第226話 マスクの下のイケメン?の女性?

story teller ~雷門来海~


 その人、GYKさんは目元だけを隠すマスク(米田さん曰くベネチアンマスクと言うらしい)をしていて、そのマスクの形がゴーヤーを横に倒した形をしているので、それだけでも沖縄出身と言われれば納得出来てしまう。


 番組の収録中、MCを務める芸人の方になぜマスクをしているのか聞かれた際、動画投稿するにあたって身バレ防止の為に付け始めた物がいつの間にか自分のトレードマークになったと言っていた。


 顔をマスクで隠していて、髪の毛も耳の辺りで切りそろえられている。着ている服も体格が分かりにくいオーバーサイズの物を着用しており、声も中性的過ぎて、収録中は男性なのか女性なのかわからなかった。しかも、お互いにひな壇で座る位置が離れていたこともあり、カメラ外で話すどころか、歌番組という番組の性質上、トークで絡む事もなかなか出来ず、米田さんに託されたGYKさんと仲良くなるという使命を全うできないまま収録が終わってしまう。


 このままだと、次はいつこの人に会えるかわからないので、南さんと一緒に控え室まで行こうかと考え、その前に御手洗に寄ることにする。


 私が入ろうとした時、俯いていた事もあり、御手洗の中から出てきた人とぶつかってしまった。


「すみません!」


「こちらこそすみません!大丈夫ですか?って、えっ!?雷門さん!?」


 目線を上げて、驚きの声を上げるぶつかった相手を確認すると、美人というよりも、どちらかというとイケメン寄りな顔つきの人物が立っていた。

 一瞬男性かと思ったが、出てきた場所が女子トイレなので、女性だとわかる。


 そして、着ている服こそ違うが、その人の発する声は収録中のGYKさんのものと比べると少し高めではあるものの、それでもその人の声色はどこかGYKさんのものと酷似していた。


「もしかしてGYKさんですか?」


 私は間違いでも構わないと思いそう聞くと、目の前の女性は焦ったように周りを見渡したあと、身をかがめて私にだけ聞こえる程度の小声でえっ!?どうしてわかったんですか?と聞いてくる。


「先程とは少しだけ違って聞こえましたが、スタジオで聞いた声と似ていたので」


 私の返答に、ほぇ〜。さすがアイドル、耳が肥えてるのかなと言いながら感心し、凄いものを見たというような表情を浮かべていたが、すぐに思い出したかのように焦りの表情に戻る。


「あっ!この事は黙ってて貰えますか?」


「・・・この事って言うのは?」


 何のことを指しているのかわからず聞き返すと、こっちに来てくださいとトイレから少し離れた場所に連れていかれる。


「性別とか年齢とかは非公開で活動しているので、女子トイレから出てきたってことは内緒にして貰えますか?」


「あっそれははい、もちろんです」


 GYKさんの事は最近まで全く知らなかったが、身バレを防ぐ為にマスクをしていると聞いた時点で、なんとなく個人情報は非公開なのだろうと予想していた。なのでお願いされるまでもなく、勝手に情報を漏らす様なことはしないつもりだった。


 GYKさんは私の返答を聞いて、胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。


「それにしても、雷門さんは凄いですね。歌が上手いのはもちろんですが、トークも上手でしたし、スタッフさんや他の出演者の方への気遣いも完璧に見えました。ほんとに中学生ですか?」


 このまま分かれると思っていたので、どうやって彼女を引き留めようかと考えていたが、意外にもGYKさんの方から話を振ってくれる。


「私なんてまだまだです。そう見えたのは、他の先輩方や出演者の方たちの真似をしているからだと思います」


 そうは言ってみるものの、褒められて嬉しくないわけもなく、思わずニヤケそうになってしまう。


 その後も目の前の女性は、年下であるはずの私に対して、敬意を表すようにあれが凄かったこれが凄かったと褒め続ける。こんなに褒められると嬉しさで体がむず痒くなってきた。


「いた!来海ちゃん!」


 私とGYKさんがそんなやり取りを続けていると、通路の奥から米田さんがやってきて声をかけてくる。

 私を探すためにずっと走っていたのか、肩で息をしていた。


「控え室に戻ってこないから心配したよ。・・・あっどうも」


 彼は私に声をかけながら、隣に佇むGYKさんにぺこりを頭を下げる。GYKさんも米田さんに倣って頭を下げ、誰ですか?と問いかけるように私に視線を向けてくる。


「この人は私のマネージャー補佐の米田さんです。こちらはえっと・・・」


 米田さんを紹介し、次にGYKさんの事を紹介しようとしたが、ベネチアンマスクをしていない彼女を紹介していいのか迷ってしまう。


「初めまして。GYKと言います」


 彼女は小声ではあったが、意外にもあっさりと自分の正体を明かしてしまう。それに驚いた私は、大丈夫なんですか?と確認すると、GYKさんは控えめな笑顔でこう答えた。


「個人情報を隠すって言っても、全員に隠すのは不可能ですし、警戒していたのは局のスタッフさんたちであって、雷門さんのマネージャーさん?なら知られても問題ないと判断したんですよ」


 私がGYKって言うのは内緒でお願いしますねと片目を閉じ、顔の前で人差し指を立てる彼女は、その容姿も相まってとてもカッコイイ。

 正体を明かすことに関しても、本人がいいと判断したのなら私がとやかくいう訳にもいかない。意外と柔軟な人なのかも。


 GYKさんの自己紹介を聞いた米田さんは、おお!と歓喜の声を上げて私を見る。

 恐らく、当初の目的である、GYKさんと仲良くなるというのを達成したと思っているのだろう。

 ついさっき会ったばかりで、少し話していただけなので仲良くなったと言っていいのだろうか。


「来海と仲良くして頂いてありがとうございます」


 そうとは知らず、米田さんは嬉しそうにGYKさんに感謝していて、意外にもGYKさんはそれを否定せず、こちらこそと返している。

 これはミッションコンプリートと思っていいのだろうか・・・?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る