第227話 頼りになる生徒たち

story teller ~米田光明~


 助手席に座り、車を運転する南さんにGYKさんと仲良くなったと嬉しそうに話す来海ちゃんを眺めながらさっきまでの事を思い出す。


 あの後、通路で話し込むのは他の人の迷惑になると思い、GYKさんを来海ちゃんの控え室に呼び、俺と来海ちゃん、GYKさんの3人で少しだけ会話をした。


 動画投稿者の人たちへの勝手なイメージかもしれないが、面と向かって話すのは苦手な人が多いと思っていた。しかし、実際にGYKさんと話してみると意外にもフレンドリーで、受け答えもしっかりとした明るい人という印象を覚えた。

 初めましてだった為に、加藤の会社の事などは聞けなかったが、来海ちゃんとの様子を見るに、仲良くなること自体は問題ないはず。


 俺は連絡先の交換をしなかったが、来海ちゃんがSNSで相互フォローの関係になったので、また会う機会も作れるはずだ。


 ******


story teller ~GYK~


 雷門さんと仲良くなっちゃった。しかも沖縄に遊びに来たいって、それって歌音かのんと遊びたいって事だよね!?


 割り当てられた控え室に戻り、相互フォローになった雷門さんのSNSアカウントを意味もなく眺める。

 特別、ファンとかではないが、それでも誰もが知ってるアイドルと仲良くなれた嬉しさを実感したくてSNSを閉じては開き、閉じては開きを繰り返してしまう。


 だが、いつまでも控え室に篭ってそうしている訳にもいかず、ホテルに戻るためにタクシーを呼び、荷物を持って部屋を後にする。


 テレビ局から出ると、呼んでいたタクシーは既に局の前に着いていて、電話した仲村渠なかんだかりですと伝え乗り込む。


 それでも興奮が冷めることはなく、今すぐに誰かに話したくて仕方ない。なのでタクシーの運転手に今さっきの出来事を話す。

 運転手の反応的に、歌音が客であるから話に付き合ってくれていると気づくが、それでも話すことを辞められなかった。


 沖縄に来てくれた時に歌音の動画にも出てくれないかなぁ。


 ******


story teller ~四宮太陽~


「誰の許可でこんな事をしているんですか!迷惑ですよ!さっさと解散しなさい!」


 集まった大勢の生徒からめんどくさいと思われている事にも気づかず、3組担任は訳の分からない文句を言っている。


 だが、今回の計画の発案者である冬草さんは怖がっているようで、先生の強い口調にあてられる度にビクビクと体を震わせている。


「迷惑じゃないっすよ〜。俺たちは片付けを手伝うために集まってるだけですよ〜。なぁみんな」


 生徒の中の誰かがそう発言すると、集まった生徒たちからそうですよ!と大合唱が始まる。

 そして、黙りなさい!それが迷惑なんです!と先生は反論する。


「それは2年1組と3組の生徒がやる事です!関係ない生徒はさっさと帰りなさい!」


「ってか2年3組の生徒って何名いるの〜?」


 生徒たちの真ん中辺りから女生徒が呼びかけるが、手を上げたのはたったの5人。生徒に埋もれて顔までは見えないが、恐らく一昨日集まった時の5人だろう。帰りなさいと言うからには自分のクラスの生徒を連れてきて欲しいものだ。


 せっかくこれだけの人が集まってくれたのに、こんな事で時間を潰されてしまっては敵わない。


「なんの騒ぎだ?」


 もう無視して片付けを進めようかと思っていると、騒ぎを聞きつけた桜木先生がやってきた。


「桜木先生!あなたからも解散するように言ってください!」


 助けが来たと思ったのか、3組担任は縋るように桜木先生にそう言う。

 桜木先生は他クラス、ひいては他学年の生徒たちからも人気があるらしい。なので、彼が来てからは集まった生徒たちの空気が変わった事にすぐ気がつく。


 しかし、桜木先生はあははと笑い、3組担任にこう言い放った。


「この集まりは俺が呼びかけたんです。3組が手伝ってくれないから手の空いてる生徒は手伝ってくれってね。なので解散はさせませんよ」


「えっ?これを桜木先生が?・・・ちょっと待ってください。じゃあこれは正当な集まりだと?」


「そう言ってるんです。・・・みんな!手伝いに来てくれてありがとう!邪魔して悪かったな!片付け始めていいぞ!」


 桜木先生は絶句する3組担任を放置して生徒たちに呼びかける。

 すると生徒たちはやっと始められるとぞろぞろと動き出し、指示していないにも関わらず自分たちで話し合いながら片付けを進めていく。


「高い場所は男子がやろう!女子は廊下で受け取ってくれ!」

「大きい台車も借りてきたよ!1階に置いてるから、台車に倒れないように積み上げて!」

「じゃあ私たちは台車がいっぱいになったらゴミ捨て場に持っていくね!」

「さすがに重いはずだから男子も何名か台車組に回ってくれ!」


 3年生が中心となり、それぞれの役割がすぐに決まる。ってか台車借りてきてくれた人もいるんだ。有能過ぎる。


「俺たちは邪魔ですし、あとは生徒たちに任せましょうか」


 そんな生徒たちの様子を見た桜木先生は唖然としている3組担任の肩を叩く。


「じゃあ四宮、春風。あとは任せた」


 俺たちにもそう声をかけて3組担任を連れて階段を降りていく。

 桜木先生が来てくれなかったらあのまま時間だけを無駄にするところだった。


「春風ちゃん見て見て!俺って力持ちじゃない?」

「車谷く〜ん。重いから手伝って〜」


 うん。不純な理由で参加している生徒もいるんだった。

 でも手伝ってもらっている手前、なにも言えないのがもどかしい。


「わー!力持ちですね!そんな力持ちの先輩はあっちで重そうにしている人を手伝ってあげてください!その方がかっこいいですよ!」


「あはは。すみません、ボクは力持ちじゃないので役にたたないです。向こうの力持ちの先輩に手伝ってもらった方がいいと思いますよ?」


 そのまま放っておくのは不安だったが、月と善夜はそれぞれやんわりとアピールを躱している。

 月は慣れているだろうから躱せるのは理解できるが、善夜もああやって上手く断ることが出来るんだな。


 ってか力持ちじゃないって嘘つくなよ。ここ最近の善夜の腕はめちゃくちゃ太くなってますけど?


 ※※※


 おはようございます。こんにちは、こんばんわ。

 いつもお読み頂きありがとうございます。ゆとりです。


 分かりにくいと思いますが、歌音(GYK)の一人称は自分の名前です。

 なので、歌音、表記ですが、それは読者の皆様が読みやすいようにそう表記しているだけで、正式には歌音かのんと本人は言っています。

 分かりにくい説明でほんとすみません。


 沖縄の女性の多くは、自分自身の事を自分の名前で呼ぶ方が多い印象です。(若い女性に多い印象です。そしてゆとり調べです)

 なので、歌音(GYK)の一人称も自分の名前にさせて頂きました。


 ややこしいとは思いますが、よろしくお願いします。

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