第239話 両サイドからの告白?

story teller ~内海純奈~


 なんだろうこの空間は・・・・・・。


 公園のベンチなので、空間と言うのは少し語弊があるかもしれないが、あたしたちを取り囲む空気は、明らかに周りとは切り離された別の空間が出来上がっている。


 その理由は明白で、左隣に座った八代があたしに話しかけると、右隣の稲牙から面白くなさそうな圧をぶつけられる。あたしがなにをしたって言うんだ。


 *


(八代さんってかっこいいですね。写真を見て気になっちゃいました)


 *


 あんな事をDMで送ってしまった為か、八代からは明らかにを感じる。


 うう、物凄く居心地が悪い。


 当初の目的も達成出来ないまま、その空間を耐えることしかできない。


「今気づいたんですが、純奈さんの着ているその制服、の通ってる高校と一緒です」


 あたしの制服を見た八代がふとそんな事を言ってくる。


「そうなんですか?」


「はい、双子の弟がいるんですよ。純奈さんは1年生だから関わりないと思いますけど」


 そういえば、SNSに投稿された写真に、顔のよく似た人とのツーショットがあった事を思い出す。

 そして、こっちを優しい表情で見ている八代の耳にふと目を向けてから気がつく。


 ピアスがない。

 正確に言うとピアスホールすらなく、綺麗な耳をしている。

 ただ単にあたしの目がホールを認識出来ていないだけかもしれないが、この時点で1つの仮説が生まれる。


 もしかして、穴原を襲った八代は弟の方・・・?


「すみません、八代さんの下の名前って明文・・・さんでしたよね?」


「はい、そうですよ?それがどうかしました?」


 急に名前を聞かれた八代は不思議そうにあたしを見つめてくるが、それを無視して考え込む。


 穴原の言っていた八代は明文。そしてピアスを付けていた。でも目の前の八代は明文ではあるのももピアスホールすらない。という事は、弟が自分の存在を隠すために兄の名前を名乗った・・・?


「純奈?どうした?」


 稲牙があたしの顔を覗き込んで来る。自分の今考えた事を話したいが、八代兄も敵か味方かわからないこの状況では話すことはできない。

 今すぐにでも解散して、稲牙に話したいが、不自然な行動を取ると警戒されるかもしれない。


 穴原の見間違いで、そもそもピアスではなく、イヤリングの可能性もある。とりあえず今は耐えて、もう少し情報を集める必要があると判断し、なんでもないと稲牙に伝え、八代兄に向き直る。


「すみません、名前を忘れてしまっていたのが申し訳なくて。あはは」


「純奈さんってもしかして・・・」


 しまった。言い訳が強引過ぎて警戒されたか。


「・・・ネットで他の人にも会ってたりしますか?」


「へぇっ?」


 予想外の質問に変な声が出てしまった。他の人にも会ってる?どういう事?


「稲牙さんが心配で一緒に着いてきたり、ぼくの名前を忘れちゃったりしたのは、もしかして他の人にも会ってるのかなって思ってちゃって」


 そう言った八代兄の顔は、心配と嫌悪が混じった複雑な顔になっている。


「いやいや、そんな事しないから!ネットで会うのは八代さんが初めてです!」


 なにか変な勘違いをされてしまったと思い、強めに否定する。そんなことはした事はないし、したくも無い。そんな事をする人だと思われるのも嫌だ。


 あたしの否定の言葉を聞いた八代兄は、ほっとしたようにはぁーと息を漏らす。


「よかった。もしそうだったら嫌だなって思いました。あっ!純奈さんがそんな事をしている人に見えたとかじゃないですよ!」


「だ、大丈夫です。・・・ん?あたしが他の人と会ったりするのは嫌なんですか?」


「はい、嫌・・・です。会ったばかりだから気持ち悪いと思われるかもしれませんが、純奈さんとはこれからもっと仲良くなりたいなって思ってるので、出来ればネットとかで他の人と会ったりはして欲しくないです。なんかすみません」


 ん?えっ?あれ?それってつまり・・・・・・そういう事?

 稲牙といい、八代兄といい、今日は朝からずっとこんな感じ。なにが起きているんだ。あたしに意識させる為の演技か何かか?


