第221話 他クラスを巻き込む計画

story teller ~四宮太陽~


 月と夏木さん、善夜と共に一度教室に戻り、カバンを取ってから職員室を目指す。

 桜木先生はパソコンに向かって、なにやら作業をしていたが、俺たちが呼ぶとすぐに入口まで来てくれた。


「すみません。邪魔しましたか?」


「いや。急ぎの仕事じゃないから気にしなくていい。それよりどうした?空き教室の片付けじゃないのか?」


「その事なんですが・・・」


 ついさっき空き教室の前で起こった出来事を桜木先生に話す。

 夏木さんは未だに自分のせいだとでも言うように居心地悪そうにしている。


「なるほど。まぁの気持ちも分かるが、ちゃんと来てる人がいる前で文句を言うのはダメだなぁ。いや、いなくてもダメなんだけどな。夏木はよく止めてくれたな」


 さすがだな!と夏木さんを褒める桜木先生は、彼女の自責の念を感じ取ったのだろう。


「それで、3組の集まりが悪いってことだが、担任から伝えてそれならまたお願いしたところで変わらないだろうな・・・」


 桜木先生ならなにかいい案が思いつくのではと期待していたが、頭を悩ませている。


 もう3組は諦めて、1組だけでもいいんじゃないか?という考えを思いつくが、それだと共同にした意味がない。

 1組だけで片付けから準備まで終わらせてしまっては、最悪3組は当日も何もしない恐れすらある。それだけは避けたい。


「太陽?なにしてんだ?」


「皆さんお揃いでどうしたんですか?」


 うーんうーんと奇妙な声で唸る俺たちの元に、堅治と冬草さんがやってきた。

 2組の教室には誰もいなかったような気がするので、とっくに帰ったものかと思っていたがどこにいたんだろうか。

 そんな疑問は冬草さんの抱えている本を見て解ける。きっと図書室にいたのだろう。


「文化祭準備の話をしててさ・・・」


 桜木先生に話したものと同じ内容を堅治たちにも話す。

 すると、堅治の口から意外な返答が返ってくる。


「それ2組が手伝おうか?」


「私も同じこと考えてました」


「手伝うって、堅治たちも自分のクラスの準備とかあるんじゃないの?」


「オレたちは飲食店だからな。今準備出来るものってガスコンロとか皿とか、エプロンとかそんなもんだし、調理の練習も決まった日しか出来ないから意外と時間が余ってるんだよ。迷惑じゃなければ明日にでもみんなに声掛けしてみるぜ?」


 迷惑どころかありがたい申し出である。

 でも、それだと3組が参加しない事の解決にはならないと思ったが、まるでそんな俺の疑問に答えるように、冬草さんは自分の考えを話し出す。


「それなら4組と5組、それから穂乃果ちゃんや純奈ちゃんのクラスにも声をかけてみましょう。本来は3組が参加しなければならないのに、代わりに他のクラス、ひいては他学年まで参加する事態になれば、少なくとも3組の担任の先生は焦るんじゃないですか?そうすれば3組の担任も必死に参加するように呼びかけると思いますし、もしそうならなかったとしても、人数が多ければ片付け自体はすぐ終わりますよね?」


 まるで教師を嵌めるような考えである。

 そんなものを桜木先生の前で話して大丈夫なのか?さすがに止められるのでは?と思ったが、杞憂に終わる。


「なるほど。教師を焦りで動かすわけか。考えもしなかった」


 桜木先生は、考えをまとめるように何度かうんうんと頷き、よし!と力強く声を出す。


「責任は俺が取る!4組と5組、それから乱橋と内海の担任には俺から話をしておこう。2組は秋川と冬草に任せていいか?」


 堅治と冬草さんはもちろんですと返事をする。


「あとは、3組にどうやってその話をするかだけど・・・」


「ワタシが斉藤さんと原田くんに話してもいいですか?」


 夏木さんが挙手する。たぶん彼女なりに責任を感じていたからなにか出来ることをしたかったのだろう。

 もちろん俺たちには反対する要素はないので、夏木さんにお願いすることにした。


「それじゃあ日程は、明後日でどうだ?明日だと急すぎるから1日空けた方がいいよな?」


 桜木先生の確認に、俺たちは揃って頷く。

 そんなに上手く行くとは思えないが、冬草さんの言うように、人数が増えること自体は助かる。

 みんなの時間を取ってしまう事は申し訳ないが、堅治と冬草さんが手伝いを申し出でくれた事の方が嬉しい。正直、それだけでもう満足ですらある。

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