第246話 光と純奈
story teller ~四宮太陽~
放課後の文化祭の準備は、片付けの時とは打って変わって順調に進んでいた。
原田くんの知り合いの古着屋さんから譲って貰った服は、本当にリサイクルやリユースに回された物なのかと思うほどに状態がいい物がほとんどであり、それをわざと破いたり、色を塗ったりするのは少し心が痛む。というか個人的に欲しいと思うものが何点かある。
「はい次。・・・・・・。それも頂戴」
うちのクラスの実行委員である松田さんは、率先して作業にあたっていて、無心で服に切れ込みを入れたり、破いたりしていく。もしかして破壊衝動でも心に秘めている人なのか。怒らせたら怖そうだ。
その光景を横目に、俺は月と一緒に運んできたダンボールをみんなに配っていく。
「四宮。このダンボールちょっとサイズが大きいみたいなんだが、少し調節しても大丈夫か?」
「うん!切り取った分は捨てずに置いてて欲しい。後から足りなくなったら困るから」
「月ちゃん。ここの壁の色って赤でいいの?」
「うん!全体的にじゃなくて、血が垂れてるような感じでお願い出来る?」
俺と月は実行委員ではないものの、ダンボールを調達してきたからか、壁づくり組の生徒は俺たちに指示を求めてくる。別に困りはしないし、これはこれで楽しいから構わないけど、月と一緒に文化祭をゆっくり過ごすために実行委員にならなかったのに・・・。当日は時間を作れるだろうか。
そんな感じで作業を進めていると、周りの生徒たち、特に男子生徒が騒がしくなる。どうしたんだろうかと思って騒いでいる生徒の方に視線を向けると、そこでは1年生である乱橋さんと内海さんが空き教室中の視線を集めていた。
「やっほー四宮、手伝いはいる?」
「太陽先輩こんにちは。お手伝いにきました」
「えっ?自分たちのクラスの準備は?」
こっちの手伝いなんてしてる暇はあるのだろうかと思いそう確認すると、2人のクラスは文化祭で展示をする事になっているとの事で、もうほとんど準備は終わっているらしい。一体どれだけ簡易的な展示なのだろうか。
「手伝ってくれるのはありがたいけど、周りの視線気にならない?」
2人とも整った顔をしているので、男子たちがざわめき立つ気持ちもわかるが、こんな視線に晒されて平気なのだろうか。
「正直ちょっとウザイけど、気にしなければ問題ないよ」
「純奈さん、先輩たちに向かってウザイはダメですよ」
「じゃあ穂乃果はウザイって感じないの?ってか春風がいるんだからそっち見てろって感じ」
内海さんは先輩相手にも相変わらず口が悪い。いや、悪い子じゃないのはわかるんだけど・・・。あとでそれとなく注意しておこう。あと、俺の彼女をなんだと思ってるんだ。
「まぁ2人が大丈夫ならお願いしたいかも。人手は多い方が助かるし」
こうして、2人が手伝ってくれることになった。
******
story teller ~内海純奈~
四宮の指示に従ってダンボールに色を塗っていく。その間も男子からの視線をチラホラと感じるので、あんまりおしりを上げてスカートの中が見えないように気をつける。
あたしは別に大丈夫だけど、穂乃果はそういう視線は大丈夫なのだろうかと、定期的に彼女に目を向けるようにしていたのだが、穂乃果は作業を開始してからずっと四宮にピッタリくっついている。それだけならまだ良いが、普段表情の変わらない穂乃果の顔が心做しか嬉しそうに見える。
あの顔はなに?っていうか春風もいるのに距離近すぎない?
当の春風はなんとも思ってないのか、それとも気づいていないだけなのか、自分の作業に集中している。
しかし、離れた場所で作業をしている夏木は、穂乃果と四宮の様子を見て複雑な表情を浮かべている。
「内海さんだっけ?手が空いたから手伝おうか?」
作業を進める手が無意識に止まっていたからか、男子生徒が話しかけてくる。手が空いたとは言っているが、目の前の男子生徒と一緒に作業をしていた他の男子たちがニヤニヤしているのを見るに、あたしとお近付きになろうとしているのだろう。不愉快だ。
「じゃあお願いしていい?一旦、全体を黒で塗った後に墓石を描くみたいだからよろしく」
そう伝えてあたしはその場を離れる。後ろから、えっ?一緒に、やりま、しょうと今にも消えそうな声で言ってくるが無視無視。
「手伝うよ」
衣装に色を塗っている夏木にそう声をかけてしゃがみこむ。
「
「はぁ?別に穂乃果にベッタリじゃないし、好きで
そう言いながら穂乃果と四宮を見る。
なんて言うか、今の穂乃果には近づきにくい。正確には、穂乃果と四宮の間に入りにくい。
「あんたも気づいた?」
あたしがそう思っているのを察したのか、夏木が小声で聞いてくる。主語のない言葉だったが、それだけで十分、と言うよりも、夏木の言葉で確信した。
「なんとなくね。穂乃果って四宮が好きなんでしょ?」
小声で夏木に返す。
「親友のあんたから見てどう思う?やっぱあんたは穂乃果を応援したいと思う?」
「・・・・・・どちらとも言えないかな。見てたらわかるけど、四宮は春風にゾッコンでしょ?正直穂乃果には勝ち目ないから諦めた方がいいって思うよ。でも穂乃果を応援したい気持ちもあるかな」
四宮や春風と知り合ってなかったら、奪ってしまえと穂乃果に言っていただろう。でも知り合ってしまった以上はそんな事は言えない。
口が裂けても言わないが、四宮の事も春風の事も嫌いではない。むしろこんな自分を受け入れて、友だちと言ってくれたから好きな方だ。だから2人の関係を邪魔するような助言はしないし、出来ない。
「
あたしはどちらとも言えないが、穂乃果の気持ちを知っていて、更には春風の親友である夏木の考えも気になると思い質問を投げかける。
すると夏木は、表情を変えずにこう言ってきた。
「止める。っていうか止めたし牽制もしたつもり。でも今のところは月も気にしてないみたいだし、穂乃果も四宮に告白するつもりはなさそうだから今は放置かな。あんまりしつこく穂乃果に言ってもウザがられるだろうし、それで今のみんなとの関係が崩れるのは本意じゃないしね。問題ないなら放っておくしかないでしょ。友だちだし信じるのも大事だと思うしね」
根本的にはあたしと同じ考えで、今の関係を壊したくないと思っているようだ。違うのはあたしはどちらかと言うと穂乃果の味方であり、夏木は春風の味方というところだろう。
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