第238話 心配性
story teller ~四宮太陽~
なんだか正門辺りが騒がしい。
「なんでしょうか」
それは俺の気のせいではなかったようで、隣にいる乱橋さんも同じように感じているようだ。
俺は乱橋さんと目を合わせてから首を傾げ、さぁ?と両肩を上げる。
その騒がしい場所に近づくと、教頭先生が見覚えのある男の子の腕を掴んで何かをしている。
「離せよ!おれ様はただ純奈を探してただけだ!」
「いいや!一緒に来てもらう!そんな嘘が通用するはずがないだろう!」
あの金髪はなにをやらかしたのか。
再度乱橋さんと目を合わせ、アイコンタクトを取ると、一緒に騒ぎの中心である2人に近づき声をかける。
「すみません教頭先生。ちょっと良いですか?」
「すまん、ちょっと待ってくれ。今は見ての通りちょっと忙しくて」
「太陽!穂乃果!助けてくれ!」
獅子王くんが俺たちの名前を呼び、教頭先生含めたその場にいる全員の視線が一斉にこちらに集まる。
なんとも言えない居心地の悪さだ。
知り合いか?と表情で聞いてくる教頭先生にその子は知り合いなので離して貰えませんか?と伝える。
「お前たちの知り合いなのか?」
今度は言葉に出してそう聞いてくる教頭先生の言いたいことはわかる。いかにもな見た目の男の子が、自分の学校の生徒の知り合いという事に少し嫌悪感を抱いているのだろう。
なので。
「こう見えてもいい子なんです。危険はないので離してあげてください」
「太陽先輩の言う通りです。その人はいい人です。私からもお願いします」
俺の言葉に続けて、追撃するように乱橋さんからもお願いされた為か、教頭先生は何度か俺たちと獅子王くんを見たあと、仕方ないと言うように彼の腕を離す。
「今日のところは見逃そう。だが、次からは怪しい行動はしないように!」
獅子王くんに対して強めにそう言うと、教頭先生は集まっていた生徒たちを解散させ、自身も校舎に戻っていく。
ありがとうございますと教頭先生の背中に言葉を投げ、なにがあったのかを騒ぎの元凶であった獅子王くんに問いかける。
「純奈が来るのを待っててさ、ちょっと気になったから、門の影に隠れて中を覗いてたんだよ。そしたらあの先生が来て、怪しいからって理由で中に連れ込まれそうになってたんだ」
そう説明しながら、どう隠れていたのかを実演する獅子王くん。
門の影に隠れて顔だけ出して中を見ている彼は、パーカーのフードを被っていて、敷地内から見ると怪しい人にしか見えない。
そもそも堂々としとけばよかっただけの話では?
「そのフードもだし、中途半端に隠れてたら怪しく見えるし、連れてかれそうにもなるよ」
そんなに怪しいかなぁとぶつくさ言いながら、獅子王くんは自分の行動を再度実演している。
「稲牙?何してんの?」
後ろから声をかけられ振り向くと、驚きと不機嫌を混ぜたような微妙な顔の獅子王くんの待ち人、内海さんが立っていた。
「迎えに来た方がいいかなーなんて・・・」
内海さんの問いかけに、そう答えた獅子王くんはバツが悪そうな顔をしている。
俺と乱橋さんは、なんだか内海さんは怒っている気がして黙って様子を見守る。
「来ないでいいって言ったじゃん。話聞いてた?」
口調が強い。やっぱり怒ってた。
内海さんは俺と乱橋さんを無視して獅子王くんに怒りを口から出してぶつける。
内海さんのクラスでの扱いを知っている俺は、なんとなく彼女が怒っている理由がわかった。恐らく、獅子王くんが迎えに来ることで、よりクラスで浮いてしまうと思っているのだろう。
内海さんの怒りに触れた獅子王くんは、ごめんと一言謝ってから地面を見つめてしまっている。
その様子を見て、2人の仲を取り持った方がいいか迷っていると、乱橋さんが隣からチョンチョンと袖を引っ張ってスマホの画面を見せてくる。
表示されている時刻は16時30分。バイトの時間が迫っていた。
「内海さんごめん、俺たちは行くけど・・・。大丈夫?」
存在を無視され、更には怒っている内海さんに話しかけるのは躊躇するが、友だちに声をかけずに黙って立ち去る方が気が引けるので一応声をかけてみる。
「ああ、ごめん。行っていいよ」
内海さんは、誰彼構わず怒りをぶつける訳では無いようで、表情こそ鬼のままだが、口調はいつも通りだった。
「ありがとう。じゃあ俺たちはいくから、仲良くしなよ?」
「純奈さん、獅子王くん。今日はよろしくお願いします」
この2人は無事に仲直りできるだろうか。
ってか乱橋さんの言っていた、今日はよろしくお願いしますとはなんだ?
