第245話 加藤が葛原に協力する理由

story teller ~神田~


 加藤と葛原が一緒に行動している。


 そんな調査結果が部下から入ってきた。一緒にホテルに入るところまで確認済みらしい。


 女子高生とホテル。その情報を警察に渡すだけで加藤は逮捕されるだろう。しかし、今はもう少し情報が欲しいので、まだ通報する訳にはいかない。


 葛原の目的は、米田さんの知り合いにちょっかいを出す事だと聞いているが、それに加藤が関与するのはなぜなんだ。


 高校生の人間関係に大人が、しかも親でもない人が関わろうとする意味がわからない。加藤になんのメリットがあるんだ。


 バンッ!


「神田社長!ちょっといいですか!」


「どうした?」


 社長室として使っている小さな部屋の扉が勢いよく開かれ、部下が焦ったように入ってくる。

 その手にはスマホが握られていて、説明もなしにそれを僕に渡してくる。


「なんだ、どうした?」


「とりあえず電話!繋がってるので!」


 よく分からないが、言われるがままにスマホに耳をあて、もしもし?と言うと、電話の向こう側から、すみませんと謝罪の声。その声の主が、スマホを差し出してきた部下とペアを組んで、加藤と葛原の調査を行っていたもう1人の部下だと気づく。


「社長、しくじりました」


 電話の向こうから聞こえてくる人の騒がしい声や車の音などから、人気の多い場所にいる事がわかるが、部下の声は息も絶え絶えな様子だ。


「加藤と葛原を追跡中、男に襲われました。めちゃくちゃなやつで、スマホも破壊されて、今やっと見つけた公衆電話から連絡してます。社長たちも気をつけてください」


 要点だけ伝え、電話が切れる。恐らく、公衆電話に入れた金額分に達したのだろう。


 スマホが破壊されたと言っていたが、部下の位置情報を確認すると、最後に滞在していた場所がマップに表示される。まだその周辺にいるかもしれない。


「神田社長。なんて言ってました・・・?」


「気をつけろって言ってた。僕はとりあえず迎えに行ってくるから、業務を続けててくれ」


 声の様子的に怪我をしていてもおかしくはない。それだと自力で帰ってこいというのは酷だろう。


 僕は事務所を飛び出して、位置情報の最終更新場所を目指して車を走らせた。


 ******


story teller ~加藤~


「はぁ。いくらわたしたちの後をついてまわってる人が居たからって、考えもなしに殴るってどうかしてるわよ。捕まりたいわけ?」


葛原あんたの指示で殴るのとなにが違うんすか?」


「バカね。わたしはちゃんと考えて指示を出してるの。誰彼構わず殴ってたら八代あんたは今頃刑務所行きよ?」


 恐らく探偵であろう、私たちの後を付けていた人物を発見したから殴ったと八代から報告を受けた葛原は怒っているが、私的にはそれでいいと思っているし、どうせならもっと大きな問題を起こして欲しいものだ。そうすれば、八代の父親を追い落とせるかもしれない。


 優秀な兄と不出来な弟、小さい頃は仲の良かった兄弟2人だったが、中学に上がる頃には兄弟の仲は悪くなったらしい。悪くなったとは言っても、弟である武文が、父親から期待され、可愛がられている兄の明文を一方的に嫌っているだけらしいが。


 そして、武文は父親の気を引きたいが為に今のようになってしまった。まぁその結果、気を引くどころか父親は武文を家から追い出してしまった。


 自分の人生の汚点だと言って切り捨てた武文が私に利用されるとも知らずに。


 私は自分の手はなるべく汚さずに、あくまでも葛原のバックアップに徹する。そして、その葛原が八代を使って問題を起こす。そうすればいずれは警察沙汰になり、武文の父親である八代尚文やしろなおふみはその責任を取らざるおえない。


 そして、その責任を追及して、国内でも大手のグループ企業トップの地位から尚文を追い出し、やつを地面に叩き落とす。


 前職をリストラされて、路頭に迷っている時、学生時代の仲間だからと言う理由だけで拾ってくれたのは嬉しかったが、蓋を開けてみれば、現金化なんてグレーな仕事を押し付けてきた。


 これはそんな尚文に対しての復讐。犯罪スレスレな事や、大変な仕事ばかり押し付けてきて、自分はふんぞり返ってなにもせずに甘い蜜を吸うだけ。しかも、現金化なんてやってる事がバレたら世間からの風当たりが強くなるとかで自分の会社とは無関係な振りさえしている。


 絶対に地獄に引きずり落としてやる。

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