第233話 松田さんの案と唯一の懸念
story teller ~四宮太陽~
昨日のみんなの手伝いのおかげで、空き教室はだいぶ綺麗に片付いていた。
ゴミ捨て場横に出された机や椅子は、後日業者が回収しに来るとの事だが、あれだけ大量の物をどうやって運び出すのか少し見学してみたい。
それから、3組に対しての呼び掛けは、なぜか桜木先生がしたらしい。そのおかげか、残りもあと僅かになった机と椅子を運び出すのと、空き教室の清掃は今日の放課後に3組が責任を持って行う事になった。
そして、俺と月は昼休みにいつもの中庭ではなく、お化け屋敷の配置決めの為空き教室に来ていた。もちろん、俺たち以外にも、うちのクラスと3組の実行委員もいる。
「中央階段側から入場してもらって、出口を非常階段側に設置するのはどうかな?」
「廊下に入口と出口を設置するということですか?」
「そうそう。基本的に来客はみんな中央階段を使って移動すると思うから、そこから入場者を集めて、人の出入りの少ない非常階段に抜けてもらえれば混雑しにくいと思うの」
うちのクラスの実行委員である松田さんは、自身の用意してきた紙を広げながら、俺たちに自分の考えを説明していく。
彼女の用意した紙には、手書きで迷路の図面が描かれており、人員の配置や驚かしポイントなど、詳細が事細かに記載されている。正直、この紙に書かれたまんまの物を作ればかなり面白いものが出来ると思う。
そう思ったのは俺だけではないようで、月や高坂くん、3組実行委員の斉藤さんと原田くんも特に異議を唱えることはなかった。
「でも1組と3組だとクラスの人数が違うけど、人員配置はどうするんだ?」
高坂くんが松田さんに疑問を投げかけると、それもしっかり考えてるよと彼女は答える。
「まず、1日目の前半は1組が運営するでしょ?3組よりも1組の方が人数が少ないから前半部分のここ、この場所のお化け役はなくすの。そして1日目の後半、3組が運営する時は、人数が増えた分ここのお化け役を増やす。2日目も同じようにするの」
「・・・するとどうなるの?」
「そうすれば、前半と後半の両方入ろうとした人もいなかったはずのお化け役の人で驚かす事が出来ると思うし、誰かから話を聞いて訪れた人が居たとしても不意をついて驚かせる事が出来るかなーって思って。どうかな?」
松田さんは自信満々な表情で俺たちに確認を取ってくる。もちろん反対意見が出るわけもなく、この案は全員納得である。
「あとは、壁と小道具作りをどうするか、でしょうか?」
「それはこれから放課後を使ってみんなで作るから問題ないんだけど、お化けの衣装の用意をどうするかが問題かも」
唯一の懸念点と言うように、松田さんはここに来て初めて表情を暗くする。
「過去の文化祭でお化け屋敷をしたクラスはないかな?」
去年の舞台祭の時、衣装は過去に使われていた物を倉庫から引っ張り出してきたので、もしかしたらお化けの衣装も倉庫にあるのでは?と思ったが、松田さんは既に確認済みのようで、衣装は残ってなかったと首を横に振る。
「ってことは1から作るか、買ってくるか・・・、になるよね?」
「作るのは正直言って時間が足りないから、買うってことになると思う。もし予算が足りなかったら、お化け役の人には、壁越しに手だけを出してもらうとか、私服をアレンジして貰うとかになるかも・・・」
一応はそうなった時の案も考えて来ていたらしい。私服をアレンジというのが、松田さん自身気に入らないようで、表情は暗いままである。アレンジとなると色を付けたり、必要であれば破いたりするのかもしれない、それを文化祭の為だけにさせるというのが嫌なのだろう。
「あの、ちょっといいですか?」
少し落ち込んだ空気の中、発言の許可を求めるように原田くんが手を挙げて俺たちの視線を集める。
彼の真っ直ぐに上がった手を見ながら、この場の雰囲気を支配していた松田さんはどうぞと頷く。
「僕の知り合いに古着屋で働いている人がいるんですが、その古着屋で要らなくなった服をリサイクルやリユースする為に回収してるんですよ。それを譲って貰って、アレンジするのはどうですか?」
その人に確認を取ってからにはなりますがと原田くんは続ける。
もし服を譲って貰えれば、1から作ったり、購入したりするよりも、時間と予算、両方で余裕が生まれる事は間違いない。
問題があるとすれば、お化け役の人たちの中に、古着に抵抗のある人がいるかどうかという点だが、そういった人の人数が多くなければ、その人たちの分だけ衣装を購入するば解決出来る。
その提案に関しても、誰も反対することなく、原田くんにお願いしますと伝える。
1組と3組、2つのクラスの共同の出し物は、片付けの件などで一時はどうなるかと不安だった。だが、それも無事に解決できたし、話し合いがスムーズに進んだことに安堵する。
あとは、みんなで協力して準備を進めれば良いだけだ。
準備期間も既に文化祭の1部であるので、今年しか楽しめない時間を前に心が踊る。
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