第244話 それぞれが文化祭に行く理由
story teller ~八代明文~
送られてきたDMを眺めながらため息をつく。
何かの間違いだと思いたい。そんな気持ちでDMを開いては閉じ、開いては閉じを昨日の夜から、事ある毎に繰り返している。
「なぁ明文。やっぱなんかあったろ?」
なるべくいつも通りのつもりだが、そんなにわかりやすい顔をしているのか、静寛は朝からぼくの事を気にかけてくれている。
もう素直に話した方がいいかと諦め、純奈さんとのDMを見せる。
「'すみません、もう八代さんとは会えません'って急になんでだ?お前会った時になにかしたのか?」
ふるふると首を横に振り否定するが、同時に、もしかしたらぼくに覚えがないだけで、純奈さん的には嫌なことをしてしまったのかもしれないとも考える。
「いや、なんもしてなかったらもう会えないとか言わないだろ普通。ほんとに見に覚えないのか?」
「ぼく的にはね。・・・・・・あっ、でも、純奈さんと会った時、一緒に男の子が来てたんだよね。もしかしたらそっちが関係してるかも」
「はぁ?待て待て、どういう状況だよ」
「えっと、待ち合わせてた公園に行ったらさ・・・」
ぼくは昨日の事をなるべく正確に思い出しながら静寛に話す。静寛は途中で口を挟むこともなく、黙って最後まで聞いてくれる。
「・・・2人の距離感的に、もしかしたら付き合ってたのかなと思うんだ」
「でもそれは否定された訳だろ?」
「そうだけどさ、よく思い出してみたら、友だちだって言ってたのは稲牙さんだけで、純奈さんはそれについては一言も触れてなかった気がする」
いや、気がするではなくそうだ。純奈さんは稲牙さんの事を恋人とも言わなかったが、友だちとも言わなかった。という事は、実は恋人でしたって可能性もあるかもしれない。
「でもさ、もしその2人が付き合ってたとしたら、なんの為に嘘ついてまで明文に会ったんだ?カッコイイですねなんてDMまでしてきてさ」
そう。静寛の言うようにそれがわからないのだ。もし2人が付き合っていた場合、稲牙さんが純奈さんに着いてきたのは心配だからというのと、ぼくに対しての牽制もあっただろう。だから稲牙さんの行動理由はなんとなく理解できる。
でも純奈さんがぼくに会う理由がどれだけ考えてもわからない。こればっかりは直接聞くしかないだろうけど、DMを送ったところで無視される可能性の方が高い。だからといって、わざわざ学校に会いにいくのは気持ち悪がられるだろう。
「もう会えないだろうし、真相は闇の中だね・・・」
「なぁ?純奈さんの学校ってどこかわかるか?」
「わかるけど、もしかして純奈さんの学校に行こうとしてる?」
「行くっちゃ行くけど、すぐじゃないよ?とりあえず学校教えてくれ」
言っている意味がわからないが、とりあえず聞かれたことに答える。
すると静寛はスマホを操作して、なにかを調べている。そして、よし!と一言発してから、ぼくにスマホの画面を見せてくる。
「3週間後に文化祭があるらしい。一般の人も入れるっぽいからさ、一緒に行こうぜ!」
「本気で言ってる?純奈さんに引かれるんじゃ・・・」
「いやいや、あくまでも文化祭を見に行くんだ。その途中で偶然、ばったり会っちゃう分にはおかしくないだろ?」
言っていることはわからんでもないが、そんなのはただの暴論ではないだろうか。
「まぁ稲牙って男の子と付き合ってるかどうかだけでも確認しようぜ。じゃないとお前も次に進みにくいだろ?」
目の前のぼくの友だちは、きっと100%ぼくの事を思ってくれているのだろう。純奈さんの事を抜きにしても、ずっと連絡を取れていない弟もいるはずなので、あんまり乗り気はしない。だが、静寛の言うことも一理あるとは思うので、文化祭に行くことを渋々承諾した。
******
story teller ~長岡楓~
「楓さん、太陽たちの学校の文化祭っていくの?」
「いやいや、お店閉めるわけにはいかないし無理でしょ〜」
「えー。いかないの?俺は楓さんと一緒に行きたいんだけど。デートしたいし」
んーーーー!!!!なんでこの子はこんなストレートに言うかな。
「あれ?もしかして照れてる?可愛いね」
デートと言われて照れる私を見て朝日くんは楽しんでいる。顔がいい上に、私自身こんなに好き好きされるのは久しぶりなので、すぐに意識してしまう。
「そうやって
「じゃあ
精一杯の抵抗も虚しく、ニヤニヤとした表情で朝日くは聞いてくる。してやられた。そんなに私と文化祭に行きたいのだろうか。
「わかったわかった。じゃあ午前中だけね?」
正直、朝日くんとデートしたい気持ちもあるし、断るのは申し訳なかったのでそう答える。
「やりぃ!その日は別々に家出てどこかで待ち合わせしようよ!」
よほど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべて提案してくるので、わかったと答える。こんなに喜ばれるとこっちまで嬉しくなる。
ってかお互いに告白した訳じゃないけど、これって付き合ってるってことでいいのかな?
