第216話 得られた協力と新しい友だち?

story teller ~四宮太陽~


「あぁ。そういう勘違いをさせてしまった訳か・・・。明日、純奈に謝らないと」


「いや、謝ったら余計に怒ると思うからいつも通りにすればいいと思うよ」


 内海さんが今の時点で獅子王くんの事を恋愛的な意味で好きという事は、彼女の反応的になさそうだったが、もしかすると今日の事で意識し出す可能性もある。それならば謝らない方が吉だろう。


 しかし、その辺のことをまだよく理解出来ていない獅子王くんは、えっ悪い事をしたら謝るべきなんじゃねぇの?と言って、頭を悩ませている。彼にはこれから勉強してもらわなければいけない。


「よくわかんねぇけど、とりあえず明日はいつも通りにするわ。それよか、太陽はここに何しに来たんだ?おれ様の様子見に来ただけか?」


 そういえば、ここに来たもう1つの目的を忘れていた。

 俺が九十九からされた提案を獅子王くんに伝えると、彼は二つ返事でOKしてくれた。


「ほんとにいいの?」


「いいぜ。それで太陽たちに絡んでくる奴が1人でも減るなら、むしろ願ったり叶ったりだろ」


「ありがとう。でも無茶はしないでくれよ?無理にでも関わって来るやつがいたらその時はちゃんと相談して欲しい」


「こっちこそ。心配してくれてありがとうな。常に連絡は取り合えるようにしとこうぜ」


 獅子王くんは俺に向かって親指を立てると、じゃあ穴原にも話しに行くかとベッドから降り始める。


「歩いて大丈夫なの?」


「問題ない。どっちみちそろそろ退院だからな。傷もほとんど塞がってる」


 ちゃんと医者から歩き回ってもいいと許可を貰っているのかいささか疑問だが、獅子王くんは止めても止まらなさそうなので、とりあえずなにかあれば支えられるように身構えておこう。


 それにしても、ずっと寝たきりだったからなのか、よく見ると彼の手足は入院前に比べて細くなっている気がする。


 獅子王くんは穴原の病室の前に着くと、ノックすらせずに扉を開ける。

 それはさすがに無礼過ぎないか?と思ったが、病室の主である穴原は、そんな事よりも、俺と獅子王くんが入ってきたことに動揺していた。


「なな、なんだよ!何しに来たんだ!」


 穴原は隠れるように布団を頭まで被りそう言ってくる。

 必要以上にビビられているが、あんな事があったのだから仕方ないだろう。

 しかし、このままでは話をした所で協力は得られない。


「ビビらないで下さい。あの時の事はすみませんでした。・・・今日は話をしに来ただけです。手は出さないと約束します」


 あまり距離を詰めず、扉の前から声をかけるも穴原は布団から出てこない。

 それを歯痒く思ったのか、獅子王くんは穴原のベッドに近づき、布団を奪い取ろうとする。


「そんなんじゃ話できねぇだろ。出て来いや」


「獅子王くん、ダメだよ」


 俺が獅子王くんの腕を掴んで止めると、でもよと一言言って俺を見るが、じっと目を合わせていると諦めたように、わかったよと手を引っこめる。


「そのままでいいんで聞いてください」


 返事はないが、獅子王くんに話した内容と同じ事を穴原に伝える。

 ちゃんと聞いているか分からなかったが、話終わると彼は布団から顔だけ出してくる。


「・・・それ俺にはどんなメリットがあるんだよ」


「メリットとか関係ねぇよ。四の五の言わずに協力しろ」


「獅子王くん!・・・・・・正直穴原さんにはメリットはないと思います。自分勝手なお願いなので断られても仕方ないです。話聞いてくれてありがとうございました」


 断られることはなんとなく予想していた。だからすぐに諦めもついた。

 だけど、獅子王くんは納得いっていないようで、穴原に対してなんでだよ!と続けている。


「友だちからのお願いなのにメリットとか関係ないだろ!」


 ん?今なんて言った?友だち・・・?誰と誰が?


 俺と同じ疑問が浮かんだようで、穴原も何言ってんだこいつと言う表情を浮かべて、獅子王くんに問いかける。


「待ってくれ。友だちって誰が?」


「ん?おれ様たち3人はもう友だちだろ?」


 友だちになるタイミングなんてあっただろうか。

 そう思ったが、獅子王くんの仲では友だちという事を信じてやまない様子で、俺と穴原の反応を逆に疑問に思っているようだ。


「2人ともどうした?おれ様なにかおかしな事言ったか?」


「おかしいってか・・・。俺たちはいつから友だちなんだ?友だちになったタイミングあったか?」


「まじで何言ってんだよ。おれ様たちは1度拳を交えたんだ。そしたらもう友だちだろ?」


 ああ、そういう事か。獅子王くんは純粋すぎる。

 だが、穴原もどちらかと言うと獅子王くん寄りだったようだ。彼の言葉を聞いて、照れたように1度布団から出した顔を再度布団に隠す。乙女かよ。


「そ、そういう事なら友だちって事になるな。そうか、友だちか・・・」


「そうだぜ。友だちのお願いなら聞くしかないだろ?」


「確かにそうだな。お前のいう事は一理ある。いや一理しかない!よしわかった!俺も太陽に協力するぜ!」


 既に太陽呼びだし、一理しかないってなんだ?初めて聞いたんだけど。なんとなく言いたいことは伝わるからツッコまないけど。


 それにしても穴原も単純だ、単純すぎる。でも今はその単純さがありがたい。


「その前に、友だちならお前らにちゃんと謝らないといけないな」


 穴原は布団から顔を出し、上半身を起こしてから真面目な表情を浮かべる。


「謝る?なにを?」


「まずは獅子王。お前をリンチした事だ、やり過ぎたと思ってる。ごめんな。それから太陽。殴ってすまんかった」


 俺たちに深く頭を下げる穴原だったが、それなら俺も同じだと思い、病室に入ってきた時にも一言謝ったが、穴原に倣って再度謝る。彼は気にするなと笑顔を向けてくれる。入院までさせてしまったのに笑顔で許してくれるなんて、この人は聖人かなにかか?


 獅子王くんも俺に続いて謝り、俺たち3人は和解?したのだった。


 それにしても、この人たちはなんて純粋で真っ直ぐなのだろうか。

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