第242話 獅子王の相談パート

story teller ~四宮太陽~


「うー。風吹くと寒いね」


 そう言いながら、肩を抱くようにして自分を温めている月に、カバンから取り出したジャージを肩から被せる。


 一応、母さんには帰りは少し遅れると連絡は入れたが、寒さもそうだし、時間も時間なので月を長く連れ回すのは良くないかもしれない。


「獅子王くんの相談ってなに?」


「あー。えっと、だな・・・」


 獅子王くんにしては珍しく、歯切れが悪い。いつもなら思ったことをすぐ口にする様な人なのに。


「ふー。・・・・・・、もしかしたら、純奈の事が好きなのかもしれない」


「えっ!!!!」


「うおっ!!」


 意を決した様な獅子王くんの言葉に、真っ先に反応したのは月だ。獅子王くんの言ったことにもびっくりしたが、隣からの大声の方に思わず驚く。


 もう夜だというのに、大きな声を出してしまったと、月はごめんと言って両手で口を塞ぐ。


 そして、今度は声量を抑えながら目を輝かせて獅子王くんを質問攻めにする。


「いつからいつから?どのタイミングで?純奈ちゃんのどこが気になったの?」


「えっと、待って!なに?どれから答えたらいい!?」


 女の子ってこういう話好きだよな〜とは思うものの、ぶっちゃけ俺も気になるので月を止めずに放置していると、獅子王くんは恥ずかしそうにしながらも月の質問に答え始めた。


「・・・気になりだしたのは、少し前、かな?おれ様の入院中に母親が来たことがあったんだけど、その時、母親に色々言われてたおれ様を助けてくれた時かな」


「色々?」


「ああ。おれ様が怪我しても心配するどころか、迷惑だって言うような母親だからな。入院してた方がありがたいとか言われてさ、それで純奈がおれ様の代わりに怒ってくれたんだよ」


「なんだそれ、酷いな・・・」


 会ったこともない人を嫌いだとか、嫌な人だと思いたくはないが、話を聞くだけそう思ってしまう。それは母親としてどうなんだろうか。・・・もしかすると、獅子王くんの家庭も色々あって、なにか理由があるのかもしれないけど、内海さんが怒った気持ちもわかる。


「まぁ母親の事は置いといて。その時、純奈って凄いなって素直にそう思ったんだよ。友だちの為にちゃんと怒れる人なんだなーってさ」


 俺もそれは凄いと思う。友だちの為とはいえ、さすがに母親相手に思った事を素直に言える勇気は俺にはないかもしれない。


 まぁでも、内海さんは、乱橋さんをいじめた事を悪い事だと反省し、ちゃんと謝りたいと思って行動に移せる人だし、根っこの部分はいい子で、勇気のある凄い人なのだろう。


「純奈ちゃんカッコイイ・・・。可愛くてカッコイイとかそれはもう好きになってもおかしくないよね!ううん!誰だって好きになっちゃうよ!」


 そして、ここにも内海さんに惚れてしまいそうなが1人爆誕しているので、俺はサラッと話題を少しだけ変える事にする。


「相談っていうのはもしかして、どうやって告白しようとかそういう事?」


「いや、それはまだ考えてない。相談したいのは別の事なんだ」


「別の事?」


 月も俺と同じ事を思っていたのか、別の事と聞いて首を傾げている。


「うん。最近、純奈にはおれ様以外に仲のいい男がいるんだよ。それで、おれ様と純奈は今日そいつと会ってきたんだけど、そいつも純奈の事好きみたいでさ。なんていうか、また純奈に会いたいみたいなんだよ」


「あっ、あー・・・。なるほど・・・ね〜」


「月どうした?」


「えっ?あっ!ううん、なんでもないよ!」


 明らかに月の様子がおかしい気がするが、内海さんと仲のいい男の子についてなにか知っているのだろうか。もしかして俺も知ってる人だったりするのか?


 月の態度も気になるが、なんでもないと言われてしまうと無理に聞いていいものか迷ってしまい、その間に月は獅子王くんに質問している。


「純奈ちゃんは、その人とまた会うって言ってたの?」


「解散した時に、また今度とは言ってたけど、それが社交辞令なのか本気なのかが分からないんだ。一応、もう会わないで欲しいとは伝えたんだけどさ。・・・・・・重いやつって思われたかな?付き合ってるわけでもないのにそんな事言っちゃって」


 なるほど。相談とはそういう事か。ようは自分のやった事が客観的に見るとどう思われるかが知りたいのだろう。


 重くない!と言いたいところだが、重いか重くないかは人によると思うので、おいそれと簡単には答えられない。


「私が太陽くんに同じ事言われたら重いとは思わないし、逆に嬉しくなると思うけど、それはたぶん恋人で、私も太陽くんの事が好きだからっていうのが前提にあるからかも」


「って事は、純奈がおれ様の事好きじゃなかったら重いって思われるってことか?だから、解散した後純奈は全然話してくれなかったってことか・・・?もしかして嫌われた?」


 月の言葉に返答しているようで返答していない。自問自答するように獅子王くんはぽつりぽつりと言葉を漏らす。このままだと彼はどんどんとマイナスに沈んでいくかもしれない。なので、俺の思ったことを伝えて、少しでも引っ張り上げようと思う。


「いや、嫌われてないと思うよ?」


「えっ?ほんとか?」


「そもそも嫌われてたら解散した後一緒に俺のバイト先に来ないでしょ?しかも同じ席に座ってたしね。それに、俺が見てた限りだと、獅子王くんを嫌ってるから話さなかったんじゃなくて、意識してるから話せなくなったって感じに見えたよ?」


 俺は今日、カフェに来てからの2人の様子を見ていたので、あくまでも憶測だが、感じたことを素直に話す。


 真昼ちゃんの、どちらかが告ったとか?という言葉を聞いてからは、そうなのかもと思って2人の様子を見ていたから、2人の間の空気感が、恋愛のなんじゃないか?となんとなく思ってはいたのだ。


 だから気づいた。たぶん内海さんも獅子王くんを意識している。好きかどうかはわからないが、少なくとも友だちではなく、1人の異性としては見ている様に見えた。


「そうだよ!嫌われてるっていうのは考えすぎだと思うからそんなに心配することないと思うよ?」


 俺に続いて、月もそう言ってくれる。

 獅子王くんも少しは前向きになれたのか、そうかもしれない、きっとそうだよな?と先程よりは明るい口調になって同意を求めてくるので、月と一緒になって、そうだよ!と強めに肯定する。


「柄にもなく不安になってたけど、太陽と春風さんのおかげで気が楽になったぜ!ありがとうな!」


 しゅんとして落ち込み気味な獅子王くんから一変、いつものまっすぐ元気な獅子王くんに戻った。

 これから彼と内海さんの関係がどうなるかわからないが、なぜか上手くいく気がする。

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