいいのかわからないのだ。
迷っているのはわからないからだけではなく、なんだか月に申し訳ない気持ちになってしまう。たぶん月はそんな事気にしないと思うが、月が気にしなくとも俺が気にしてしまう。だからと言って夏木さんや冬草さんに入れるのもなんか適当に決めてしまった感がある気がする。
自分では決めきれず、席を立って月に近づく。
今のHRの時間は緩い空気が流れていて、俺の他にも席を立って移動している生徒も何名かいるので問題ないだろう。
「月は誰の名前書いた?」
後ろから声を掛けると、月は驚いたように体を跳ねさせ、サッと紙を隠してしまう。
「な、内緒だよ?」
「えっ?なんで?」
「だって・・・。なんか恥ずかしいし、申し訳ないし」
申し訳ない?それは俺に対してだろうか?
「俺も女子を誰にしようか迷っててさ。どんな感じで決めたのか、参考までに教えてよ」
「うぅ。見ても怒らない?」
「??怒らないよ?」
と言うか俺が怒るような人物の名前を書いたのだろうか?
俺の言葉を聞いて、月は約束ねと念押ししてから紙から手を退ける。その紙の男子の欄には上から順に、善夜、俺、堅治の名前が書いてあった。
「こ、これには訳があってね!太陽くんが1番カッコイイと思ってるよ?でも周りに合わせたら車谷くんが1番なのかなと思って最初に書いただけで、太陽くんよりカッコイイとは思ってないから!太陽くん以上にカッコイイ人なんていないから!」
聞いてもないのに言い訳をしてくる。正直、俺から見ても俺よりも善夜の方がカッコイイのは明白だから構わないのだが・・・。あと、月に悪気はないと思うけど、クラス中の男子が地味にショックを受けてるから声を抑えて欲しい。
「いやいや、善夜の方が俺よりカッコイイから大丈夫だよ」
「そんな事ないよ?太陽くんの方がカッコイイよ」
「なんか恥ずかしいな。でもありがとう」
「えへへ、どういたしまして。太陽くんは女子に誰を選んだの?」
月は俺の手に持った紙を覗き込もうとしてくるので、見やすいように机の上に紙を置く。その紙を見て、自分の名前しか書かれていないのを見て顔を赤くしている。
「な、なんで私の名前だけ?ほ、他の人は?」
「Msの投票って言われて真っ先に思い浮かんだのは月だけだったからさ。あと2人は正直誰にしたらいいのか迷ってる。だからどうやって決めたらいいのか相談したくて」
「私を真っ先に・・・。へへっ、嬉しい」
りんごの様な赤い顔を隠すように俯いて小声でそんなことを言っている。嬉しいなら良かったけど。
「お二人さん、今は授業中なのでイチャイチャしないで貰えます?あと人の彼氏の名前を書いといて、カッコイイと思ってないとか、ワタシも地味に傷つくんだけど?」
そう言って声を掛けてきたのは夏木さんだ。隣には善夜もいる。
「ご、ごめんね!そういう意味じゃないよ!あとイチャイチャはしてないよ!」
「いやいや、周りを見てみなよ」
言われて周りを見ると、教室中の視線が向けられていて、男子は悔しいと羨ましいの半々、女子は微笑ましく見守るようにしていた。
別にイチャイチャしているつもりはなかったが、思い返すとそう取られてもおかしくは無いやり取りをしていたと思う。
「あー。四宮、春風。一応授業中だと言うことを忘れるな?」
担任の桜木先生まで目を背けながら言ってくる。怒られなかっただけマシなのかもしれない。
「すみません」
「ごめんなさい」
俺と月はお互いに謝罪をして反省する。
「太陽は女子を誰にするか迷ってるの?」
善夜が俺の紙を見てそう聞いてくるので、そうなんだよねと答え、お願いして善夜の紙を見せてもらう。
なんとなくわかっていたが、最初に夏木さんの名前が書かれていて、その後に月と冬草さんの名前が続いている。
「やっぱ友だちだから月と冬草さんを選んだの?」
「うーん、友だちだからって言うか、それ以外の女子ってなると、乱橋さんと内海さんしか知らないし、それなら光さんと春風さん、冬草さんの3人で壇上で表彰された方が面白いかなと思ってさ」
なるほど。そういう考え方もあるのか。
「俺も夏木さんと冬草さんの名前書いてもいいかな?」
「四宮もワタシに入れるの?月と涼は可愛いからわかるけど、ワタシはそんな可愛くないでしょ」
「可愛いかどうかじゃなくて、善夜の言うように、3人で壇上に上がってる姿を見たいなと思ってさ」
「なんかそれだとワタシが可愛くないみたいじゃん。それはそれで傷つくんだけど」
「いや、そういう事じゃなくて!夏木さんも可愛いと思うけど―――」
「太陽くん?」
あっ。終わった。
月は頬を膨らませて怒っているアピールをしてくる。そしてそんな様子を見て夏木さんが笑い、善夜が夏木さんを注意する。
そして、俺たちは4人揃ってイチャイチャするなと桜木先生に注意されるのだった。
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