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story teller ~葛原未来~
デジャブかな?この光景は前にも見た。
並んで正座している夫婦は、目の前の加藤の存在に震えているようだ。
「現金化して作ったお金をまたギャンブルに使ったんですか?」
「すみません。本当にすみません」
「はぁ。もうショッピング枠も無いわけですよね?どうやって私にお金を返す予定だったんですか?」
「それは・・・」
言い淀むところを見るに、ギャンブルで増やして返済しようとしたのだろう。なんてバカなんだろうか。
こんな大人になっちゃダメですよと子どもに紹介出来るくらいにいい反面教師だ。
「あと数日待って頂けませんか?そうしたら必ずお金は返しますから!」
「お願いします!本当にお願いします!」
懇願するように加藤の足にしがみつく奥さんと、床に頭を擦り付ける旦那。本当に底辺なやつらだ。
「わかりました。では、10日待ちます。それまでに20万用意しておいて下さい」
20万という金額は、ろくに働いてもいない2人にとって厳しい金額だろう。加藤もそんな金額を用意出来るとは思っていないだろうが、そこは2人のやる気を試しているのだと思う。
「それで、うちの
「娘さんですか?居場所はわかってますよ。ただ、今は放置した方が面白そうなので放っておいてますが。ね、優梨愛ちゃん?」
なんでわたしに話を振るんだ。
そう思いながらも、ええと答える。
「連れてくるのは簡単だけど、無理やり連れてきただけじゃまた逃げられるだけでしょ?面白い計画も思いついたしね。だから、タイミングを見てるの。どうせなら自分から風俗で働きたいですって言わせた方が面白いじゃない?」
「でも!娘が、真昼が帰ってきたらすぐにでも風俗で働かせて、稼がせたお金で返済出来ますよ?20万なんてきっとすぐですよ?」
「わたしたちにはわたしたちのタイミングがあるし、計画もあるの。自分たちの都合のいい事ばかり言わないでもらえる?大人なら20万くらい自分たちでどうにかしたら?」
睨みつけながらそう言うと、ひぃ!と怯えた様子で旦那は引き下がった。歳の離れた、しかも女子高生に睨まれたくらいでビビるなんてダサすぎる。
「とりあえず、タイミングが来たらあなたたちにもわたしの計画に協力してもらうわよ?」
「私たちも、ですか?なにをさせられるんですか?」
怖いのか、ビクビクと震えながら奥さんが聞いてくるので、残っていた少しの優しさで、なにをしてもらうかだけ教えることにする。
「あなたたちにはある文化祭に参加してもらうわ。そこでこの男性を襲ってもらう。そうすれば真昼ちゃんは帰ってくると思うわよ?」
言いながらスマホで1枚の画像を見せる。
そこには、ファストフード店で仲睦まじく勉強をしている真昼ちゃんと大学生くらいの男性が映っている。
この2人が太陽くんの学校で行われる文化祭に行く事はわかっている。そして、この男性が真昼ちゃんの弱点だと言うことも。
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