第212話 来ないクラスメイトたちといい教師
story teller ~四宮太陽~
朝のHRの後、月が桜木先生に呼ばれていたので、席に戻ってきたタイミングでなんの話をしていたのか聞いてみると、文化祭で使う予定の空き教室には使われなくなった備品が詰め込まれていたので、それをどうするかって話だったらしい。
「そんなにたくさんあったの?」
「うん。足の踏み場というか、天井まで机や椅子が敷き詰められてたんだ。他に使える教室はないかって確認してもらったんだけど、空き教室は全部他のクラスが使用予定らしくて、1組と3組は別々に文化祭に参加するか、あの空き教室を片付けるかどっちかしかないんだって。とりあえず今から斉藤さんと原田くんに報告してくるね」
「それなら俺もいくよ。一応話し合いには参加したし、月に任せっぱなしは申し訳ないから」
気にしなくていいのにと言われたが、拒否はされなかったので一緒に3組まで着いていく。
俺たちは3組の教室を覗き込み、斉藤さんたちを探していると、向こうもこちらに気づいたらしく、入口まで来てくれた。
「春風さんに四宮くん。どうしたんですか?」
斉藤さんに問われ、月が桜木先生から聞いた話を伝えると、2人は少し考えたあと、考えを口にする。
「別々にするよりは、お互いのクラスで協力して片付けた方がいいですよね?幸い、文化祭まではまだ時間もありますし」
「そうだよね。大変だと思うけど、みんなで片付ければすぐ終わるよね!」
斉藤さんの考えを聞いた月も、私もそう思ってたとばかりに、斉藤さんに同調する。
「じゃあクラスのみんなに片付けに参加して貰えるようにお願いしておきますね」
「ありがとう!私もクラスの実行委員にそれを伝えておくね!」
早速今日の放課後から片付けを始めることになった。
あとで桜木先生にも報告して、空き教室の物をどこに移動させたらいいか確認しておこう。
______
そして迎えた放課後。
空き教室の前に集まった人数は、1組から俺と月、夏木さんと善夜、それと実行委員の松田さんと高坂くんの6人。3組からは斉藤さんと原田くんの2人の合計8人だった。
「すみません。クラスメイトに声掛けしたんですが、まだ文化祭まで時間あるしって言われて・・・」
「いや、大丈夫だよ。俺たちこそごめん」
原田くんは申し訳なさそうに頭を下げてくる。
しかし、それは俺たちのクラスも同じであり、松田さんと高坂くんがSHRで声掛けしたにも関わらず、いつものメンバー以外は集まらなかった。
「これは聞いてたよりも凄いことになってるね」
「今日中には無理だね」
俺と善夜、それから松田さんと高坂くんの4人は、空き教室の扉を開け、想像以上の有様に圧倒される。
そんな俺たちを見て、夏木さんはそうなるよねと同調してくる。
「この人数でこれは骨が折れそうだけど、あとで桜木先生も手伝いに来てくれるらしいし、少しでも進めよう!」
やる気を削がれてしまった俺たちを鼓舞するように、月が元気よくそう言う。
こんな時、月の前向きで明るい性格がありがたい。
「みんなゆっくりね!時間はまだあるから怪我だけはしないように!」
去年の骨折の事もあるので、俺はみんなに注意を促しながら天井まで積み上げられた机や椅子を降ろしていく。
入口が狭いため、みんなで1列に並び、バケツリレー方式で廊下に並べていく。
「あれ?お前らだけか?」
片付けを初めて約10分。黙々と進めていると桜木先生がやってきた。
「はい。俺たち以外誰も来てません」
「はぁ。わかった、じゃあ明日、は土曜日だからダメだな。月曜日に俺からも話すよ。とりあえず俺は廊下に出てるのを運べばいいか?」
桜木先生は廊下に出されている机を持ち上げながら聞いてくる。
自分の仕事もあるはずなのに、ほんとにありがたい。
「俺も行きますよ」
この机や椅子はもう使わないとの事で、ゴミ捨て場の横の空いているスペースに並べて置いてくれと言われていたので、俺も桜木先生と一緒にそこまで運ぶ役に回る事にする。
廊下から非常階段を経由して1階に降り、裏手にあるゴミ捨て場まで移動していると、桜木先生はふと俺に聞いてくる。
「そういえば、春風と何かあったのか?」
「えっ?」
「最近のお前らは
月は分かるけど、俺もクラスの中心になってるの?と思うが、月の彼氏となると、それだけで教室では目立ってしまうのだろう。
桜木先生は、もちろん周りに気を使って、無理に空気を良くしろって事じゃないけどな?と付け加える。
「もし何かあって、相談できる人がいないなら、俺でよければ話くらいは聞くぞって事だ。今はもう、いつも通りに戻ってるように見えるから解決してるかもしれないけどな」
まぁ未婚の教師に話したくないかもしれないけどな!と続けて自虐を口にしながら笑う桜木先生を見て、ありがたいと感じる。先生なりに、気を使ってくれているのだろう。
その踏み込みすぎない感じがとてもいい距離感であり、嬉しく思う。
「ところで、乱橋は元気か?校内で見かける時は大体1人なんだが、友だちとかできてないのか?」
「乱橋さんも元気ですよ。クラスにはまだ友だちらしい友だちはいないみたいです。・・・他のクラスですが、最近友だちも出来てますよ」
他のクラスであるにも関わらず、桜木先生はずっと乱橋さんの事を心配していたのだろう。
友だちが出来たという俺の言葉を聞いて、ホントか!と顔を明るくしている。
「内海さんって覚えてます?」
「確か・・・、乱橋をいじめていた女生徒か?」
「そうです。その内海さんが乱橋さんの新しい友だちです」
話そうかどうか迷ったが、後から乱橋さんと内海さんが一緒にいる所を桜木先生が目撃して、誤解でもされたらややこしくなるかもしれないと思い、素直に話す。
驚かせてしまうかもと思ったが、俺の予想とは違い、桜木先生は安堵の表情を浮かべ、そうかと一言呟く。
「驚かないんですか?」
「少し驚いたさ。でも内海が乱橋に謝って仲直りしたんだろ?」
「なんでわかったんですか?」
「なんとなくだよ。内海は俺や教頭先生との話し合いの時、他の女生徒が不貞腐れた態度で俺たちの話を聞き流す中、1人だけちゃんと話を聞いてるように見えたからな。それに、お前や乱橋、春風や他の仲のいいお前らの友だちも、内海がちゃんと謝ればそれを受け入れる奴らだって知ってるしな」
この先生はほんとに生徒の事をちゃんと見ているのだとわかる。
内海さんとちゃんと顔を合わせて話したのもきっと短い時間だっただろう。しかもいじめの話し合いという、普通の状況じゃない場面で生徒一人一人にしっかり目を配り、表情や態度からこの生徒が何を考えて、どう感じているかを読み解くのは容易じゃないはずだ。
「俺、先生の生徒でよかったです」
「やめとけ。俺は男には興味無いんだ」
生徒と教師。2人の男の楽しそうな笑い声が辺りに響いていた。
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