******
story teller ~内海純奈~
不幸中の幸いとでも言うべきか、正門には偶然にも生徒がほとんどおらず、稲牙が迎えに来たことはクラスメイトには見られていない可能性の方が高い。
「ほんとごめん」
「もういいから」
しょんぼりして落ち込んでいる稲牙。過ぎたことなので、これ以上怒っても仕方ないし、そこまで落ち込まれると逆にあたしの方が悪い気がしてきてしまう。
そんな事よりも、これから会う人物の事を考えなければ。
何かあった時の為に稲牙を連れてきたが、一緒にいるところを見られると警戒されてしまうだろうか。それとも、自分の身を守るためにも、あえて相手に警戒させた方がいいだろうか。悩ましいところだ。
「稲牙はどうする?近くに隠れて様子みとく?それともあたしと一緒にいる?」
「一緒にいるよ。純奈に何かあったら嫌だし、守るために来たのに隠れてて間に合いませんでしたじゃ意味ないしさ」
自分では決めきれず稲牙に確認すると、彼はそう即答してくる。
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、迎えに行ったのも念の為なんだ。相手は相当頭が回って、金とかで人を使ってくるようなやつなんだろ?それなら万が一って事もあるから迎えに行った方が安全だと思ったんだ」
その話はあたしの中では既に終わったと思っていたが、稲牙は聞いてもいない迎えに来た理由を話し始めた。
そんな事を言われると、怒っていた自分が余計に情けなく感じる。
「うん、あたしも怒ってごめん。色々考えての事だったとか知らなかった。ありがとう」
恥ずかしさを押し殺し、謝罪と感謝の言葉を伝える。
普段いい慣れない言葉なので、なんだか体がむず痒い。
「ってかさ、そんなにあたしの事が心配なの?」
「・・・・・・うん。心配だよ」
ふと思ったことを口にすると、稲牙は俯きながらそう答える。普段真っ直ぐで、思ったことはすぐに口にする稲牙が、少し言い淀むのも、こんなに恥ずかしそうにするのも初めてだ。
「なんで心配なの?あたしになんかあったらおばあちゃんに申し訳ないから?」
友だちとして心配なのはわかる。でも、それならこんなに恥ずかしそうにするはずがない。だから理由を尋ねる。
・・・いや、ほんとはなんとなくわかっている。稲牙から発される空気から察することができる。
でも、それが勘違いだとしたら自意識過剰過ぎるし、察した上であたし自身が恥ずかしくなってきたので、それを隠そうとしているのだ。
だが、稲牙は何か言いたそうにしながらもあたしの問に答えることはなく、お互いに黙り込んで、八代との待ち合わせ場所に指定した公園のベンチに座り込む。
周りには他の公園利用者もいなくて、風の木を揺らす音だけが耳に入ってくる。こんな時、周りが騒がしかったならこんなにも気まずさを感じることはなかったかもしれない。
そんな静かで、心地いい音の隙間に、ザッザッという別の音が聞こえ、それが足音だとわかり辺りを見渡すと、公園の入口側から1人の男が歩いてくる。
男を見た瞬間、気まずさを忘れ、緊張が体に走る。
その男から視線を外さないまま、隣に座る稲牙の肩を叩き、来たよと伝える。
「あれが八代?」
「うん。SNSに乗ってた写真と同じ顔だからそうだと思う」
小声でやり取りし、男が近づいてくるのを待っていると、向こうもこちらに気づいたようで、足早に近づいてきた後、恐る恐るあたしたちに話しかけてくる。
「人違いだったらすみません、じゅんなさんですか?」
「はいそうです。えっと、八代、さんですよね?」
緊張から思わず敬語になってしまう。
あたしが純奈だとわかったからか、八代は安堵の表情を浮かべ、よかったと言葉を漏らす。
そのあと、あたしの隣に座る稲牙に視線を向け、アイコンタクトを飛ばしてくる。
どちらさま?と聞きたいのだろう。
「えっと・・・」
正直、相当悪い人が来ると思っていた単刀直入に穴原にした事や葛原の事を聞くつもりだったので、稲牙の事をどう説明するかなんて考えてもいなかった。
しかし、目の前の男は悪人どころか、むしろ善人にすら見える。それくらい雰囲気が柔らかく、あたしたちに対しての敵意も見られない。
演技?それとも本当にあたしが
「おれ様は純奈の友だちだ。ネットで知り合った人と会うって言うから心配で着いてきた」
相手の真意が読めず、あたしがどう説明しようか迷っていると、稲牙は素直に答えている。
「よかった。そうなんですね」
「よかった?」
その言葉の意味がわからず聞き返すと、八代は屈託のない笑みでこう答えた。
「なんだか2人の間に甘酸っぱい空気が流れていたので、てっきり彼氏さんかと思いましたよ」
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