第234話 兄が行う面接練習と妹の誘い

story teller ~乱橋穂乃果~


「残念だけど、太陽と穂乃果ちゃんが来るまでは俺がいるからねぇ。人手は足りてるんだよ」


 数日前から当たり前のように楓さんと共に働いている九十九さんは、2箇所で面接落ちしたと言って項垂れている獅子王くんに対して、遠回しに不採用を告げる。


 今九十九さんに断られたのを除いても1日で2箇所、しかも後日ではなくその場で不採用と告げられるのはある意味才能なのかもしれない。


「ここもダメかぁ。まぁ期待はしてなかったけど今のおれ様には辛い・・・。穂乃果ぁ、どこかいいバイト先知ってたりしないか?友だちとかのバイト先で募集してるとかさぁ」


 縋るようにテーブルに突っ伏したまま私を見あげてそう聞いてくるが、私もここでしかバイトをした事がなく、同級生の友だちも純奈さんしかいないので、紹介しようにもそれも出来ない。

 なので、力になれないという意味ですみませんと謝ると、獅子王くんは、はぁーと大きなため息をつく。


「まずは髪色じゃない?」


 そんな落ち込む獅子王くんに対して、九十九さんは見た目の指摘を入れる。

 どこで面接を受けたのかわからないが、九十九さんの言うように、髪色も不採用の理由の1つではないだろうかと私も思う。


 知り合った時よりも少し髪が伸び、根元から自毛が見えているため、金髪と相まって見事なプリン色になっている。見た目や学歴で判断するのは良くないかもしれないが、学校にも行っていないうえに金髪、しかもプリンともなると、第一印象はあまり良くないので、相当緩い場所じゃない限りは落とされるのも無理はないと思う。


「まぁ俺も一緒に探すからさ、元気だしなよ」


「九十九ぉ〜。ありがとうな」


「九十九"さん"な?タメ口はいいとして、せめてさんくらいはつけて―――」


 九十九さんはそこまで言ってから、ハッとした表情を浮かべる。


「もしかしてさ、面接の時タメ口じゃないよね・・・?」


「タメ口だけど?」


 さも当たり前かの様にそう答え、キョトンとした顔を浮かべる獅子王くん。その表情から、ふざけている訳ではなく、彼は真剣に言っているのだとわかる。


「バカなの?そりゃ落ちるに決まってるじゃん」


 九十九さんが呆れ気味にそう言うと、えっ?フレンドリーな方がよくないか?なんて言っている。フレンドリーなのは悪いことではないと思うけど、それは時と場合、人によって使い分けないとダメだと思う。


「よしわかった。俺と面接の練習をしようか。君は面接を受けるより先にそこからだね」


「メンセツノレンシュウ?」


「はい。面接の練習です。めちゃくちゃ嫌そうな顔してるけど、今のままだといつまでも受からないよ?」


 こうして、九十九さんによる面接の練習がお店の奥のテーブルで開催されるのだった。


 ******


story teller ~九十九真昼~


 駅前でスマホを見ながら時間を潰していると、待ち合わせ時間よりも10分早いにも関わらず、待ち人はやってきた。


「ごめん真昼ちゃん、結構待ったかな?」


「ううん!全然待ってないよ。一之輔さん走ってきたの?」


「うん。講義終わるのが遅くなっちゃったから」


 肩で息をして、額に汗を浮かべる一之輔さんはきっと急いで来てくれたのだろう。

 その理由は、自分に早く会いたいと思ってくれたからなのか、それとも単純に待たせたら悪いと思っていたからなのかはわからないが、前者なら嬉しい。


 一之輔さんの息が一通り整ってから、自分たちは少し歩いた場所にあるファストフード店に移動する。

 適当に飲み物を注文し、カウンターでそれを受け取ってから空いている席に座る。


「今日はなんの教科を教えたらいい?」


「えーもう始めるの?ちょっとお話してからにしようよ」


 今日一之輔さんと会ったのは、勉強を教えてもらう為だが、自分的にはそれはただの口実であるので、教える気満々な彼に文句を言う。


「朝日さんから成績下がってるって聞いたけど?」


 そう返されてうっとなる。くそ兄貴め、なんでもかんでも一之輔さんに報告しやがって。


「じゃあじゃあ、今日頑張ったらお願いを1つ聞いて?」


 このままだと勉強をしなければならないだろうし、もし断ったらこの時間が終わってしまうと考えた自分はそう提案してみる。


「お願い?なにかして欲しいことでもあるの?」


「うん!」


 不思議そうにそう聞いてくる一之輔さんに、短く返すと、なに?と聞いてくる。


「えっとね、・・・太陽さんたちの学校で文化祭があるでしょ?それに一緒に行って欲しいなって」


 誘うのは少し緊張したが、勇気を出してみる。一之輔さんも去年までは太陽さんたちと同じ学校に通っていたので、もしも、なんで?と理由を尋ねられても、一之輔さんの母校だから誘ったとでも言えば大丈夫だろう。


 そんな言い訳まで考えていたのだが、一之輔さんは迷うことなく、いいよと返事をくれる。


「いいの?ほんとに?」


「うん。俺も行きたいなって思ってたけど、1人で行くのは寂しいなって思ってたからさ」


 断られなくて良かったと安堵する。


 一応、今日勉強を頑張ればという事だったが、既に自分の頭の中は、その日は何を着ていこうとか、一之輔さんと何をしようとか、そういった楽しみでいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る