第219話 安心できる

story teller ~九十九朝日~


 薬を飲んだことで、楓さんの調子は朝より良くなったように見える。


「ごめんね2人とも。色々ありがとう」


 喉もやられているのか、楓さんの声はガラガラであり、呼吸も少し荒い。

 そんな弱った彼女を見ていると、なぜか不安になってくる。

 ただの風邪のはずだし、さっき薬も飲んだので心配いらないと思う。それが分かっていても焦燥感に駆られ、意味もなく立ったり座ったりを繰り返す。


「もう!兄貴は邪魔だから出てってよ。楓さんが落ち着けないでしょ」


 楓さんにお粥を食べさせようとしていた真昼に注意され、仕方なくリビングに出る。

 テレビをつけ、音量を小さくして眺めるも、隣の部屋が気になって仕方ない。


 風邪なんて誰でもひくし、真昼が風邪をひいた時はこんな不安にならなかった。なのに、なんで楓さんが弱っているのを見るとこんなにも不安になるのだろうか。


 何かしなければならないという使命感の様なものを感じるが、寝室に入っても真昼に追い出されるのが目に見えている。


 ______


 少しすると、真昼が部屋から出てきた。

 手には空になったは皿を持っているので、楓さんは食欲はあるのだと分かり安心する。


「大丈夫そうだったか?」


「うん。今寝たから静かにね?」


 真昼と小声でやり取りをし、静かに時間を潰す。

 普段なら適当にスマホを触ったり、テレビを見たりしていれば過ぎる時間も、こういう時は過ぎるのが遅く感じるのはなんなのだろうか。


「ふぁぁ〜・・・」


 俺と2人きりだからか、真昼は大きく開いた口を隠すことなくあくびをする。静かすぎて眠くなってきたのだろう。

 寝てていいよと伝えると、真昼はこくんと頷き壁際のソファで横になり、すぐに小さな寝息が聞こえてくる。

 その寝息を聞いていると、俺も次第に眠くなり、気がつけばテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。


 ______


 カタンッ。


 小さな物音で目が覚める。

 なんの音だろうかと周りを見渡すと、キッチンに楓さんがいて、水をコップに注ごうとしていた。


「俺がやるよ」


 そう声をかけると、楓さんは俺を一瞥してよろしくと言うように場所を空ける。


「ごめんね。起こしちゃった?」


「ううん、大丈夫。体調はどう?少しは良くなった?」


 コップに水を注ぎながら確認すると、さっきよりは楽になったよと返ってくる。

 顔色も先程よりは良いので、薬の効果が出たのだろう。


 楓さんが水を飲むのを待ち、それから体を支えて寝室まで連れていき、ベッドに寝かせる。


「ありがとう」


 頑張って作ったような笑顔でお礼を言われ、病人なんだから気にしないでと伝える。


「じゃあリビングに居るから、なにかあったら呼んで?」


 そう言って寝室を出ようと立ち上がる俺の腕が掴まれる。


「どうした?」


「・・・寝れるまでここにいて欲しいな。1人だと寂しくて寝れなさそうだから」


 ダメ?とうるうるとした瞳を俺に向け、掴んだ腕をギュッと強く握りしめながら聞いてくる楓さん。

 その表情に不覚にもドキドキしてしまう。相手は病人だと言うのに。


「ダメじゃないけど、真昼のがいいんじゃないか?呼んでこようか?」


 さっきも真昼と一緒だったから安心して眠れたのかもしれない。

 それなら真昼をと思ったが、楓さんはそうじゃなかった様だ。


「ううん。・・・朝日くんがいい。寝るまでだから。いいかな?」


 そんな言われ方をすると断れない。

 部屋から出るのを諦めて、ベッドの横に座る。


 いつもならこんな甘えるような事はして来ないはず。これも熱のせいなのか?


 俺が残ることに安心したのか、笑顔になる楓さんの手を取る。

 他意はなかった。ただなんとなくそうした方がいいと思った。


 楓さんの手はとても熱く、さっきよりは良くなっていても、これじゃあまだ辛いはずだ。


「ありがとう。手繋いでると安心する」


「それならよかった。寝るまで繋いでるから」


 彼女は、再度ありがとうと言うと、目を閉じる。


 さっきまで俺も不安だったはずなのに、楓さんと手を繋いでいると心が落ち着くのを感じる。

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