第241話 純奈の相談パート

story teller ~乱橋穂乃果~


 太陽先輩たちと分かれ、辺りも暗いし、女の子2人で外に長居するのは良くないと言うことになり、とりあえず私の家に来ていた。


 お姉ちゃんは同級生の友だちを連れてきたことに感激して盛り上がっていたが、今日は純奈さんの相談に乗るという話なので、ちゃんとした紹介は次にする事にして、私の部屋に入る。


「それで、どうしたんですか?なにか深刻な話でしょうか?」


 私の部屋にはテーブルがないので、2人並んでベッドに座りそう話を切り出すと、まずは今日八代さんと会った時の話をしてくれた。


 内容的には、八代さんがどんな人物だったかとか、葛原さんの事はあんまり聞けなかったとかそういった事だった。


「じゃあ、純奈さんと獅子王くん的にはそのお兄さんの方の八代さんには、危険は無さそうってことですか?」


「まだ確定は出来ないけど、たぶんね。でもちょっと別の問題が発生したと言うか・・・」


 八代さんと会った話の中には特に私に相談するような事は無さそうだと感じていたが、本当に話したいのは、その別の問題の方なのだろうか。


「別の問題ですか?」


「うん。その八代兄が、たぶんあたしの事気になってるっぽいんだよね・・・」


「えっ?それって恋愛的な意味でですか?」


 そう聞くと、純奈さんは声は出さずに頷く。


 純奈さんの言うように、八代さんが葛原さんと繋がりがなければ、問題ないと思うが、葛原さんと繋がっていた場合、純奈さんを恋愛的に意識させて利用しようとしている可能性もありえる。

 これは、私だけでなく、月さんたちにも相談した方がいいのではないだろうか。


「あとね、稲牙もなんだよね」


「獅子王くんも、というのは今の流れからすると、もしかして・・・」


「うん。稲牙も、たぶんあたしの事が好きなのかもしれなくて・・・」


 んんん?ちょっと待って欲しい。2人から言い寄られてるって事?


「そう、なんですか?もしかして相談ってどっちを選んだらいいのか見たいな話ですか?」


「そうじゃなくて!・・・いや、それもそうなんだけど、そうじゃなくてさ。稲牙がもう八代兄には会わないで欲しいって言ってて・・・」


「獅子王くんが、八代さんに嫉妬してるって事ですかね?」


 その状況を見ていないから憶測にはなるが、話を聞く限りだとそういう事なのだろう。獅子王くんが純奈さんを好きだなんて全然気づかなかった。


「八代兄に会えないと、情報を集めることが出来なくなるからさ、それは困るじゃん?・・・稲牙は嫌だって言ってたけど、八代兄には会わなきゃって感じだし、どうしたらいいと思う?」


「八代さんに会わなきゃいけないっていうのは、純奈さんが八代さんに会いたいからですか?それとも、情報を集めるためですか?」


 純奈さんがどっちの気持ちで会わなきゃと言っているのか、その答えでどうするか決めるべきだと思った。

 純奈さんが八代さんを男性として意識しているのなら、止める権利はない。

 もちろん、八代さんが葛原さんと繋がっていなくて、純奈さんの気持ちを利用しようとしていなければだが。


「それは・・・。正直、八代兄に意識してるとか言われたのは嬉しいよ。でもだから会いたいって言うよりは、情報を集めなきゃってのが大きいかも」


「そうですか。じゃあ、獅子王くんから、八代さんに会わないでって言われた時はどう思いました?獅子王くんの気持ちは迷惑だと思いましたか?」


「迷惑とは思わなかった。むしろ、嫉妬してるのかなって思うと嬉しいし、稲牙が嫌なら会うのは辞めようかなとも思ったよ」


 その言葉を聞いて私の考えは決まった。


「じゃあ純奈さんは八代さんには会わない方がいいです」


「えっ?でもそれだと・・・」


「八代さんの事は私たちに任せてください。八代のSNSアカウントはわかるんですよね?それを教えて貰えたら、私たちからコンタクトを取ったりも出来ますし、純奈さんがこれ以上その役をする必要はありませんよ」


「で、でも!・・・一応あたしの事を意識してくれてるわけだし、中途半端なのは申し訳ないというか。それに、八代兄はあたし以外のDMは返さないみたいだし・・・」


「中途半端なのは純奈さんですよ。獅子王くんと八代さん、どっちの気持ちを大切にしたいんですか?」


 私の問いかけに、純奈さんは恥ずかしそうに頬と耳を赤らめながら、小さくこう答えた。


「稲牙、の気持ちです・・・」


 これはもう、純奈さんも獅子王くんの事を相当意識してるのでは?情報を集めるという理由があるにしても、ここまで来ておいて他の男の気持ちも無下にしたくないとは優しさなのか、はたまた、ただ臆病なだけなのか。


「じゃあこうしましょう。八代さんにはDMで彼氏が出来たからもう会えないと送りましょう。その代わり別の人を紹介すると言って、私を紹介してください」


「待って!それは穂乃果が危なすぎない?それに、彼氏って誰?とか聞かれたらどうするの?」


「彼氏は獅子王くんってことにしたらいいのですよ。それに、もしこれで八代さんが私とも会うようなら、それは純奈さんの気持ちを弄んでただけだって分かりますよね?本気ならその誘いには乗ってこないはずです」


 純奈さんは、確かに・・・?と半分納得、残り半分は困惑と言うような表情を浮かべている。


「もしだよ。仮に八代兄が誘いに乗ってきて、穂乃果が会うことになったらどうするの?」


「その時は、秋川さんとか架流さんとかに着いてきて貰います。少し離れた場所から様子を見てもらって、メッセージアプリの通話機能を使って私たちの話を聞いててもらうんです。それなら危険だと判断してすぐに助けに来れますよね?」


 まぁもちろん、みなさんとも相談してからになりますがと続ける。


 とりあえず今は純奈さんを八代さんから離す事が重要だ。今の彼女の気持ちは揺れ動きすぎている。だから八代さんの存在は正直邪魔でしかない。純奈さんには獅子王くんの事を好きだと自覚してもらわなければならないから。


 それに八代さんは純奈さんを利用しようとしているだけかもしれない。私の時の様に、彼女の恋心を利用させる訳にはいかない。

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