第235話 親友と悩み

story teller ~四宮太陽~


「堅治はさ、俺の事どう思ってる?」


 少し肌寒くなってきた外の気温に対応するように、空調が調節された某有名コーヒー店の店内で、砕いた氷をベースにした甘い飲み物を飲みながら太陽はオレにそんな事を聞いてくる。


「・・・・・・それはでか?」


「そういう意味じゃなくて!ほんとに!まじで違うから!」


 違うとは分かってて冗談でそう言ってみると、太陽は必要以上に否定してくる。そんなに全力で言われるとそれはそれで傷つくし、逆に怪しくも見えてくる。


 珍しく太陽が2人で遊ぼうと言い出したので、なにかあったんだなとは思っていたが、俺の事をどう思っているなんて要領を得ない質問が飛んできたことになんて答えていいのかわからない。


「まぁ冗談はさておき、どういう意味でだ?」


「うーん、友だちとして、かな?」


「親友だと思ってるぞ?それとも大切?大事?とか、その方がいいか?」


 質問の意図が読めないが、とりあえず思いついたことを言ってみる事にする。思いついたこととは言ったが、全て本心であり、その方がいいか?と聞いたのは太陽が求めている答えには親友という言葉よりもそっちの方がしっくりくるかと考えたからだ。


「ありがとう。じゃあさ、冬草さんの事はどう思ってる?」


「大切に思ってるけど・・・。涼がどうかしたのか?」


「いや、そういう訳じゃないけどさ。じゃあ俺と冬草さんが危ない目に合ってて、どっちかしか助けられないとしたらどっちを優先して助ける?」


「お前どうした?なんか今日変だぞ?」


 普段の太陽なら絶対にこんな事は聞いてこない。やっぱりなにかあったんだな。


「あとで説明するから、とりあえず答えて欲しい」


 太陽の手に持ったドリンクが、店内の温度と彼の体温で温められて汗をかいているが、それを気にせずに真っ直ぐにオレの目を見て答えを待っている。

 その態度から、彼はふざけている訳じゃなく、真剣なのだと伝わる。なのでオレもちゃんと考えて答えを出そうと思い、ちょっと待ってくれと一言伝えてから思考を巡らせる。


 だが、どっちかを優先となると非常に難しい。危ない目というのも、どういう風に危ないかによっても優先度は変わる気がする。


「想像しにくいのもあるが、オレにはどっちが優先かなんて選べないかもしれん。すまん」


 役に立てないことを謝ると、それでもなにかを納得したのか、太陽はわかったと言って頷く。


 改めて太陽に聞かれたことを考えてみるが、オレはどっちを優先するかなんて選べるような人間ではないと思う。


「それで、なんでそんな事聞いたんだ?」


「・・・・・・話す前に保険かけていい?」


 わざわざワンクッション置くということは、太陽にとっては相当気が引ける事なのかもしれない。


「いいぞ?」


「これから話すことはなるべく誰にも言わないで欲しい。あと、もしかしたら俺の事を最低なやつだと思うかもしれない。だから、もしそう思ったとしても嫌いにはならない努力をして欲しい」


 そこまで言われると聞くのが怖くなってくるが、太陽はそれほど悩んでいるという事だろう。それなら余計に聞かずに放置する事は出来ない。


「わかった。約束する」


「ありがとう。・・・・・・たぶん、俺は自分の中で月とそれ以外で優先度が異なってると思う」


「それは、春風さんがとっても大切な存在で、オレたちはどうでもいいって事か?」


 どうでもいいとは少し意地悪な言い方だったかもしれない。案の定、太陽は、そこまでじゃない!と強めに否定してくる。


「なんていうか、堅治たちも大切なんだよ。でも、どっちの事を優先したいかって言われたら、月を1番に優先したいと思ってしまうんだ」


「それだけか?」


「えっ?」


「いや、それがお前の悩みなのか?」


 オレの言ってる意味がわからないと言うように、太陽は困惑した表情でオレを見てくる。


「正直、もっと重い悩みがくると思ってたぜ」


「いや十分重くないか?」


「重くないだろ。お前は春風さんの彼氏だろ?それなら春風さんを優先したいと思うのは当たり前じゃないのか?」


 というか、逆に春風さんを優先しないで誰を優先するんだ?と思う。これで春風さんよりもオレたちを優先すると言い出したら、全力で考えを改めさせるところだ。


「当たり前?それは星羅や母さんよりも月を優先したり、風邪を引いた店長を心配するよりも、月と遊ぶことを優先してたとしても?」


「うーん、それは悩ましいところだが、少なくともみんなそれぞれ優先したい人はいるものだし、誰を優先するかは自由だからな。そんなに気に病むことではないと思うぞ?」


「俺の事最低なやつとか冷たいやつとか思わないの?」


「なんでそう思われると思った?春風さん以外がどうでもいいと思ってるわけじゃないんだろ?あくまでも春風さんが1番ってだけで、オレたちの事も大切に思ってくれてるんだろ?それならそれでいいと思うぜ」


 恐らく、太陽は今自分自身を冷たい人間だと思い込んで責めていて、嫌いになりそうなのだろう。


 そして、それでいい、今のままでいいと誰かに肯定して欲しかったのだろう。そうじゃなかったとしても、肯定する事で彼は自分のことを嫌いにならないで済むはずだ。


「そっか、ありがとう。ちょっと気持ちが楽になった」


「それならよかった。お前は優しすぎるんだよ。みんなの事を平等に大切にしようとしすぎるな。オレも涼も善夜と夏木さん、他のみんなだって、ちゃんとお前に大切な友だちだと思ってもらえてるってわかってるから今のままでいいんだ」


 ちょっと臭いセリフを言えるのは、相手が太陽だからだろう。


「ほんとありがとうな。堅治に嫌われなくてよかった」


「ふっ。何年の付き合いだと思ってんだ。それくらいで嫌いになるわけないだろ」


 オレの親友は安堵の表情を浮かべ、安心したからかドリンクを一気に飲み干している。

 オレも彼に倣ってドリンクを一気に飲み干すと、お互いに笑いあって店を後にした。

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