 嘘かホントかわからないが、恐らく好意であろうものを向けられた恥ずかしさと照れで顔を背けたくなる。だが、反対を向いたところで稲牙が居るので、唯一の逃げ場である下に顔を向ける。

 肌寒かったはずなのに今は暑い。たぶん自分の体温が上がっているせいだろう。


「えー、で、でも八代さんって彼女さんとかいないんですか?」


 仮に居たとしたら来ないだろうし、彼女持ちなのにあたしに会いに来ていたとしたらそれはそれでクズだとは思う。

 だが、この質問で葛原の事を知っているかどうかわかるかもしれない。この流れなら聞いても不自然ではないだろうし、なによりなにか話してないと自分の心臓の音が大きくていつまでも八代兄を意識してしまう。


「彼女はいないですよ?居たら純奈さんに会いに来るわけないですし、そもそもDM自体返しませんよ」


 俯いているから八代兄の表情を確認することは出来ないが、その声は至って真剣なもの。嘘は言っていないように聞こえる。


 それならいっそ葛原の名前を出した方が早いか?とも考えたが、最初から最後まで演技だった時が怖い。


「そう・・・ですよね。彼女さんがいたらここに来ないですよね」


「はい!それにDMも純奈さんとしかやり取りしてないです。それに、こうやって会いに来るのは純奈さんだからですし・・・」


 えっえっ!?ほんとになにこの雰囲気。


 あたしの油断を誘っているのか、それとも純粋な紳士アピールなのか、恥ずかしそうにしながらもそう言ってくる八代兄に困惑してしまう。


 マズった。八代さんってかっこいいですねなんて言わずに、最初から素直に葛原の事をDMで聞いておけばよかった。


 なんて反応すればいいのか迷い、あ、えっと、そのとコミュ障のようになってしまう。


「八代って純奈の事好きなの?」


 すると、あたしを挟んで反対側から、八代兄を覗き込むように稲牙が話に入ってくる。

 聞かれた八代兄も、なんて言おうか迷っている様子で挙動不審になっていたが、1度息を大きく吸い込んでから、不格好ながらも覚悟を決めたような表情を浮かべる。そして。


「好き・・・かどうかはわかりません。でもかっこいいって言ってもらえて嬉しかったですし、実際に会ってみて、意識したのは認めます」


 んっ!?んんんっ!?!?


 もはや告白とも取れる発言に、ボッ!と音がなりそうな程、一気に顔が赤くなるのがわかる。


「そうなのか。・・・なんか面白くないなそれ」


 八代兄の言葉を聞いた稲牙もそんな事を言い出す。何言ってるんだ?面白くない?それってもう・・・。


「あれ?稲牙さんは純奈さんの恋人じゃないんですよね?面白くないって、つまり稲牙さんは純奈さんの事をす―――」


「ちょちょちょ!ちょっと待って待って!ストップストップ!」


 思わず流れを止めてしまう。なんでこんな話になってるんだ。なんだこの空気。


「純奈?どうした?」


「とりあえず今日は解散!解散しよ!」


「えっ、もうですか?ぼくはもう少し純奈さんと一緒に―――」


「また今度!また今度会お?ね?今日はこの後用事もあるし、解散解散!」


 これ以上は耐えられない。照れと恥ずかしさで死んでしまう。


 当初の目的もろくに達成出来ないまま強引に解散を告げ、八代兄の返事も聞かずにベンチから立ち上がって逃げるように歩きだす。

 後ろから稲牙が着いてきながら呼び止めようとしてくるが、そんなのはお構い無しに早足に公園の敷地外に出る。


 この人たちはほんとに何なの。


 ******


story teller ~八代明文~


 公園から出ていく2人の背中を眺めながら1人残されたぼくは、誰に言うでもなく、ポツリと独り言を放つ。


「また会ってくれるんだ。よかった」


 でも、あの2人は本当に付き合ってないのかな。少なくとも稲牙さんの方は純奈さんの事を好きそうだった。


「うーん。まさかライバルがいるとは・・・」


 あれだけ可愛い女の子だから、狙ってる男子がいてもおかしくは無い。けれども、そんな男の子と対面してしまうとは思っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る