第215話 無知な獅子王
story teller ~四宮太陽~
土曜日の昼。
お見舞いと九十九の提案を話すために獅子王くんの病室を訪れていた。
「今日は春風と一緒じゃないんだね。ずっと一緒にいると思ってたけど」
病室には既に内海さんがいて、俺が1人で訪れたことを珍しく思っているようだ。
未だに登校時や学校にいる時、バイトのない放課後から休日まで、ほとんどの時間を月と一緒に過ごしているので、内海さんが珍しがるのも納得出来る。
とはいえ、今日は家族で出かける予定があるらしいので別々。そういう日もあるだけなのだ。
それを伝えると、内海さんは興味なさそうにふーんとスマホをいじり出した。自分から聞いてきたくせに。
まぁいいやと俺はベッドから上半身だけを起こしていた獅子王くんに話しかける。
「病院食だけだと味飽きしてるかと思って、お菓子買ってきた。食べ物って勝手に持ってきていいのかわかんないけど」
「まじで?めちゃくちゃありがたいぜ!」
病院食は栄養を考えて作られているはずなので、勝手にこういうのを持ってきていいのか不安だったが、獅子王くんが笑顔で袋を受け取ってくれるので良しとしよう。
「えーいいな。あたしも食べたいんだけど」
「純奈も一緒に食べようぜ!いいよな?」
獅子王くんが俺に確認してくるが、彼に渡した時点で決定権は獅子王くんにある。
俺がいいんじゃない?と答えると、早速お菓子を1つ取り出し開け始める。
「ほれで?きょーはほうした?」
「食べてからでいいから」
恐らく、それで?今日はどうした?と言いたいのだろうが、嬉しそうにポテチを口いっぱいに頬張る獅子王くんは上手く喋れていない。
ニッコニコな笑顔でほうふる!と獅子王くんが答えるので、俺はその間内海さんと話しておこうと話題を振る事にする。彼女もポテチを口に入れているが、獅子王くんみたいに頬張っている訳ではないので問題なく話せるだろう。
「内海さんは毎日ここに来てるらしいね?」
「ん。まぁそうだね。どうせ暇だし」
「暇なんだ。内海さんってさ、獅子王くんの事好きなの?」
俺が気になっていたことを口にすると、内海さんははぁ?と言いながら俺を睨んでくる。
「んなわけないでしょ。四宮ってそういう話が好きなの?」
「そういう訳じゃないけど、毎日来るって好きだからなのかと思って気になっただけだよ」
「なんでもそっちに繋げないで。そんなんじゃないから。仮にそうだとしても稲牙本人の前で普通聞かないでしょ」
内海さんはそういう話が苦手かもしれないし、そうじゃなかったとしても、本人の前で振る話題じゃなかったと俺が1人で反省していると、頬張っていたポテチを飲み込んだ獅子王くんが話に混ざって来た。
「おれ様は純奈の事好きだけどな」
「えっ!?」
「んなっ!?はぁ!?」
俺と内海さんは獅子王くんの言ったことに驚く。
「えっ。いつから内海さんの事好きだったの?」
「ん?最近だけど?」
おお。毎日お見舞いに来てくれるから意識しだしたのかな。もしかして俺、2人の邪魔してる?
「えっ。あ、あたしの事好きになるタイミングなんてあったっけ?」
信じられないとでも言うように、内海さんは獅子王くんに確認する。頬を赤く染めているので、内海さんは完全に意識してしまっているようだ。
「最近おれ様の親が来た時だな。あの時の純奈かっこよかったし」
「はっ?待って待って。かっこいい?」
「おう。かっこよかったぜ?」
なんの話か分からないが、獅子王くんの言う好きって言葉が俺と内海さんの思う好きとなんとなく違う気がするような・・・。
「獅子王くんの内海さんに対しての好きって友だちとして的な感じ?」
「ん?そういう話じゃないのか?」
やっぱり。もしかして獅子王くんってそういう話に疎いのか?
ん?どういう事だ?と頭に?を浮かべる獅子王くんだったが、俺の隣に座っている内海さんは俯いたまま震えている。
髪で隠れていて表情は見えないが、俺は彼女から発される雰囲気を察して、椅子ごと距離を取る。
「――しいのよ」
「ん?どうした?」
何かをボソッと呟く内海さんに、なにも気づいていない獅子王くんが顔を近づける。
「ややこしいのよ!一瞬でも意識したあたしがバカみたいじゃん!」
「えっ?なんで急に怒ってんだ?意識ってなに?」
「んーーー!!もういい!あたし帰る!」
そう言って自分のカバンを取り、内海さんは病室から出ていく。
だが、扉を閉める時にまた明日!と捨て台詞を吐いていた。ちゃんと明日も来るんだ。
「なぁ太陽。純奈はなんで怒ってたんだ?」
鈍感にも程がある。
はぁとため息を吐いて、ベッドの上の無知な男の子に今の話を説明するのだった。
明日、この2人はどんな顔で一緒に過ごすんだろうか。めちゃくちゃ気になる。
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