第220話 広がる不満

story teller ~四宮太陽~


 店長の熱はだいぶ下がったが、病院で診察を受けたのが今日の朝との事で、念の為今日もお休みさせると真昼ちゃんからメッセージが入っていた。と言うことは、受動的に俺もバイトが休みになる為、放課後の空き教室の片付けに参加する事にする。


 SHRでの桜木先生の呼び掛けもあり、うちのクラスメイトは、用事が入っている数人以外のほぼ全員集まっていたが、3組から来た人は、斉藤さんと原田くん含めてたったの5人だった。


「すみません。担任に声掛けしてもらったんですが、それでも全然集まらなくて・・・」


 斉藤さんは、伏し目がちに俺たちに謝るが、別に彼女らのせいではない。言葉を選ばず、悪い言い方をするならば、クラスメイトの質の問題だろう。

 ここまで1組との差が如実に表れるのはだいぶ酷いと思うが・・・。


「んだよ。これじゃあ3組との共同ってより1組の出し物じゃねぇか」


 うちのクラスの誰かがそう言うと、集まっている人たちから確かにと言う賛同の声が聞こえ、は空き教室前の集まりの中で波紋のようにどんどんと大きくなる。


「これなら私たちも参加しなくてよかったよね?」

「間違いないな〜。カラオケの誘い断ったのに」

「俺だって彼女との待ち合わせ遅らせてるんだぜ」


 それはここに来ていない3組の人たちに向けての言葉であり、ここにいる3組の5人に向けての言葉ではないはずだ。

 それでも5人は気まずそうに俯き、斉藤さんと原田くんは責任を感じているのか、すみませんすみませんと繰り返す。これじゃいじめと言っても遜色ない。


 うちのクラスの実行委員である、松田さんと高坂くんも必死に止めようとするが、たった2人ぼっちの声はみんなの声に埋もれてしまう。


「うるさい!!」


 そんな大きくすらかき消す大声を出したのは夏木さんだった。

 彼女の声は壁で何度も跳ね返ると、ざわざわと騒ぐ人たち一人一人の耳に届き、ほぼ強制的に全員の口を止めることに成功する。


「グダグダ言うなら帰ればいいじゃん。やる気のある人だけ残って片付けをすればいいよ。それとも文句を言い合う為に集まったの?」


 夏木さんの問いかけには誰も答えない。


「3組に言いたいことがあるやつは、明日3組に乗り込んで言えばいいんだよ。それとも直接は言えないから、言いやすそうな斉藤さんたちの前で言ってるだけなの?」


 そう言った彼女は、怒りを隠すことなく表情に出している。

 隣の善夜がまぁまぁと宥めるも、それを無視して続ける。


「大体さ、あんたらだって金曜日来なかったよね?それで来てない人たちに文句を言える立場なの?」


 夏木さんの言葉に、それは・・・。と誰かが呟く。

 だが、それ以上は何も言えない。夏木さんの言っていることが正論だと理解出来るから。


 そして、静かになった廊下の空気は淀み、みんなの息遣いだけが聞こえてくる。


「と、とりあえず片付けしない?せっかく集まったんだし、言い合いしてても仕方ない・・・し・・・・・・。ごめんなさい、なんでもないです・・・」


 月が雰囲気を変えようとなるべく明るい声で発言するも、暗く沈んだ空気の重さに負けてしまう。

 背中を丸めて縮こまってしまった月の腕を引いて胸に抱き寄せる。


「よしよし、頑張ったね」


 そう言って彼女の頭を撫でると、今にも泣きそうな目を俺に向けてくる。

 残念ながら、今から片付けしましょうなんて空気にはなりそうもない。


「片付けはまた明日にして今日はもう帰ろうか」


 月を抱いたまま1歩前に出て俺がそう言うと、賛成の声こそ聞こえなかったが、みんなはゆっくりと散り散りに去っていく。

 そして、この場に残ったのは、俺と月、善夜も夏木さんに松田さんと高坂くん、それから3組の5人だけだった。


「ごめん。ワタシが空気悪くした」


 言い過ぎたと思ったのか、夏木さんが俺たちに謝ってくる。


 みんなの気持ちも理解できるし、夏木さんの言う事も正しいと思うので、俺には、ここに居た人たちの誰が悪いなんて事は判断できない。いや、たぶん誰も悪くない。


 うちのクラスメイトたちが文句を言い出したのは悪い事だと思うが、文句を言いたくなる気持ちも分かってしまうのが複雑なところだ。


「光は悪くないよ。空気を変えられなかった私が悪いんだよ」


「いや、実行委員なのにまとめきれなかった俺が悪いよ」


「高坂くんが悪いなら、同じ実行委員の私も悪いですよ」


 月まで自分を責め、それに続くように、この場に残っていた高坂くんと松田さんまで謝り始める。このままでは3組メンバーが余計に自分たちを責め、負の連鎖が続いてしまう。


「誰も悪くないと思うよ。今日は俺たちも帰ろう?」


 残ったメンバーで少しでも片付けを、とも思ったが、こうなってしまってはそれすら叶わないだろう。


 今日、こんな事になった原因は分かっている。ようは3組がちゃんと参加してくれればいいのだ。

 帰りながら職員室に寄って、桜木先生に相談してみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る